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182 お嬢様と遊園地

喫茶店にて、わらびちゃんとサキュバスのアマンちゃん、そして謎の少女空木うきちゃんとガールズトーク。

オカルト専門家のわらびちゃんによると、空木ちゃんのおばあちゃんには強くてズル賢い悪霊が憑いていて、それがおばあちゃんを寝たきりにさせている原因だとか。

空木ちゃんはそんなおばあちゃんの為に、今日まで色々奔走していたという。




「しっかし、そんな強力な悪霊が彼女にねぇ。僕も昔は妹のセレスとゴースト狩りを興じてたけど、命の危機を感じた事が無かったのは運が良かったからか。大悪霊…… 一応遺書でも残しとこっかなっ」


「楽しそうな所悪いですが…………いや、やはりなんでもないです」

「なんだい、思わせぶるじゃねぇかわらびちゃん。したば、『行こう』か」

「どこにですか。どこだろうが行きませんよ」

「アマンちゃんはどーする?」

「御同行したい所ですが、残念ながら撮影がありまして。またお誘い下さい」

「仕方ないね」


僕はカラリとコーヒーを飲み干し、席を立つ。


「空木ちゃん、行くよ」

「ど、どこにだよ……」


「ゆうえんち!」



↑↓



『ばあちゃんは昔、神様に仕えてたんだよ』


ガキの頃、おばあがそんな話をしてくれた事がある。

いわゆる神職の家系……と思っていたが、少し違うらしい。


『人に憑いてる悪い物を取ってやってたんだ。今は廃業したけどね』


今ならイタコ的な事をしていたんだろうと解るが、結局、おばあはそれ以外、家の事を話はしなかった。


子供ながらにうさんくさいババアと思ったもんだ。


変な宗教だのオカルトグッズだの霊感商法に手を出してる感じは無かったんで、ボケたババアではなかったんだと思いたい。

まぁ。

ボケとは無縁な元気なババアだったが。


『いいかい。喧嘩するのは大いに結構だ。けど、弱い者イジメするような子にはなるんじゃないよ。人を守れる子になるんだ』


腕っ節も強く、見た目も年齢を感じさせないほど若々しい、クマみたいにでかい身体をしていたおばあ。

姿を眩ました両親の代わりに私を育ててはくれたが、反抗したらすぐにゲンコツを落とすような暴力ババア。

……あたたかくて、優しいババアだった。


そんなババアが、ある日、倒れた。


ちょくちょく、何かをしに外に出ては数日帰って来ない日があったが、その日はいつも以上に帰りが遅くって。

ガチャリ

ようやく帰った来たと思ったら

バタン!

物凄い音に驚いた私が玄関に向かうと、おばあが倒れていた。

怪我こそ無かったが、顔には脂汗を滲ませていて。

初めて見る、おばあの苦し気な顔。


すぐに救急車を呼んだが……


病院では、医者も『原因不明』と首を振り、病気でも無いらしく。

疲労、という事になったが、数日寝ても目は覚めない。

その後、家に連れ帰り…………何年も目覚めてはいない。


時折、おばあは苦しそうに呻く。

『行くな……ユキノ……』

と。

ボソボソ私の名を呟く。

悪夢でも見ているのだろうか。


それとたまに、おばあの『知り合い』だという奴らが訪ねて来る。


袈裟姿の坊主だったり、怪しい着物姿の占い師のババアだったり、ドレスを着た若い外人女だったり。


皆、ババアを見るなり、念仏なり日常の報告なりをぶつぶつ呟き、静かに去って行く。

宗教ではないだろうが、やはり変な付き合いはあったみたいだ。


あれだけ太かったババアの身体も、今じゃ枝みたいに細い。

普通のババア、って感じになっちまった。

その内、普通に衰弱死してもおかしくない。

けど、せめて、安らかに逝かせてやりたい。

その為に、私は色々動き回ってる。


『いいかい。喧嘩するのは大いに結構だ。けど、弱い者イジメするような子にはなるんじゃないよ。人を守れる子になるんだ』


現在進行形で、おばあの思いを裏切ってる私。

だが、もう引き返せない。

なんとしても、ババアには目を覚まして貰って、『何やってんだ!』とぶん殴られなきゃならないと思ってる。



ブロロロロ……


私達はバスに乗り、目的地を目指していた。

行き先は、どうやら遊園地。

この市の住民ならば、どこの遊園地に向かうのかはすぐに見当が付くが……よりにもよって『あの』遊園地か。


『あそこ(の遊園地)には近づくんじゃないよ』


おばあが起きてた頃、口酸っぱく私に言ってた事だ。

いわく、『建っている場所が悪いから』、と。

鬼門がどうだの、遊園地が建てられる前にその土地にあったモノがどうだの。

胡散臭さの極みで、何かと理由をつけて私から遊園地への興味を奪おうとしていた。


別に私は元から何が楽しいのか分からなかったから良かったが……何を勘違いしたか、おばあは私に気を遣い、千葉のテーマパークへと連れて行ってくれたりした。

遊園地自体がNGというわけではなさそうだから、おばあは本当に、『あの』遊園地には近づいて欲しくなかったんだろう。


そして今、何の因果か、そんな場所に向かっている。

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