204 謎の世界と謎の女の子 5
男が目覚めると、そこは見覚えのない山の中。
近くにある宿泊施設の従業員、着物少女の冥子に起こされ、なんやかんやあって『おもてなし』される流れに。
今は河原でバーベキューをし、スイカ割りをして二人で食べようとしたわけだが…………
「さっ、デザート食うぞっ」
「えっ、一人半玉!?」
「足りねぇか? ウチは基本一人一個だからなぁ」
……小振りなスイカなら分かるが、彼女はこの大玉サイズを標準みたいに言ってるんだろうなぁ。
というか、これ、俺が使ったのと同じ木刀で割ったんだよね? まるで、刃物を使ったかのように綺麗割れ……いや、切れてる。
冥子さんが何かを手に持ってる時は怒らせないようにしよう。
で……何とかスイカを食べ終えるとすぐに
「川遊びすんぞっ」
と冥子さんはどこかに走り出す。
その先にあったのは、
「おっ、カヤックだ!」
乗った事のないカヌーみたいな一人用の船? カヤック乗せられた俺は、
「うわぁ!?」
川に落ちたり流されかけたりとグダグダな動きで冥子さんを笑わせ……
「おっ、カブトいるぞ!」
川遊びを満喫(?)し川から離れた俺達は、すぐ近くの森に入って散策を開始。
何をするかも分からぬまま子ガモのように冥子さんについて行くと、彼女は木に止まった虫を見つけテンションを上げていて。
「わぁ、でかいカブトムシ……てかこれ、コーカサスオオカブトとかじゃない……?」
「こんなんこの森にゃゴロゴロいるぞ? 味はノーマルのとかセミの方が美味いがな」
「味……?」
「おっ? あそこにヘラクレスがっ(ヨジヨジ)」
「ものすごい速さで木に登って……」
「あっ(ポロッ)」
「ちょっ、危ない!」
俺は無我夢中で、落ちて来る冥子さんを トンッ とキャッチ。
掴んだ時の衝撃は少ない。
そのパワフルさとは裏腹に、見た目通り、彼女は軽かった。
やはり女の子なんだな、と意識してしまい、ドキリと心臓が揺れる。
自分が落ちた事に驚いたのか、茫然とした顔だ俺を見ていた彼女だが、ハッとなり、
「わ、悪いなっ」
「い、いや、」
木陰で分かりづらいが、今、彼女の顔は赤く見えて。
「お前……情けないように見えてなかなか……」
「え?」
「い、いや、何でもねぇ!」
そんな微妙な空気になったり……
「おっ、スカイダイビングすんぞ!」
「え!?」
俺は何かの聞き間違いかと耳を疑う。
虫取りが終わり、森を抜けると、俺達は広い草原に出た。
そこにはドンッと、気球が鎮座していて。
「さぁ乗れっ」
「えっ? 操作出来るの?」
「隣で見た事はあるから大船に乗ったつもりで乗れ!」
「泥舟になるフリでしょそれ……」
無理矢理気球に乗せられた後 フワリ 気球は何とか浮かび……逃げるには色々と手遅れな高さまで上がる。
空高くから眺めた、この世界…………それに、俺は唖然とする。
先程までいた河原、その側には虫取りをした小さな森、抜けた先には今飛び立った草原、そこから俺が寝ていた場所であろう木の場所は案外近く、小さな田んぼ、そして、かねこりの館が奥の方に見えて……
「あれ? あそこに見える……『村』みたいのは?」
「あん?」
集落、といえばいいのか。
奥の方にスンッと、数軒の家が集まっている場所があった。
他にも住人がいると?
「さぁな。誰も住んでねぇけど昔からあるらしい。お袋も『気にするな』ってよ」
「な、なんだが不気味だね……」
そんな集落を除けば、それ以外は、全て森。
奥の方も見渡す限り緑の土地が続いていて、山も町も何も見えない。
まるで、素人が作ったゲームのマップ。
森の中にポツンと人が住めるスペースを作ったような、そんな、自然の牢獄。
冥子さんは特に反応はしない。
彼女は何も疑問に思っていない。
さっき冥子さんは、この場所を『出た』人達が居ると言った。
その人達は、どこに行ったんだ? どこから出て行った?
俺は、妄想してまう。
皆がこの世界に『閉じ込められてる』 ……なんて、それこそゲームみたいなそんな話を。
「いやぁ、やっぱり外からの眺めは気持ち良いなぁ。なぁ?」
「え? あ、う、うん。……というか、これ、降りられるの……?」
「問題ねー。じゃあ、そろそろ飛び降りるぞっ」
「さっきの聞き間違いじゃなかったっ。い、いや、『死ぬ』でしょ……第一、俺らが落ちたらこの気球はどうするの?」
「気にすんなっ、お袋辺りが回収するっ。それに、落ちてもここにパラシュートあるから大丈夫だよっ。ほら行くぞっ」
「一つしかないじゃないか! ちょっ、待っ…………うわあああ!!!」
「はぁ……はぁ……」
「おいおい、顔青すぎだろ(笑)」
「一つのパラシュートで頭身自殺紛いの事されたら息も荒くなるよ……」
パラシュートを背負った冥子さんに後ろからハグされるように抱えられ、落下する俺達。
気球なのでそこまでの高度でもなく、素早くパラシュートを開かなければ手遅れとなってしまうが、冥子さんはギリギリ感を楽しんでいるのか全く開く素振りがなく。
結局はギリギリ(アウト)なタイミングでパラシュートは開かれ、地面スレスレで衝突は免れた。
彼女に手を離されたら普通に死んでたな……?
「さぁて、次はどんなモてなしすっかなー」
「す、少し休ませ…………ん?」
それは、幻聴だと思った。
キャッキャ アハハ ワーワー
「……子供の、声?」
「あん?」
子供の声が聞こえた。




