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178 とある少女のとあるお仕事 6

少女はターゲットの暗殺に失敗し、その場から離脱しようとする……も。

ターゲットはいつの間にやら少女のスマホを奪っていて、とある画像を見せて来た。

それは、少女の大切な人の画像。

ターゲットは、堂々と、逃げられぬよう人質を取ったのだ。



ヤツは、私の事を知らない筈なのに、私の急所を理解している。

私相手にそんな交渉じみた真似をしなくとも好き勝手出来る筈なのに、敢えて遠回りな手段を取っている。

つまり、ただの嫌がらせに近い。


全てが私には理解出来ない生き物。

私は、予想以上の化け物を相手してしまった。


ブルルル


「おっと、電話だ、出るねー(ピッ)もしもしー……んー? 仕事ー? あーはいはい、理解したー。じゃー今からそっちに友達向かわせるねー。あっ、切りやがったっ」


当たり前のように、私から仕事用のスマホも盗んでいた標的。

……十中八九、今の電話は『上』からだ。

仕事の成果の確認。

意外にも今まで、どこからか仕事の監視をしていたなんて事はしなかった連中だが……

今のやり取りで、私の失敗が明るみになった。


「フルーツバット君、今の電話『聞いてた』かい?」

「グアッ!」

「よぉし。じゃー電話した奴んとこ行ってしょっぴいといで」


グアー! と。

でかいコウモリは、飛び去って行く。


「はい、スマホ。返すね」


…………いや。

電話して来た『上』の奴を探すって……何を言ってんだ。


私のそんな困惑顔を、奴は察してか、


「んー? ふふん。分かるよ君の考えてる事は。『辿り着けるわけがない』と、そう言いたいんだろう?」


「だが、僕の仲間を甘く見るなよ? あの子はフルーツバットと名につく通り立派なコウモリ。当然、電波だの超音波だのの扱いは長けてるっ」


「電話越しでも音声のみで相手の現在地、年齢性別体格容姿、それらがたとえ加工した音声でも見破っちゃうよっ」


「けれど、さっきの電話の相手を特定しても組織の使い捨てな下っ端で意味がないのかもしれない。場所を特定しても既にその場にいないかもしれない。だがそれも心配ご無用っ」


「人にはその個人特有の電波があるらしくってね。その場を去っても、そこには残り香のように暫く痕跡がこびり付く。あとはその痕跡を追って……て感じさっ」


「そうなれば話は早い。芋づる式に、次々に関係者を御用出来るって寸法だ。誰がトップかは知らんから全員拘束っ。因みにあのフルーツバット君、前に同じような事があった時は『半日で』終わらせた実績があるよっ」


ペラペラペラペラ


手の内をノンストップで捲し立てる標的。

つまり……

それが、今までコイツに関わった組織が全て潰されてきたって話の真実、か?

拘束された奴らがその後どうなったのかは知らないが、ロクな結末じゃないんだろう。


そして、私も同じような結末を迎える。


仕方ないと思っていた。

だから、自らで終わらせようとした。

なのに……


コイツは既に、私の身内を見つけてしまった。


信頼出来る奴にその後を託してはいたが、相手がこの人外となると、話が変わる。

誰も守りきれない。

こんな稼業をしてる癖に虫の良い話なのは理解しているが……

身内を、巻き込みたくはない。



ザワ ザワ ザワ ……



「おーっと。流石に一般人があっちのビルでザワつき始めたね。爆発で避難してた人とか野次馬とかかな。僕らもさっさと離れなきゃだねー」


私を見て言っている……つまりは、『ついて来い』という意味か。

拒否権は無い。

私に、何か利用価値を見出したんだろう。


「いやーしかし君は運が良いねぇ。今日僕の近くにいた友達がフルーツバット君で」


それは、普段は別の動物を従えてるって意味か?

動物を意のままに操れる時点で既に普通じゃあないが、あのコウモリで良かった、という意味は?


「僕は気にしないんだけどさー。僕の仲間は、僕が『いたずら』されたら『虐められてる』と勘違いして、相手に襲い掛かるからねー」


カー カー チュチュ ンニャー


いつの間にやら。

空にはカラスが空をグルグルと巡回し、

周囲にはネズミの群れやや数匹の猫が居て、

私を無機質な瞳で見つめていた。


捕食者特有の血走った感情ある鋭い目とは真逆な……私がよく見てきた、作業で相手を殺れる、プロの目。

他にも、凡ゆる生き物の気配をどこかしらから感じる。


……逃げ場は無いと言いたいんだろうが、もう、そんな気力はねぇよ。


「ホラホラみんな、脅さないの、散った散った(シッシ)あー、でね、この後、近くの喫茶店で人と会う予定があって。そこに向かってる途中だったんだ。君にも紹介するよ」


歩き出す標的。

向かう先はビルの端っこ。

……跳ぶつもりか? あっちのビルまで?


「あ、そーいえば、自己紹介がまだだったね。僕の名前はウカノ。君の名前は?」

「………………………………空木うつぎ

「そ。好きな毒草の名前と同じだ。よろしくねっ。じゃ、下の方、ビルの入り口で待ってるからっ」


言って ウカノは バッ と跳躍


スタッ


数十メートル先にある、ファッションビル(の爆破で空いた穴)に着地し、中へと消えて行った。

……やっぱり、人間じゃねぇ。

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