191 お嬢様は僕と二人きりになると良く喋る
わらびちゃんとの夜の閉園後遊園地デート!
+二人の女子付き。
謎の着物少年の霊を追っていた僕達は、気付けばお化け屋敷の前へと辿り着いていた。
中へと入る前に、僕は殺し屋の空木ちゃんに幽霊が見える眼鏡と幽霊を斬れる刀を渡し、チュートリアルとして遊園地入り口で捕まえた幽霊君と戦わせる事に。
「ッ!」
ヒュヒュ!
突如、こちらに飛んで来る瓦。
物凄い速さ。
それを カンカンッ! 空木ちゃんが刀で弾く。
ガジャッン グシャン
弾かれた瓦が美兎ちゃんとわらびちゃんの側の地面で粉々になる。
美兎ちゃんは「キャッ!」と可愛らしいリアクションを見せたが、わらびちゃんは無言で片足を上げて鬱陶しそうに瓦の破片を避けていた。
「おいおい……なんだ今のは? 急に瓦が飛んで来たぞ。いや、まさか?」
「そのまさかだね。瓦の出所は、そこのおばけ屋敷(入り口)の瓦屋根かな。投げたのは……」
入り口の近くでふよふよと漂う幽霊君……その周囲には、いくつもの瓦が浮いていた。
「あれが……アイツの能力か? テレビで見る霊障だのポルターガイストだのも、物が動いたり浮いたりするっぽいが……」
「まぁ超能力的な認識でいいよ。ある程度自我のある霊なら誰でも使えると思てもろて」
「厄介だな……瞬間移動やら超能力やら……そんなんとは戦った事ねぇから対策もわかんねぇ」
「幽霊くーん。逃げるな逃げてもいいよー。僕は追い掛けないからー」
「は? いいのか?」
「良くないよ。君はちゃんと追い掛けて倒してね。逃げられたらペナルティだかんな」
「ふざけやがって!」
「ほらほら、僕に絡んでる暇無いよ」
サササッ!
僕の言葉を聞いた途端、幽霊君は慌てて近くのおばけ屋敷に逃げる。
ガタンッ!
去り際、おばけ屋敷の入り口にぶら下がってた看板の板を落とし、道を塞ぐ用意周到ぶり。
「うーむ、奇しくもこうしておばけ屋敷に入る理由が出来たね。看板をどけてっと(ガタガタ)」
「どうするんですか、瓦やら看板やらをボロボロにしちゃって」
「勿論直すけど、おばけ屋敷のビジュアル的にこのままボロってた方が雰囲気出ると思わないかい? わらびちゃん」
「それを決めるのはここの遊園地スタッフですよ」
「ま、後でさっきの職員のおっさんに提案しおくよ。それより……ほらほら空木ちゃん、やる事が決まったら進む進む。子供と変質者の霊が消えたこの先には、絶対何かあるって気配がするよっ(グイグイッ)」
「だから背中押すなって!」
「事情は知らないけど兎に角中に進むわよっ。私はあの子を追いかけなきゃなのっ」
と、美兎ちゃんが叫んだその時だ。
前の方にいた空木ちゃんと美兎ちゃんが、お化け屋敷に足を踏み入れた瞬間
──フッ
「あら?」
消えた?
………………消えてしまった。
二人とも、だ。
闇に呑まれるように、煙のように、気配ごと消えた。
「あらあら、どーしましょーわらびさん?」
「そ、そんなおっとり系お姉さん風に言われても……、どうやら、ここには思った以上の悪霊がいそうですね」
腕を組むわらびちゃん。
組んだ腕の上に重そうな乳がのる。
「さっきの幽霊君の仕業じゃあないよね。別の悪霊が?」
「ゆ、幽霊というものは基本、その場に漂う煙のような存在です。そして、殆どの幽霊は、人に憑かぬ限りその場から移動出来ぬか弱き存在。人を脅かす事は出来ても、憑り殺せるモノなどそうそう居ません……」
「そうだね」
「で、ですが、このおばけ屋敷にいるであろう悪霊は、人間二人をどこかに一瞬で移動させるほどの力がある。ここをテリトリー(拠点)にしているのだとしても、非常に強力な霊です……」
「成る程。ここはその霊の結界内って事だね。いや、幽霊『たち』、か? 経験上、こういうおばけ屋敷的な『陰』な場所には色んな霊が集まる。その集合体が、コレほど強力な事象を起こしてるのかもね。つまり、コレが神隠しの真相?」
「……し、真相は兎も角として、ここにいる霊は『単独』ですよ。他の霊という異分子が近寄ろうモノなら即排除するでしょう。それほどまでに『我』が強い」
「へー」
二人きり(僕らだけの世界)になった途端饒舌になったなこの子。
かわいい。
「し、しかも、このお化け屋敷にいるのも、その本体ではなく手下。集合体では無いと言いましたが、自らが使役する者は別。貴方がバスで葬った女性の悪霊も、その手下でしょう」
「手下レベルがこの結界を作ってるのか。じゃあもっと強いんだろうね親玉は。それが、例の『おまじない』と関わりがある霊なのかなぁ」
「そ、それ以外無いでしょう。まぁ……『元凶の正体』を考えれば、おまじないやそれに関する被害の関連性にもシックリ来ますし、強力なのは当然です」
「ほう」
どうやらわらびちゃんは、この遊園地に巣食う黒幕に心当たりがある様子。
当たり前か、ホラー担当だし。
てか。
「僕ら、随分のんびりしてるな? 女の子二人が消えたってのに」
「う、ウカノさんの事ですから、二人に何か保険はつけているのでしょう?」
「んー、やってたっけかなー。少し前の自分を信じよう」
「……ま、まぁ、どうにかなるでしょう」




