177 とある少女のとあるお仕事 5
過去全ての仕事を成功させて来た凄腕の殺し屋な少女だったが、今回は相手が悪かった。
凡ゆる攻撃を人外の動きで全て避けるような相手。
少女は、人間相手にはめっぽう強いが、化け物を相手にするのは今回が初めて。
勝てる道理もない。
だが……諦めるわけにはいかない。
少女は、爆弾を相手に放る。
全ては、少女の守りたい相手を、化け物の魔の手から遠ざけるため。
……と。
ここで、私は自分の愚行に気付いた。
愚行は、手榴弾の投擲、では無い。
今更、もう遅い。
気付いたのは、
奴の身体能力なら『爆死を容易に防げる』と言う事。
キャッチしてどこかに投げたり、蹴り飛ばしたり、平気な顔で握り潰したり。
コイツは、その全てが片手間で可能だろう。
私の最後の悪足掻きですら、コイツの命には届かない。
いよいよもって終わりだと、私が絶望した、その時、
パクッ
……私とヤツの間に シュン と何かが割り込んだ。
「あっ」
ヤツは声を漏らす。
はじめ、私はソレをデカい鳥と勘違いした。
馬鹿にデカくて、人間の子供ぐらいありそうな鳥。
しかし、見ればその翼には羽などなく、まるで黒い傘のようにツルンとした毛のない翼の……
コウモリ?
デカいコウモリは、手榴弾を咥えたまま、一瞬で空高くまで羽ばたいてゆく。
その姿はあっという間に小さくなり、太陽と重なった所で…………
ボ ン ッ
デカい昼玉(煙だけの花火)のような破裂音と共に、コウモリは煙に包まれた。
「ふ、フルーツバットくううううううん!!!」
空に向けて叫び声を上げる標的。
コイツのペット、だったのか……?
飼い主を守った?
いや……
だが、そのペットもあの爆発をモロに食らったら……
パタパタパタ
「あ、来た来た」
……は?
ヒラヒラと葉っぱのように、黒いソレは落ちて来る。
それは、意思を持ってこちらへと近付いて来て……
「よっと。おかえりー。(クンクン)少し火薬くさいねー」
「グァ」
デカいコウモリは標的の胸に飛び込み、翼をたたむ。
見たところ、怪我らしきものは無い。
……爆発からタイミングよく逃げられたのか?
それとも、モロに食らってコレ……?
もう。
これ以上、私を混乱させないでくれ。
「いやー。あのビルの高いとこに巣作ってるコウノトリの様子を見に来たら、突然プロパンの爆発だもん、びっくりしたよー」
コウモリに話し始める標的。
「でもなんかね、ドリーから貰ってた種が爆破の瞬間成長してコウノトリを巣ごと守ってくれたんだよー」
「グァー」
「そうそう。今はビルの中に引っ込んじゃってるけどねー」
一体、一人で何を喋ってるんだ。
まさか、動物と会話出来るとでも……
「さて」
クルリ
奴はこっちを見る。
反射的にビクッとなる私。
「あれー?よく見れば君、さっき紙を拾ってやった子じゃーん」
……今更だが。
私の殺しのターゲットであるコイツは、さっき、ほんの数時間ほど前、街中で会った奴だった。
第一印象から人間とは思えず、宇宙人と思っていたコイツ。
仕事前に感じていた嫌な予感はコレ。
コイツだけは、見た瞬間から敵に回したくなかったのに……。
「このビルには何か用事があったのかい? 危ないよー、また爆発するかもしれないしー」
……コイツ、当たり前のように、あっちのビルからこっちまで、どうやって来たんだ?
爆破の瞬間、こっちまで飛び移ったと?
パルクールでどうこうって距離じゃねぇぞ……。
てか、コイツ……
さっきまでの事なんて、何も無かったように絡んできやがった。
私は、お前を殺そうとしたんだぞ?
爆破……普通はあそこで終わってる。
そうじゃなくても、ナイフもマシンガンも手榴弾だって使った。
なのに、擦り傷一つ無し。
私が何年も潜った修羅場で身に付いた技術を、全て一蹴された。
私自身、手に入れたかったスキルじゃない。
全ては自衛する為の能力。
金を稼ぐ為の能力。
しかし、思わないところがないわけでもない。
これは否定だ。
お前の数年など、なんの意味もなかった、という否定。
その事実は、寧ろ清々しい。
「ついでに今話題のアイスやらスイーツを買いに来たんだけどねー。あとでレストランフロアに買ったのを取りに戻らなきゃ」
コイツにとっちゃ、命を狙われるのは日常。
私程度、遊び相手ぐらいの感覚だった。
過去に退けた名のある傭兵や殺し屋と同じ、大して違いのない路傍の石。
「あ。レストランフロアに従業員だかが戻り始めたね。その内消防とか警察が来るだろうし、早くコウノトリ達を回収しなきゃだ」
……詰みだな。
頭の中は、やけに冷静だった。
恐怖はない。
もしくは麻痺してるんだろう。
逃げるのは不可能だ。
成功したら、それは単なるコイツの気紛れ。
それに、コイツが見逃してくれても、『上』が見逃すわけが無く、仕事に失敗した私に明日など無い。
……これも、因果応報、か。
なんやかんやで、悪は何倍ものしっぺ返しを食らうのが常。
お天道様は見逃さない、ってやつだ。
まさか、こんな規格外を寄越してくるとは思わなかったがな。
「降りるの面倒いから、あのビルまでフルーツバット君に運んで(飛んで)貰おっかなー」
「グアッ」
アイツはこちらを見ていない。
その隙に、私は、マシンガンを自らの側頭部に押し付ける。
こういう時は、もっと見苦しくビビるものと思ってたが、そうでも無いな。
……唯一。
頭の中をよぎるのは、大切な肉親と……
一人の男の顔。
死んだ後の事は、信頼出来る奴に任せてある。
信用は出来ねぇいけ好かねぇ奴だが、まぁ約束は守るだろう。
私は引き金に力を込めて……
「あっ、これ、君のおばあちゃん?」
は?
「優しそうなおばあちゃんだねぇ」
私は 奴に視線を向ける。
奴のその手には スマホ。
私の個人スマホ。
「お……おま、それ……」
いつの間に。
「ああ、ごめん。僕ったら手癖が悪くってねぇ」
悪びれもせず、どこかで聞いたか言った台詞。
パスワードはどうしたとか、そもそも私以外が触れたらデータが飛ぶようにしてた仕様とか、最早細かい事で。
「その反応だと、余程大切な人なのかな? (にこっ)」
その瞬間、私の血の気が引いた。
即座に理解した。
コイツは……堂々と人質を取ったのだ。




