199 お嬢様とママ味
わらびちゃんと二人きり(+狐ちゃん)で遊園地デート中!
最奥まで行き、謎の祠を発見して中を確認すると、そこには使い捨てカメラが。
わらびちゃん曰く、このカメラがこの祠に入れられたのは、『使い捨てカメラが生まれるよりも前』で……
となると、時系列はこうなる。
「この祠は遊園地が出来る前からあった。扉も六十年は開けられていない。中にあったこの使い捨てカメラは、世に誕生する前からこの祠の中でひっそり息を潜めていた……と」
「ま、まぁそうなりますね」
「僕ァてっきり、この祠はどこぞの霊能者が悪霊を鎮める為に建てたのかと」
「わ、私もそう思っていたのですがね。事実は違いそうです」
「こんな祠がある場所にわざわざ遊園地建てるなんて、余程土地が安かったんかね」
当時の土地事情は知らないが、元々田舎の山だ、地価も安かろう。
隣の動物園も経営母体は一緒だから、えいやと勢いで建てた可能性もある。
今でこそ専用のバスがあったり道路が整備されているが、当時はアクセスも良くなかったろうに。
「い、いえ、逆かもしれません」
「逆?」
「こ、この祠がある場所に『建てたかった』、という意味です。若しくは、この祠の『為に』遊園地や動物園を建てたか」
「むぅ? 君はやはり何かを知ってそうだね。この使い捨てカメラにも、とんでもない秘密が?」
「ひ、秘密はありますが、この際カメラそのものは無視してもいいですよ。カメラがあるとこの祠から『変な電磁波』が出てると思ってて下さい」
「ふぅん。ならこれが虫避けの正体か。祠の中に僕の髪の毛も入れればなんかパワーアップしないかしら?」
「へ、変な悪魔合体しそうなのでやめて下さいっ」
「……ん? あれは……」
ふと、祠の後ろ。
森の入り口付近に、とある【異物】があるのに気付いた。
ポツンと一体だけ。
アレは、お地蔵様?
ジーッとこちらを監視するような、視線を感じる。
「が、合掌しているのは慈母地蔵尊でしょう」
「ポーズとかで何か意味が変わるんだっけ?」
「こ、この世に生まれる事が出来なかった胎児や一年以内に亡くなった子供……つまりは水子を祀る水子地蔵ですね。何種類かありますが、合掌しているのは慈母地蔵尊というもので、『水子の母親代わり』になってくれる慈愛に溢れた存在、だといいます」
「ママ味に溢れてオギャれる地蔵という事か」
「そ、そうですね(適当)」
偶然置かれた全く意味のないオブジェ、という事は無いだろう。
「おまじないで犠牲になった子供の為の、というやつかな?」
「ぱ、パッと見た劣化具合からして、アレも祠と同時期と思われますが……外から持って来た可能性もあるので、そこは気にしないでいいでしょう。『子供の為に』、という意味でならば、あの慈母地蔵尊の解釈は貴方ので合ってますよ」
「そんなお地蔵様が森の入り口にあるという意味……意味深だねぇ」
今更だけれど。
「祠といいカメラといい、今回の黒幕というか悪霊って、プロである君の反応を見るに、結構強キャラ?」
「……く、黒幕、という存在は、恐らく『居ません』」
「ん?そうなん?」
「か、かと言って、相手が危害を加えて来ないという意味ではありませんよ。場合によっては、今回のは私一人なら手に余る仕事だったでしょう。いや、これは仕事ではありませんが」
「僕が守護るからねっ」
「そ、その時は頼みます……」
で。
「話戻すと、カメラを見つけたはいいけど、また手詰まりって状況だね」
「そ、そうですね」
「早く助けに行きたいね。ヒーローは遅れてやってくるとは言うけど」
「ひ、ヒーロー……」
「こんな時こそ野生の力だ。狐ちゃん、女の子二人が消えた場所の手掛かりを教えて……って言っても、君は二人に会ってないから顔知らないか。じゃあ、僕に付いてる直近の女子二人分の匂いで判定して貰うか」
「ニャー? (クンクン)……ニャ!」
「お? 仕事が早いねっ。そこに手掛かりが……って」
カプッと、狐ちゃんは祠にあったカメラを口で咥え、僕の所に持って来る。
「んー? 結局、それが鍵って事かい? 君がそう判断したんなら、少しイジってみるか。もしかしたら、なにか手掛かりになる映像でも……?」
「で、デジカメではないんですから。ポラロイドと違ってすぐに現像出来るわけでもありませんし。それに、マザーハート(嫁入り道具)……それは、『真の持ち主』にしか使えない代物です」
「どんどん新しい単語と設定が出て来るな? まぁ適当に弄るだけ弄って……」
と。
何も起きないと思われていたカメラだったが……。




