【特別編 2】
「ふぅむ。地蔵盆の日から一週間かぁ」
「え? 何言ってんの? 今日同じ日(24)だよね?」
「何言ってんだいアンドナちゃん、今日は31日だよ? 何の記念日だったかなぁ」
「……もう、好きにしなよ」
ヒュゥゥゥゥゥ……
「で。遊園地最奥にある森を抜けたら変な場所に出たねぇ。なんていうか、うす暗い荒野? 空気もなんか生温ーい」
「君ここ、来た事あるんじゃないっけ?」
「そーなの?」
ガタンゴトン ガタンゴトン
「むっ、あの遠くに見える電車には既視感が……」
「イタズラしようとしないでね。あれは『死者を乗せる電車』だから」
「ああ……確かに、前にあの電車に乗ったわ。止まらないから脱線させたんだっけ」
「だからイタズラしないでって話してんのよ」
「なんだっけな……あの時はわらびちゃんに電話で聞いて……あ、そうそう。つまりここは、生者と死者の狭間の世界『神奈備』ってとこかぁ」
「観光気分で来ちゃダメなとこだよね……?」
「『遊園地回』の時に狐ちゃんが『森の奥にこういう場所がある』って報告してくれたの今思い出したわ。てか俺、何回死んでんねんって話だよね、ガハハ」
「全く笑えないんだよなぁ……もう満足したよね。さっさと帰るよ?」
「んー、折角来たのに勿体無いなぁ…………おや?」
ふわ ふわ ふわ
「なんかぷかぷか空に浮いてない? アレは……気球?」
「あー……アレは……」
「気球がこっちに降りてきたぞっ。略奪しろっ」
「蛮族じゃないんだからさぁ……」
ストンッ
「こらこらこらー! ダメっすよ一般人(生者)がここに来ちゃー!」
「しゃあ! コブラツイスト!」
「ぎゃー!」
「なにやってんの……」
「だって『30日はプロレスの日』だから……」
「今日は31日なんでしょ?」
「へ、変な会話してないで襲うのやめてほしいっす!」
「(ヒョイ)ふぅむ、このお姉さんスーツのお姉さん、頭にツノ生えてるね。何者? 気球に乗って何してたの?」
「はぁ……はぁ……ふ、普通に会話始めるんすね……じ、自分はこの地域を監視する者っす! うっかりここに迷い込んで来た人や、逃げた人に対応したりしてるっすっ」
「ふぅむ、その為の気球か。いわゆる獄卒ってやつだね。つまりそのツノの正体は鬼……抜いていい?」
「それは初めて会った人に『歯抜いていい?』って聞くのと同じ意味っす! と、兎に角! さっき言ったみたいに生者はここから去って貰うっす! 勿論記憶は消させて貰うっす!」
「しゃあ! パロスペシャル!」
「ぎゃー!」
「暴力で押し切ろうとするとこはますます蛮族だなぁ」
ヒョイ
「と、まぁそんなわけで、あの気球貸して貰っていい?」
「か、会話が繋がって無いっす! そんなの無理に決まってるっす! くっ……さっきから『睡眠の香』を使ってるのに、全然眠らないっす……!」
「はぁ……獄卒さん。私達、『こういう者』なの(スッ)」
「え? そのカードは……成る程、『そういう事』っすかっ」
「アンドナ、何そのカード? 印籠みたいな効果あるの? 僕にも見せて?」
「(サッ)ウカノ君は知らなくていいの。(ペシッ)プロレス技もかけようとしない」
「流石アンドナ、完璧な護身だぁ」
「自分、見て見ぬふりで通り過ぎれば良かったっす……」
ツンツン
「この辺は迷って来る人多いの?」
「そうっすねぇ……なんだかここに簡単に来られる遊園地だかがあって、年に十人は迷い込んで来るから大変っす。上に『対応して欲しい』と言っても『あそこは放っておいて』と何故か突っぱねられて……って、さっきからツノ触らないでくれっす!」
「大変だねぇ。お礼に、この後なんやかんやしてここに来るまでの道を物理的に破壊やら封鎖やらしておくよ(サワサワ)」
「それもそれでなんかヤバいことになりそうな気がするっす……ちょ……ツノを触らないでとは言ったっすが、身体中を触られるのもなんというか」
「おっ! これが睡眠の香だな! 直嗅ぎくらえー!」
「グワー! ……ふわっ」
バタン
「ふぅ……落ちたな」
「完全にアウトな事してるなぁ……」
「よし、じゃあ気球に乗ってお空のデートと洒落込もうか?」
「もう何があっても知らないからね?」
ボボボボボッ ふわぁ……
「おお、浮いた浮いた。記憶の上では操作するの初めてだけど、適当に弄ってもどうにかなるもんだねぇ」
「急に不安になるようなことを…………あの獄卒ちゃんは地面に寝かせたまま置いてくの?」
「急に落ちて怪我させたら可哀想だろ?」
「気の遣い方の基準がおかしい……私にも気ィ遣ってよっ」
「ウチらは落ちても死なんけど、それでも、死なば諸共、だろ?」
「ここほぼ死後の世界だっての……」
ふわ ふわ
「フンフンフーン、こうしてドライブミュージックを流しながらの空中浮遊は乙なもんだね。あ、意図せず『31日蓄音機の日』のお題をクリアしてしまった……!」
「音楽プレイヤー=蓄音機は無理矢理では?」
「しっかし、なんにもない寂しい世界だねぇ。アンドナは観光スポットとか知らん?」
「観光場所じゃないっての…………まぁ、知らなくはないけど、この神奈備は地球より広い世界だからね。適当に動いてたらどこにも辿り着かないと思うよ」
「なんかGo◯gle mapとかで何か表示されないかな(スッス)おっ、出るじゃんっ」
「出るのか……」
「んー、この先に近くに何かがあるみたいだけど、◼️◼️◼️◼️みたいに文字が潰れてて分からんなぁ。行ってからのお楽しみってやつ?」
「楽しい場所はないと思うけど……」
「おっ、なんか変な森が見えたぞっ。じゃあ、そろそろ準備するか(ピーッ)」
「えっ、なんで急に指笛吹いたの?」
バサッ バサッ
「グアッ!」
「おー、ちゃんと来てくれたね、フルーツバット君。なんか久し振りだなー」
「……なんで呼んだの」
「今日31日は『パラグライダーの日』でもあってな」
「……嫌な予感しかないんだけど? え? 何で片手で私を抱きかかえてんの? ちょっ」
「とぅ!」
…………………… ヒュゥゥゥゥゥ
「高校生二人掴んだまま滑空出来るなんて、相変わらずの怪力だね、フルーツバット君っ」
「グアッ!」
「……どうすんの、あの乗り捨てた気球は。どっか行っちゃうよ」
「ふふ、次に必要な『誰かの元』にまで飛んで行くんだよ。あの子も自由だ」
「気球無くして絶対怒られるじゃん、あの獄卒ちゃん……」
「僕みたいな蛮族に容易に奪われるのは、あの子のせいというより上の教育不足のせいだね。さっ、もうすぐ森だ」
続く




