205 謎の世界と謎の女の子 6
男が目覚めると、そこは見覚えのない山の中。
近くにある宿泊施設の従業員、着物少女の冥子に起こされ、なんやかんやあって『おもてなし』される流れに。
スカイダイビングを堪能(?)し終わり、息を整えていた時、ふと……
どこからともなく、子供の声が聞こえた。
今居るのは、気球があった所の草原を囲む森近くで……
森の奥から、声が聞こえたのだ。
それに、声だけではない。
音楽だ。
陽気な音楽。
まるで……
『遊園地』に流れていそうなBGMで……
「ガキの声だってんなら、ウチのガキどもかもしれねぇな」
「あ、ああ……そうか、そうだよね」
何か音楽でも流しながら森の中で遊んでいるのかもしれない。
そうだよね。
森の奥に、実際に『遊園地がある』とかないよな……。
そして、夕方。
「何食うかなー。何しようかなー」
「疲れた……お腹もまだ空いてない……」
今の俺達は、かねこりの館に向かってる途中だ。
無料でもてなして貰ってる立場でなんだが、もう風呂に入って横になりたい。
半日の間に、暑さと恐怖で汗もかきまくったし、汗を流したい。
「さ、先にお風呂、頂いてもいいかな?」
「あん? これからまだ汗かくのにか?」
「な、何やらされるか分かんないけど、一度スッキリしたいなって。それに、今の俺、汗くさいでしょ?」
「汗?」
すんすん と冥子さんは俺の近くで鼻をヒクヒクさせて、
「いや、別に……てか嗅いだことない匂いだな……これが男の……意外と……(すんすん)」
「ちょ……そ、そんなに嗅がないでっ」
近付く冥子さんの匂いも鼻をくすぐる。
花のような甘い香りにドキリ。
「まぁお前が風呂に入りたいってんなら用意しなきゃな。私も私で準備するか」
「準備……?」
チャプ チャプン……
「ふぅ」
かねこりの館に戻ると、既に温泉に入れる用意はされていた。
多分24時間入れる場所なんだろうが、俺が脱衣所に入ると、着替えなどが既に置かれていたのだ。
何という至れり尽くせり。
本当、タダで寛ぐのも悪いから、帰り次第料金を送金しないと。
これだけのもてなしだ、凄く高そうだが。
……帰ったら、か。
そもそも、未だに記憶が曖昧な俺だ。
帰る家すらどこか覚えてないんだぞ?
また少し、現状を整理しないとな。
殆どがだだっ広い森だけのこの世界……
俺ら以外誰もいないのに都合良く準備はされていて……
ここの従業員である冥子さん達は殆どここから出る機会が無くって……
そして、一度ここから出た従業員はここに戻る事が無くって……
改めて、一体なんなんだろうな、ここは。
悪い場所じゃない。
寧ろ、心地よくって『天国』みたいな場所。
だからこそ、話がうますぎる。
鍵を握るのはやはり、皆の保護者だという、かねこりの館の女将さん。
脳裏をよぎったのは、良くある昔話。
旅人を招いて厚くもてなした旅館は妖怪の罠で、人間を肥えさせて食う目的があった、という話。
……そうだったとしても、俺一人食う為に、コスパが悪過ぎるな?
こんな、人の来なさそうな田舎で。
実際、滅多に客が来ないという利益度外視な宿の経営をしていて。
更には(恐らく)多くの従業員の子を住まわせていて。
一体。
女将さんには、どんな目的が……?
チャプ チャプン……
「はぁ。考えるだけ無駄だなぁ。いい湯だぁ」
なんて、気持ちよさに思考停止し、独り言が出るほどにリラックスしていると、
ガラララ!
「え?」
突然横に滑る、浴室の引き戸。
ふわりと湯気が脱衣所へ逃げて行く。
「おら! 背中流しに来たぞ!」
足で引いたのか、片足が浮いてる体勢。
バスタオル一枚の冥子さんが、そこにはいた。
……ハッ! となった俺は急いで彼女に背を向け、
「ちょっ! そ、そういうおもてなしはいいからっ」
「遠慮すんなよ。ホントはタオルもいらねぇが決まりでよっ」
「守ってくれて助かるよっ!」
目を逸らす前に、俺はしっかりとソレを見ていた。
小ぶりながら、タオルを押し上げる二つの膨らみ。
「良いから出ろっ(グイーッ)」
「ひ、引っ張らないでっ。せめてタオル巻かせてっ」
結局、冥子さんに背中を流される俺。
ゴシッ! ゴシッ!
と、タワシで擦られてるような痛さ。
一生懸命だから何も言えない。
それに……
時折ぷにっと背中に当たる【モノ】……。
後ろが終わったから、と彼女は次に『前』もやろうとして、流石に抵抗する俺。
揉みくちゃになり、結果、石鹸でヌルッとなって俺が冥子さんを押し倒すという漫画みたいな展開に。
数秒の沈黙の後
ハッ!
と お互いまた異性を意識する空気に。
「じゃ、じゃあさっさと上げれよ!」
なんて焦ったように、ササッと彼女は浴室を出て行った。
……とりあえず、体の泡を落とすか。
「お、出て来たか。じゃあ行くぞっ」
「風呂上がりなのにすぐに汗をかきそうな予感……」
玄関まで行くと、冥子さんが待っていたので外に出て、目的地も分からぬまま歩き出す。
先程の気まずい空気は既になく、いつもの調子で少し安心。
薄暗くなった外。
ペタラペタラ リーリー
二人の草履の足音と虫の音だけが響いている。




