201 謎の世界と謎の女の子 2
男が目覚めると、そこは見覚えのない山の中。
着物を着た少女、冥子に起こされ、とある洋館へと案内される。
その場所は、どうやら宿泊施設のようで……。
思った通り、宿泊施設のようだ。
人が来ない、というわりには、中を歩いた感じ掃除が行き届いているが。
明らかに、従業員? であろう冥子さん一人で出来る清掃整備の広さでは無い。
人が来ないのであれば一日で終わらせる必要は無いが……
「他にも従業員が?」
「あ? 従業員? ……ああ、確かに、ウチらはそういうポジなんだろうな、実感はねぇが。で、他の奴らだが……普段はこの建物の中なり外をウロウロしてんだがな」
今はいない、と。
「まぁ揃ってどっかに出掛けてんだろう。ったく……客を私一人に押し付けやがって」
「客……って、待ってくれ」
俺はズボンのポケットに手を回す。
特に膨らみの無いポケット。
「あー……今、手持ちないんだけど」
「金か? 別にタダで良いんじゃねぇか?」
「適当だな……」
あいにく、今の所食事も入浴も宿泊もしていない。
このままならギリギリ金銭は発生してない……と思うが。
「金取るなんて話聞いた事は無ぇから気にしないで良いと思うぞ。さっ、中の案内も終わったし外行くぞっ」
「えっ、また?」
「昼時だし、腹減ったろ?」
「それでなぜ外に?」
「つべこべ言わずに来いっ」
俺を引っ張って外へと連れ出す冥子さん。
カラン カラン
……どこからか、風鈴の音がした。。
少し、今の状況を整理しよう。
俺は今、どこかの田舎にいる。
目が覚めたら、いた場所だ。
多分、ここに来るのは初めてで。
その前の記憶は、何故か曖昧。
スマホも財布もなく、直前の行動を示せる材料は無い。
いわゆる、記憶喪失、というやつだろうか?
彼女……冥子さんとかねこりの館に、現状、保護して貰ってる感じだが、何ともふわふわした気分で落ち着かない。
「おっ! 気が利くじゃねぇかっ」
さて。
現在俺らが居るのは……河原。
砂利や石が敷き詰められた地面で、側には川があって。
キャンプやら釣りやらが出来るあの場所を想像して貰えば良い。
で。
俺らがかねこりの館から近い河原に着くと……既に、バーベキューの準備がされていた。
「釣り竿、モリ、虫取り網、クーラーボックス、バーベキューコンロ……夏を楽しむ道具が色々あるね」
「ウチらの為に用意したんだなっ。行き先とか目的とか何も伝えてねぇのに『あいつら』やるじゃねぇかっ」
「言わなくても分かるものかなぁ……」
冥子さんとその従業員達との信頼関係の深さはポッと出の俺には分からないので、決め付けは良くないが。
「他の従業員はどんな人達なの?」
「あん? なんだ急に」
「い、いや……普通のお宿じゃないなぁ、と思ったから」
「私は他の宿とか知らんから比べようがないが……別に、他の奴らも私と似たような年の女だぞ。少し年上の奴とか、逆にちっせーガキもいるが」
「……同世代の、女の子?」
冥子さんは小柄だが、雰囲気からして、俺と同じ高校生くらいだろう。
それを踏まえて……同世代の女の子や更に下の子、だって?
つまり、従業員は子供だけ?
少し年上もいる。と言うが、それでもせいぜい大学生くらい、か。
良いんだっけ? 労基(労働基準法)的に。
高校生以上はバイトって事で良いだろうが……
「……その、大変じゃないの? 若い人達だけで」
「別に。言ったろ? 普段から暇だって。掃除は毎日しろって、お袋はウルセェがな」
「おふくろ?」
そういえば、さっきもボソリと言っていた呼称。
「私らの『育ての親』みたいなもんだ。こう呼ぶと怒るが、ほとんど『女将』なんて呼んだりしてねぇ」
「女将……育ての親……」
口振りからして、住み込みで働いてるものとばかり……つまり、かねこりの館は施設(孤児院)のような場所?
女将は、育てた子達を従業員として使っている?
若い子に接客をさせる宿……まるで前時代的なヤバげな経営実態……だけれど……しかし。
色々と腑に落ちない。
「おいっ。他の奴らの事なんてどうでも良いだろっ、遊ぶぞっ(グイッ)」
「わわっ」
冥子さんに手を引っ張られ、思考を中断させられる。
「クーラーボックスにゃ肉と野菜しかねぇから魚獲んぞ!」
と、最初に始めた遊びは『釣り』から。
「自分の食い扶持は自分で稼げっ」と俺に竿を渡して来たんで、彼女の真似をするように、川に糸を放り込む。
釣りの経験は無いが、いざとなれば彼女に聞けばいいだろう。
ふぅ と、慌ただしかった時間から少し離れ、ひと息つく。
余裕が生まれたんで、少し周りを見渡し、ふと思う。
……不思議な川だ。
どこが? と訊かれても上手く説明出来ないが……なんというか、霧が出ているわけでも無いのに全体的に朧気な視界。
川幅もそこまで広くないのに、何故だか、すぐ向こうの岸もよく見えないし。
全てがボンヤリしていて、まるで、夢の中にいるような感覚。
いや、ここはまるで…………




