190 お嬢様とねないこだれだ
わらびちゃんとの夜の閉園後遊園地デート!
+二人の女子付き。
謎の着物少年の霊を追っていた僕達は、気付けばお化け屋敷の前へと辿り着いていた。
そこに入る前に、僕は殺し屋の空木ちゃんに『怪異が見えるようになる眼鏡』と『怪異を祓える刀』を渡す。
何で私が、とウダウダ不満を漏らす彼女に、僕は告げる。
「考えてみなよ。悪霊の対処法さえ知れれば、君はおばあちゃんに憑く悪霊を自分で祓えるんだぜ?」
「…………そんな上手い話、あるのかよ」
「あるよ。少なくとも『僕や誰かに頼るしか無くて自分じゃ何も出来ない』ってよりはいいだろ?」
「……どっちにしろ、お前に頼りたくはねぇよ」
「疑心暗鬼か。わかるよ。君が人を信じられないような人生を歩んで来た事は……」
「信じられないのはお前だからだよ」
口ではそう言っても、やはり不安なのだろう。
ぶっつけ本番は嫌だ、と。
ならばその気持ち、少しはやわらげてやろう。
「心配なら、試しにチュートリアルだ。こんな事もあろうかと、こちらにポケ○ンを用意しました」
「はぁ?」
ごそごそ ポケットから取り出したるは、ガラス瓶。
一見、中身の無い透明な瓶だが……
「ほら、そのドSに見えそうなフレームのメガネ、掛けてみて」
「んだよ……(スチャ)…………あ?」
一見、霊感の無い者が見れば中身の無い透明な瓶だが、僕にはハッキリ見える。
瓶の中身、例えるなら、ドライアイスのような白いモヤ。
それは、今の彼女にも見えているだろう。
「……なんだそりゃ」
「遊園地のゲート前にいた幽霊さんだね。で、今から君に、この霊を退治して貰う(キュポン)」
「お、おいっ、説明も疎かにいきなり開けるなっ」
ボフンッ
瓶の中から、モクモクと煙のようなものが溢れ出る。
その煙は、慌ててすぐに消え去ろうとするが、
「幽霊君? 僕から逃げられるとでも?」
そう声を掛けると、煙はピタリ、その場にとどまった。
「悪とは何か分からなくなりますね」とわらびちゃんが哲学的な事を呟く。
「こ……これが幽霊……なのか?」
「うん。あ、美兎ちゃんは霊感ありそうだから(眼鏡無しでも)見えてるだろ?」
「……ええ」
瓶から出て来た幽霊は、次第に元の形を取り戻す。
全体的に、丸っこいフォルム。
真っ白な、出店のデカイ綿菓子ぐらいのサイズで。
オデコには、お化けのイメージと言えばな三角の布、天冠。
早い話、絵本の『ねないこだ○だ』の表紙を思い浮かべてくれ。
まぁ、親しみやすい見た目ではある。
そのマスコットのような本体を見れば、敵意も薄れよう。
しかし……空木ちゃんは警戒心を緩めない。
『見た目に騙されるな』と、言われずとも彼女は理解しているのだろうし、その警戒は『正しい』。
だが、彼女が険しい顔をしている理由はそれだけではない。
初めての感覚だろう。
五感が一つ『増える』のは。
あの眼鏡……【第六眼】は、単純に、この世ならざるモノが見えるようになるシンプルな物ではない。
なんでも、付けている間第六感を強制的に叩き起こされるという名の通りのシロモノ、らしい。
それは、脳をこねくり回される感覚だろう。
『腕や目、脚が一つ増えるのと同じで、感覚が増えた事で、強烈な違和感とストレスに、吐き気や目眩を覚える』
そう語ったのは、以前別の奴に貸した時に言っていたセリフだったか。
だから、眼鏡を掛けた者は視覚だけではなく『霊の声』も聞こえる(聴覚を得る)ようになるのだと。
僕なんて、異形を見聞きするのは日常だったから、その奇妙な体験が出来なくて残念だ。
「……で、あの綿菓子を倒せって? せめて、もっと醜い見た目のやつか人型の連れてこいよ。動物虐待みたいな気分になるだろ」
「普通なら逆だと思うけど、人型の方が抵抗無いとは流石だね。だがまぁ、安心(?)して。こんな見た目でも、生前は子供好きの変質者だ」
「……なんで分かるんだよ」
「百戦錬磨の経験だね。顔を見れば分かるのさ。遊園地の周りにいたのも、死してなお、幼年者を眺めたかったからだ」
「……眺めてるだけならまだヌルいと思うが」
「それが時折、好みの子を見つけては親に取り憑き、一緒にお風呂に入るのだとか」
ザンッ!
一閃。
僕が言い終わった途端、問答無用で躊躇なく、空木ちゃんは幽霊に霊刀座美を振るう。
「思い切りがいいね。日本刀の心得あった?」
「……いや。ドスならさっき別の仕事場で振るったが」
「そっか。扱いは悪くないけど、少し『甘かった』ね」
倒した、かと思いきや、切れてるのは尻尾(下半身)の先っちょだけ。
斬られた幽霊君は、突然の強襲にワタワタ慌てている。
僕らの物騒な会話は聞こえていたろうが、空木ちゃんの容姿に油断したのだろう。
若しくは、彼女の小柄な見た目に子供好き脳が(幽霊君にあるのか知らんが)バグってドギマギしているのやもしれん。
「思ったよりすばしっこいな。いや……避けられたというより、瞬間移動のような……」
「まぁ幽霊の標準オプションみたいなもんだよ、出たり消えたりは。人間には無理な動きだ。そういう動きのクセにも慣れて貰いたい」
「お前なら似た様な動き出来るだろ」




