表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

212/369

194 殺し屋と「もーいーよ」

空木と美兎が迷い込んだのは、海外の田舎町のような場所。

そこで彼女達は、幽霊が玩具で惨殺されていた姿を見る。

直後 もーいーかい と楽しげな子供の声。

逃げる二人は、その辺の家の中に入り、かくれんぼを始める……



下手な真似は出来ない。

情報が何もねぇ。

情報は何よりも大事。

そこは、今まで私がやって来た仕事と同じだ。

付け焼き刃な対処をしても、悲惨な結果になるのは目に見えてる。

あの化けウカノ相手だと、準備も何も今は無いが……。

とは言え。

このまま待ちの姿勢で、果たして、無事に帰れるのか……?


「……今回のは、子供が多く関わってる。さっき迫って来た声も、ガキのそれだ。なら、親玉は母親の悪霊、か?」

「どうかしら。黒幕が一人の母親なら、例えば『亡くした子の代わりを求めてる』って理由だとしても、被害に遭った子供が多過ぎるわ」

「悪霊なんだから多いも少ないも無いんだろ。逆に、子供自体に恨みがあるんじゃねぇか? 自分の子は酷い目にあったのに、とかいう逆恨みでよ」

「わざわざおまじないで子供を増やして嫌がらせを? まわりくどくない? 私は、母親の霊ってのがそもそも違うと思う。子供が集まる場所を考えてみて?」

「さぁ。おもちゃ売り場とか遊園地じゃねぇの?」

「それもそうだけれど、もっと子供と密接に触れ合える環境よ。私は……『幼稚園』とか『児童施設』とか……そういうのを連想するわ。だから……園長みたいな人が、悪霊化したのかも」

「施設、ね。どう生きてたら、そういう奴らが悪霊化なんてするんだよ」

「……考えられるとしたら、やはり『無念』かしら。頭のおかしい殺人鬼が、子供や園長を大量殺戮したとか、ね」


無念。

母親にしろ園長にしろ 『子供を守れなかった』 という思いで悪霊化したという理由付けなら、まぁ色々分かりやすいんだがな。


…………無念、か。


ウチの寝たきりババアも、そのままおっ死んだら無念で悪霊になるんだろうか?

アレだけ遊園地ここに行くなと言っていたババアだ、私に説教する為に化けて出て来てもおかしくはない。

しかしあのババア……イキイキしてた当時、一体ここに何しに来てたんだ……?


「まぁ、そもそも、この辺の土地でそういった児童施設や民家、凄惨な事件があったという記録はないんだけどね」

「無いのかよ。じゃあ何も無いとこからポッと湧いて出て来たってのか? 今回の悪霊は」

「だからおかしいのよ。噂自体は昔から……それこそ云十年前からあったとオカルト好きの知り合いは言ってるけど、出自が全くの不明なの。いくら人の常識に縛られない幽霊でも、無からコレだけの凶悪な悪霊が発生するのはあり得ないらしいわ」

「どっかの土地からやって来たんじゃねぇのか?」

「霊というのは土地に縛られるみたいだから滅多に無いみたいけど、それも可能性の一つね。『ここでは記録に無い事件が起きていた』、というのが今の所の私の見解よ。アレコレと言い始めたらキリが無いけど」


云十年前からいる悪霊で、未だ何も対策が為されていない。

普通なら被害者が出た時点でどうにかすると思うがな。


「そのおまじないをする場所、祠をぶっこわせば全て済む、って都合の良い話は無いか?」

「根本的な解決にはならないでしょうね。祠だって、この噂が出た後に霊能者が建てたって話だし」

「霊能者、ね。悪霊を鎮める為だったのか知らんが、見事に恋愛スポットにされてるのは何とも情けないな」

「多分、おまじないに祠は直接関係無いんだと思う。重要なのは、その周囲の土地。祠の『奥』に広がる森。過去、何人もの霊能者が奥へ進んでは、帰って来なかったらしいわ」

「何でそんな場所に私は連れて来られたんだよ……」


美兎相手に言っても仕方ないが、私みたいな明らかな素人がどうこう出来る案件じゃない。

ウカノならどうにか出来るんだろうが……。


「ああ、でも唯一、一人の有名な霊能者だけは帰ってこられたとか。冥子めいこって高齢の女性らしいんだけど。まぁ、無事に、とはいかず、その後はずっと『寝たきり』らしい」

「……そうか」


ここでババアの名前が出るとは、な。

予想出来た事とはいえ、少しばかり動揺はする。

ババアは、それほど霊能者としても強かったのか。

しかし……森の奥で、一体何を見た?



と、その時だ。



「シッ。少し口を閉じろ」

「なっ…………」


何? と目で訊ねる美兎。

私は、立てた親指を背後にある出入り口のドアに向ける。


……微かにだが、外から気配。

気配……気配か? これ。

幽霊に気配があるのかと言われたら知らんが、何かが外に居るのは、感覚的に分かる。


少しずつ、解ってきた。


この眼鏡を付けてから、ずっと気持ち悪い感覚を覚えていたが、それも慣れて来た。

幽霊が近くにいるという、独特の感覚。

分かりやすいのが、周囲の温度が少し下がり、腕の産毛が立つこの現象。

それらの経験を踏まえて、一枚のドアを隔てた外は、体感的にどんな様子だろうと聞かれたら……


冷凍室みてぇに寒ぃし、全身の産毛が立ってる。


要するに、外はヤベェ。

しかも、この感じ……一人じゃねぇ。

どうする? どうする?

確実に、ウチらの存在はバレてる。

私一人ならまだいいが、美兎を連れて逃げ切れるか?

てかウカノ達早く来いよ!


もーいーかい もーいーかい


また、聞こえて来やがった。

かくれんぼのつもりか? ふざけやがって。

じゃあつまり、返事しなきゃ襲って来ないのか? ルール破ったりしねぇか?

後手後手で気に入らねぇが……ここは、奴らのフェアプレイ精神を信じて黙っておけば


「もーいーよ」


……………………は?


今、美兎の奴、返事したか?


「お、おま、何言って……」


美兎を見る。

その顔は……ポーーーっと、魂が抜けたように、宙を虚ろに見ていた。


キャッキャッキャッ!


外から、ガキどものハシャぐ声。

やべぇ!

私は、美兎の手を掴んで立ち上がろうとしたが、


ガラッ!


無慈悲にも、ドアは開かれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ