186 殺し屋と憑かれてた子ちゃん
バスに乗ってやって来たのは、遊園地。
「隣の動物園行ってホッキョククマのハチに挨拶してこよっかな。昨日したけど」
「動物園に目的地を変えますか?」
「んー、一度行ったら目的忘れそうだからなー。我慢するか」
そろそろ、目的をはっきりして欲しい。
ので……
「で、遊園地まで来て、何するんだよ」
「むふふ。そんな難しい仕事じゃあないさ」
言って、ウカノは遊園地の方を見る。
キャーキャー ワーワー
園を出て行く家族連れ。
もう閉園時間らしい。
テン テンテン……
『夕焼けこやけで日が暮れて』 と。
この地域の夕方を告げる防災無線が、微かに、遠くから聴こえてくる。
子供は帰る時間。
「うーん、ノスタルジーって感じだねぇ。住宅街を横切るとカレーの匂いがする時間だねぇ。こんなイメージを想起させるこの音楽は、最早日本人特効の洗脳ソングだねぇ。他にはドボルザークの新世界より、なんかも有名かな」
「帰りたくなるような音楽ですね。帰りませんか」
「この遊園地を家だと思って良いよ。それか僕の胸の中でもいい」
「ここで用があるならさっさと終わらせましょうか」
……無駄な質問になりそうだが、一応、私が訊く。
「閉園時間、みたいだぞ」
「んー? もーまんたい。園側には話はついてるし。ゲート潜るよー。っと……『その前に』」
ウカノはポケットから何かを取り出す。
……小瓶? コルクの蓋がついてる、ライフルの弾頭くらいの大きさの、透明な小瓶。
キュポン
ウカノは蓋を開け、周りをキョロキョロし、
「お、いたいた。キャッチー」
何も無い空間に手を伸ばし、片手でガシッと掴む仕草。
それから、小瓶の開いた口にその手を近付けて……
「ポケ○ン、ゲットだぜー」
「何をやってるんですか、【そんなの】捕まえて」
「んー? ちょっとねー。蓋を閉めてっとー(キュッ)ふう。いつかやってみたいね、これで○ケモンバトル」
「言う事聞きませんよ【そいつら】は。貴方ならば脅せば従うでしょうけど」
「脅すなんて酷い事は僕には出来ないぜ。さ、ポケットに入れとこう。ポケモ○だけに」
……なんだったんだ今のやりとり……虫でも捕まえたのか?
結局、仕事の内容を有耶無耶にされたまま、入場ゲートへと近付く。
すると……
「あ! やっと来た!」
一人の少女が、こちらに指を向ける。
背の高い、ツーサイドアップな髪型の、モデルみたいな体型。
そいつが肩を揺らし、こちらへと来る。
「む? 君は確か?」
「約束したでしょ! 昨日! この遊園地で会うって!」
「そうだっけ? ごめんごめん、普通に忘れてた(テヘペロ)」
「じゃあなんで今ここに居るのよ!」
「色々と因果が収束してねぇ。結果オーライっ」
「約束……?」
「おっと、周囲の空気を下げるような静かな怒りのオーラ漏らさないでわらびちゃん。さっきバスで話した『憑かれてた子ちゃん』だよ」
「別に怒ってませんが」
「てか、さっきのこの子の声真似似てたでしょ? 『じゃあなんで今ここに居るのよ!』」
「同じ声優かと思うレベルですね」
「なんで真似されたの……?」
まぁた、話がややこしくなりそうだな。
「さて。君とは昨日爽やかに別れたつもりだったけど、僕の記憶違いだったみたいだ。で、約束ってなんだっけ?」
「だから! 遊園地には『私の友人が囚われてる』の!」
「園内で迷子にでもなった?」
「違うわよ! ……いえ、違わないわね。友人を探すの、協力して欲しいの」
「友人の特徴は? 年齢は? ドラマに出演していた?」
「何故某魔人風に訊くんですか」
「友人は、私と同じ中学生……いえ、小学生の女の子よ」
「ふぅん。てか、なんで僕なんだい?」
「あ、貴方なら……誰も解決出来なかった不幸の連鎖を止めて、『あの子』を、救えると思ったの……」
「何を見てそう判断したのやら。まぁいいさ、ついでだ。君もついてきな」
少女は頷く。
いいのか? 何するか知らんが、危険に巻き込んで。
「随分と気前がいいですね。女子中学生に何か変な要求でもするつもりですか?」
「あー、そういやリターン考えなかったなぁ。ま、終わる時まで考えとくか。わらびちゃんはJCに何かさせたい事ある?」
「事が終わった後に今日の記憶を消してあげたいですかね。トラウマを残すのは可哀想なので」
「やっさしー。(忘れさせるん)なら何しても平気か」
「だからですよ」
緊張感のない空気。
これからやる仕事ってのも、そんな緩いやつなのか?
「おっと、仕事の説明だったね空木ちゃん。さっきまでノープランで何となくこの遊園地を仕事場に選んでたけど、今方針が固まった。なぁに、中でやるのは緩くて簡単な仕事だよ」
人の心でも読んでんのか? ってくらいのタイミングで、ウカノは私を見る。
それから グッ と親指を立て、 ピッ と首を掻っ切る仕草をして、
「君にはこの遊園地のゴーストバスターをして貰いたいんだ」
……おいおい。




