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183 殺し屋と一匹狼

殺し屋の少女空木うきは、ウカノの暗殺に失敗し、逆に命を握られ、何やら仕事をさせられる羽目に。

今はその仕事場だという場所に向け、バスに乗車中。



「そーいえば今日ウチ(の学校)で身体測定があってさー。3センチ伸びてたんよー」

「そうですか。あまり変わったようには見えませんがね」

「胸囲が」

「伸びるっていいますかそれ」

「どうするよ、そのうち君より巨乳になったら?」

「何か問題があるのですか」

「どういう下着を買えばいいのか知らないからも君も一緒に選んでよ」

「あなたの妹のセレスさんと行って下さい」

「イヤミみたいじゃないか、セレスは慎ましやかなんだから」

「なんだかんだ付き合ってくれると思いますがね」

「対等な双子だけど乳でかい分セレスの上位互換になるじゃん僕……」

「身体的特徴の差異に上も下もありませんよ」

「巨乳美少女が言ってもねぇ」

「……私と下着を選ぶのは別にいいですが、現実的な話、大きすぎたら特注になると思いますよ。専門のサイトがありますんで」

「味気ないなぁ。きら◯漫画のキャラみたいにお店で下着とか水着を試着してキャッキャウフフと意見交換したいのにー」

「現実では仲の良い女子同士でもあまりやらないと思いますよ」

「まぁ実際はおっぱいじゃなく筋肉的な意味で胸囲が増えたんだと思うよ。しかし女体化計画が夢に終わって残念だ」

「貴方の場合、変な木の実を食べて一時的に性転換してもおかしくないんですよ」

「実際、僕に大きな胸があっても嬉しいのは最初だけだろうね。ひと揉みでもすれば満足だろう。ただの憧れさ。女の子がち◯◯◯を生やしてみたいと思う気持ちと一緒」

「そんな気持ちは無いです」



……この会話も、何か裏があるのか?

暗号でも含ませてんのか?

一見、ファミレスでするみたいな、普通の学生みたいなバカ話。

普通(?)すぎる空気感。


だが 奴は、奴らは、普通じゃない。


私の一つななめ前の座席で、奴らは隣同士になって座っている。

途切れる事なく続くバカ話。

これから向かう先の話なんて、一向にする様子が無い。

だから、何をさせられるかも見当がつかない。


ただでさえ、わけのわからん連中。

一人……ウカノでさえも手に負えなかったのに、連れて行かれた喫茶店で更に増えた。

計三人の変人。

今は一人減って二人の変人だが、同じようなもんだ。


喫茶店で会った女二人の事は知っていた。

同じ山百合学園出身といえど、どちらとも面識は無かったが……。


アマンの方は、学園でもそこそこ有名。

ピンク髪で目立つのとテレビに出てるってのもあって、女生徒らからも一目置かれていた。

同年代……未成年の女が毎度映画で放映ギリギリ(余裕でアウト)の(ポルノ)シーンを堂々と演じてる姿には、何か惹かれるものがある、のだろう、私にはよく解らないが。

個人的に、時々学園に来ては女子を品定めするようにネットリ見てる姿が不気味だった。


そして、もう片方の女、わらび。


コイツは……なんというか、雰囲気的にはアマンと同類に感じるが、キャラは正反対。

私もそうだが、学園では物静かで、誰ともツルむ様子がない。

学園の生徒らは皆おおらかだから、イジメだとか陰口とかはないが……

たまに視界に入っても、スマホいじってたり本読んでたり……ホント、義務的に学園に来てるって感じ。

有名人な姉と双子だとかで、本人も容姿は良い。

が、部活なり何なりをしてる様子は(私の知る範囲では)無い。


そんな地味ムーブしてる女の行動、なんで詳しいのか? と言われたら……

さっき説明した通り、アマン同様、妙に目を引くからだ。


興味なんてないのに、つい、見てしまう。

他の女生徒も、たまにアイツをポーッと見つめてる時がある。

いや、見惚れてる、か。

わらびと仲良くなりたい、という生徒は少なくない。

その媚びない一匹狼のような生き方への憧れもあるのだろう。

だが、本人にその気(友人を作る気)がなさそうだから、周りも指を咥えて見ているだけの様子。


魅了、というのはこいつらだけが使える言葉だろう。


同業者(殺し屋)の奴らの中にも、特殊な香水で男を籠絡させるヤリ方の女が居たが……

そいつらの色香は、例えるなら人工的な甘ったるい毒の花。

だが……

コイツらの色香は、何をせずとも強制的に注目させるような、人の心を操るような凶々しいそれ。

同業者の技術的な誘惑とは、レベルが違う。

この二人が『こっちの道』に来たら、他の女どもは商売上がったりだ。


心のどこかで『似てる』と思っていた二人。

だから、アマンとわらびが知人同士という事実に、驚きはない。


ただ……個人的に、アマンより、わらびの方が不気味だ。


「それで、なぜ目的地が『あそこ』なんですか」

「んー? なんでだっけー? ああ、そうそう。昨日、君ンちで君と遊んだ後、僕、動物園に行ったじゃん?」

「いや知りませんが」

「でね。このバスに乗って動物園に向かってたんだ。そん時にさぁ、一人の困ってる女の子を見つけたんだ」

「…………はぁ」

「怒った?」

「は? 何にです?」

「『私以外の女に粉かけて』って」

「私がそんな可愛らしい女に見えます?」

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