203 謎の世界と謎の女の子 4
男が目覚めると、そこは見覚えのない山の中。
近くにある宿泊施設の従業員、着物少女の冥子に起こされ、なんやかんやあって『おもてなし』される流れに。
先ずは、河原で釣りとバーベキューを始めたわけだが…………
「ったく。火も起こせねーのか? 男ってのは情けねぇなぁ」
「ご、ごめん。キャンプの経験とか無くって……一般的な男ならテキパキ出来ると思うよ?」
「人に教わるもんじゃねぇだろこんなもんは。ウチの小さなガキでも一人で獲物の調達から調理まで出来るぞ」
「立派だね……もういっそ、ここで俺を鍛えて貰おうかな? なんて」
「ハッ(笑)、お袋に会ったら打診してみな。ガキ共も初めて見る男に大ハシャギだぜ?」
「じょ、冗談だから……」
網の上でジュージューと良い音を鳴らす食材たち。
肉やさっき釣った川魚、玉ねぎやトウモロコシなどの野菜が、隙間無く埋め尽くされている。
焼けたものを口に運ぶと……肉も魚も脂がのってジューシーで、野菜も甘味や味が濃く、全てが絶品(語彙力皆無)。
美味しさ=値段では無いと思うが、素人の俺でもこれらの食材が良いものとわかる。
余計な心配だが、こんな一級品を金も無い俺にホイホイ出して、経営的に大丈夫なのか……?
近くに知り合いの農家とか、漁師が居たり……?
「ほらほらっ、箸が止まってんぞっ、遠慮せずもっと食え食えっ」
「う、うんっ」
うまい……うまいけど……量が多い。
明らかに二人分の量じゃないのに、冥子さんは次々と空いた網の上に食材を置いていく。
いやいや……これまさか、全部食べ切るつもり? まだ焼いてないクーラーボックスの中身を全部?
「(モグモグ)さっさと網の上空にして焼きそば食うぞー」
「ええ……」
焼きそばの麺まで完備。
冥子さんはまだまだ余裕らしい。
「こ、これが今日一日分のご飯?」
「(モグモグ)いや? 夜は夜で食うが?」
「そ、そう……」
「なんだぁその顔は? まさかもうギブか? ウチのガキでもまだまだ余裕だぞ。男ってもっと食えるんじゃねぇのかよ?」
「それも人によりけりだから……随分とステレオタイプな情報しかないみたいだけど、ホント、君は男を見た事がないんだね」
「私は無いが、(従業員の中に)ある奴はあるぞ」
「男は希少な動物じゃあないんだけどなぁ」
真面目に、俺はどこに迷い込んでしまったんだ?
男が居ない世界?
まるで『別の世界』のようだ。
「(モグモグ)さっきも言ったが、私は赤ん坊の頃からここに居た。んで、ここらの土地から離れた事がない。『外』に興味も無かったし、他のガキ共もそんな感じだ。まぁ……中には、ここから『出た』やつも居るが」
「出た?」
「(モグモグ)ああ。出た奴はそのまま戻って来てないな。大半は年上の奴らだが」
年も重ねた事で都会に憧れてこの場を去った、という事だろうか?
「(モグモグ)……ああ。そういえば、姉貴達はみんな、出る前に『客の』……」
「客?」
「(モグモグ)いや……アレは今考えたら……でもまさか……」
「冥子さん?」
「な、なんでもないっ。ほらっ、網空けたから焼きそばいくぞっ。網外して鉄板置けっ」
「いつの間に食べ尽くして……」
その後、冥子さんは三玉分の焼きそばを豪快にジャッジャと炒め上げ、「さぁ食うぞ!」と俺も強制的に付き合わされる。
結局俺が食えたのは0.3玉分くらいで、残りは冥子さんが平らげてくれた。
「少し物足りねぇが、デザートもあるしな」
なんて、耳を疑うような事を言い出すのは予想外だったが。
「いや……ここに来てから、予想通りだった事なんて無いか……」
「何ブツブツ言ってんだ? ほらっ、スイカ割りすんぞっ」
「ええ……普通に切って食べないの?」
「これはお前への接待だぞ? 客を楽しませなきゃならねぇんだ。遊び要素入れるのは当然だろ?」
「自分がやりたいだけじゃ……」
流れる川の水で(いつの間にやら)冷やされていたスイカを冥子さんは持って来て、地面にレジャーマットサイズの紙を敷き、そのスイカを置く。
「木の棒は……おっ、丁度良いのあんじゃんっ」
と、都合良く(!?)地面に【木刀】があったので、冥子さんはそれを拾う。
「ほらっ、目ぇ隠せっ」
「お、俺がやるの?」
「接待つったろ!」
それから、いざ始めてみるも、俺がポンコツなせいでグダグダなスイカ割りに。
冥子さんの誘導で何とかスイカまで辿り着き、思い切り叩くも、スイカはボコンと俺の木刀を弾き返す。
手応えはあったが、少し凹んだくらいで……恐らく、目隠し無しでも俺には割れなかったろう。
「情けねぇなぁ」
と冥子さんは俺から目隠しと木刀を取り、律儀に自ら目隠しを付けて、
「スイカ適当な場所に置け」
と俺に指示。
俺が最初とは違う場所にスイカを置き、
「いいよ」
と告げると……スタスタ、真っ直ぐその方向へ迷い無く歩いて……パカン!
見事、振り下ろした木刀でスイカを割った。
「な、なんで場所分かったの?」
「匂いで分かるだろ?」
獣並みの嗅覚だ……。




