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189 お嬢様とモブ

わらびちゃんとの夜の閉園後遊園地デート!

+二人の女子付き。

美兎ちゃんの記憶によると、昨日バスの中で僕が祓った(?)霊は、昔行方不明になった友人の母親との事で……?



「ほーん。そりゃーまぁ、死ぬ前の事考えたら成仏出来んわなー。あ、やっべ。僕消しちゃったじゃん、一人の主要人物をさ。どうしよわらびちゃん?」

「もう取り返しようがないので、苦しい悪霊状態から解放し成仏させてやったと開き直りましょう」

「なぁんだ。僕は正しかったんだ」

「死人に口なしとはこの事ですね」


さて、疑問があるとするなら。


「ママンは死して尚、美兎ちゃんに何かを伝えようとしていた。あのママンが居たのはいつから?」

「……先月からよ」



美兎ちゃんは、今まで過去(あの日)の悲劇に向き合う事を避けていたらしい。

自身の両親も同じように、触れないでいてくれた。


だが先月、中学の自分のクラスの女子が一人、突然行方不明に。


警察も学校に来たりした。

その消えた女子は以前から、おまじないについて友人と語り合っていたという。

消えた女子の友人は教室で泣きじゃくっていた。

だからといって、その二人はどちらも、自身とは殆ど関わりの無かった相手。

ただのクラスメイトで、ほぼ他人。

哀れには思えても、自分に何が出来よう。

自分は無力……


そう、自分に言い聞かせ、逃げていた。


あの泣いていた子の顔が頭から離れない。

美兎ちゃんの脳裏に、暗い記憶が蘇る。

あの泣いていた子は、まるであの時の私だった。

長年、考えないようにし、燻っていた思い。

思えば、その日は丁度、あの一家が消えた日。

向き合う時が来たのかもしれない。


美兎ちゃんはその日の放課後、学校のオカルト部へと顔を出した。


自身の友人は、こういう事に詳しい。

例のおまじないの情報を、全て教えて貰った。

発生頻度、行方不明者数、被害者の法則……

周囲に聞き込みもし、おまじないの事が載っているオカルト誌を買ったりもした。


ある程度情報も固まり始め、しかしこの先の目的はどうするのか? と思いながら歩いていると……

気付けば、あの廃屋の前に来ていた。


あの一家が住んでいた家だ。


私の親友の家、だった。

意識して、ここは通らないようにしていた。

だが……

もしかして、この家に、手掛かりがあったりするのか? そう思っていた時……


あの人は、廃墟となった家の玄関から、こちらを見ていた。



「それがあのバスの中にいたママン、ね」

「……その日から、あの人は私のそばから離れなかった。外でも、学校でも、家で寝る時も……ずっと、耳元で囁いていたわ。当然、周りには何も見えてなかったと思う」

「確かあの時は、『チガウ』だの『ナンデ』だの囁いてたね。ママンの目的はなんだと思う?」

「……なんで私じゃなく、あの子が連れて行かれたのっていう、恨みの念でしょ」

「『逆』じゃないかな」

「……え?」


キィィィ……


ふと。

話に割り込むように、目の前のおばけ屋敷の扉が、ひとりでに開く。

少しだけ、という感じではなく、全開になるように。

扉の奥は一切の暗闇で。

まるで、化け物の口に見えてくる。


「ふむ。どうやら僕らをお招きしてるようだね。このパーティ(宴)の誘い、乗ってやるぜ……!」

「いちいち緊張感を台無しにしますね貴方は。まぁ怖いのを我慢して明るく振る舞うモブだと思いますか」

「僕がモブなんて豪華なホラー作品じゃないかい? わらびちゃん」

「主人公より目立つモブなんてウザいだけですよ」


おっと、そうだ。


「忘れる前に。空木ちゃん、君に【色々】渡しておくね」

「は? 何だ急に。お前手ぶらじゃねぇか」


眉根を寄せる彼女。

僕は パチン と指を鳴らす。


「空木ちゃん、ちょっと両手を前に出して」

「は? 何を……(ボドッ)ぅお!?」


唐突に、空から降って来た布袋ぬのぶくろをナイスキャッチした彼女。


──────スッ


それから、音も無く僕の肩に止まる大型の猛禽類、タカ。

荷物を運んでくれたご褒美に、(ドリーから貰ってた)木の実を渡すと、すぐにバリボリ鋭いクチバシで噛み砕き、バッとどこかへ飛んで行った。

クールな仕事人だ。


「あの子に頼んでたんだよ、君の装備えものをね」

「もっと普通に渡せやっ。え、得物だぁ?」

「袋の中ぁ開けてみんしゃい。早いクリスマスプレゼントだよ」

「いま夏だろ。時と場所を考えろ。ったく……」


ゴソゴソ

袋の中を弄った彼女は、中から二つの物を取り出す。

日本刀とメガネ。


「……いや、柄の部分は見えてたから刀入ってたのは分かるが、眼鏡? 別に視力は悪くねぇぞ」

「まぁまぁ。取り敢えず中に入ったら掛けてみてよ」

「嫌な予感しかしねぇ…………で、刀? こんなん必要な場面あるのか?」

「ふふ……それは霊刀美座れいとうびざ。この世ならざる者を祓える一振りだよ」

「ヒザだかピザだかしらねぇが……おい。まさかお前、これで『さっき言ってた』……」

「ほらほら、文句言わず進む進む」


僕が空木ちゃんの背中を押し、お化け屋敷に突っ込ませようとすると、「お、押すなっ」と文句を垂れられ抵抗される。


「なんだい、今更ながらオバケが怖いのかい?」

「やっすい挑発を……ば、バケモン退治なんてやったことねぇぞっ。まず見た事ねぇしっ」

「心配せんでもノリでどうにでもなる。いつもの仕事みたいでオケ」

「簡単に言いやがって……」

「そも、この仕事は君に有益な仕事の場だぜ?」

「はぁ?」


「考えてみなよ。悪霊の対処法さえ知れれば、君はおばあちゃんに憑く悪霊を自分で祓えるんだぜ?」


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