197 お嬢様と結局金
わらびちゃんと二人きり(+狐ちゃん)で遊園地デート中!
最奥まで行くと、謎の祠を発見。
そこで『ゔぇる様』なんちゃらとおまじないを唱えると、素敵な出逢いに巡り会えるのだとか。
「そーいや僕、ゔぇる様って名前に『聞き覚え』があるんだけど」
「……ま、まぁ、今はそれは、気にしないでいいですよ……」
「そ」
周囲を見渡す。
どうやら情報通り、ここは最奥のようだ。
ほんとにポツンと、祠があるだけ。
その後ろは、先の見えない緑の壁こと森……というか竹やぶか。
「しかし、昔からこの遊園地には通ってるけど、気にも留めなかったなぁこんなとこ。視界に入っても興味が湧かなかったのかしら」
「さ、先程貴方が言ったように、見た目はただの祠ですからね。子供はこんなものよりアトラクションを選ぶでしょう」
「都会のと違ってド派手なのは無いけどね。でかい公園みたいなもんよ。その分、入場料は1000円と安いぜ? 乗り物代は別だけど、それを含めても安い。某ランドの値段と比べたら……」
「は、張り合おうとしないで下さい。広さや地価や版権や設備のクオリティが違うでしょう」
「クソ……結局金かっ。なんかムカついて来たっ。隣の動物園諸共日本一のテーマパーク作ったろか!?」
「そ、そういうのは『間に合ってる』と思います……話が脱線してますよ」
おおっと、つい熱くなっちまった。
今はホラー回だったね。
「ふぅ……(クールタイム)てか、これだけおまじない関連で長年問題起きてるっぽいのに、遊園地側は特に対策取らないのな?」
「え、擁護したり批判したり忙しいですね。対策? この祠付近を封鎖しろと? おまじないに場所は関係ないのですが……」
「有名な霊能者でも返り討ちにあったんだっけか? それでも、閉園に追い込まれないのは、謎の力を感じるね。まさか! 町ぐるみでなにか隠蔽を……?」
「……や、謎の力で守られている、というのは言い得て妙ですね。実際その通りです。遊園地の経営母体は事件を認知していますが、『敢えて』放置しています」
「そうなん? おまじないでの集客目的か? 被害などどうでもいいと? 酷い奴らもいるもんだっ」
「…………ま、まぁ、そういうわけで、現状を維持したい勢力もあるという事です」
おのれ、金の亡者どもめ……おまじないでの経済効果なんて微々たるものとこの遊園地のショボさで分かってる筈なのに……!
「いや? まさか、本当は大儲けしてるのに、その売り上げを抜いて遊園地の設備にお金を回していない……? ゆるさんっ! 僕ら兄妹の思い出の地に舐めた真似しやがってっ。この仕事片ァついたら経営母体に殴りこんだるっ」
「な、なんですが急に。あまりお勧めはしませんよ」
「『あまり』なんだ? いつもなら止めるのに」
「ノ、ノーコメントで」
やはり、彼女にも思う所があるのだろう。
姉妹で……いや、僕自身忘れているだけで、僕ら兄妹とも昔、ここで遊んだ可能性もある。
僕らの思い出の場所、という可能性。
そんな場所をきな臭い連中に任せてられるかっ、と、僕の決心は更に固くなった。
「全く、ここで真面目に働いてる従業員さんもたまったものじゃないね。事件が起きる度にクレーマー対応しなきゃだし」
「ク、クレームは無いみたいですよ。謎の力による隠蔽なのか、地域性によるものなのか……そこまでは私も知りません」
「田舎は隠蔽体質だからな。やばい地域とバレたら人が来なくなるから事件を隠すんだ……」
「へ、偏見が過ぎる」
「でも良かった。クレーム対応に追われストレスを溜める(ゲートにいた男性職員の)おっさんはいなかったんだ」
「お、おっさん……そういえば、従業員のあの方も確か、おまじないによって家族を亡くされていたような」
「まじ?」
情報通なわらびちゃんの話を聞くに、副業でオカルトライターもしていたおっさんだったが、不幸にも、娘さんと奥さんが被害に遭ったとか。
「なんて事だ……だからあんな生気のないやつれた顔で……一体、どんな気持ちでここで働いてるんだ?」
「さ、さぁ。少なくとも快い気分では無いでしょう。消えた娘がいつか帰るのを待っているのか、我らのような者が解決に来るのを待っていたのか……或いは、自分のように不幸な者を増やして気を紛らわせている、か」
「どちらにしろ悲しい連鎖だぜ。よぉし、やはり僕が今日でこの遊園地におまじないに終止符を打たねばだなっ。止めるなよわらびちゃんっ」
「わ、私に貴方を止められる力はありませんよ」
僕なんて君に後ろからハグされれば簡単に止まるってのに。
まぁそんな事を口に出したら欲しがり屋さんみたいになるから今はまだ僕の『止め方』を教えないでおこう。
それから僕は、祠の側まで歩き、膝を曲げてしゃがむ。
「にしても、それだけ多くの人の不幸を生んで来た遊園地……だってのに、意外というか、おまじないの知名度はそこまでなのな。オカルト好きの僕ですら知らなかったくらいだし。このネットの時代に、殆ど拡散されてないのがその証左だ」
「そ、そんなものでしょう。ネットに話が出回っても、デマと切り捨てられたか、悲劇は偶然と鼻で笑われたか。検証しようにも、ルールの性質上、時間が掛かりますからね」
「男女が出会ってそれから子供が出来てー、なんて時間、早くても5、6年は掛かるもんね。そこまで検証する辛抱強いネット民もおらんか」
ネット掲示板の話題は生モノ。
翌日にもう飽きてるなんてザラだ。




