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176 とある少女のとあるお仕事 4

様々な肩書きを持つ少女だが、最もしっくり来る呼び方は『殺し屋』だろう。

悪を消す必要悪。

その日は、久し振りの殺しの依頼。

ファッションビルに来たターゲットを、事故に見せ掛けて爆弾で爆破する、大掛かりな暗殺。

完璧な爆破位置、完璧なタイミング、完璧な火薬量。

ビル爆破解体チームも賞賛するレベルの完璧な仕事をした彼女であったが……




「ガス爆発だってー、怖いねー」



「ッ!?」


ヒュン!

反射的に

私は腰からナイフを抜き声のした背後を切りつける!


ぷにゅ


……は?


「おおっと。急に後ろから声掛けて悪かったね。驚かせちゃったか(ペロペロ)」


私は。

普段このナイフしか武器を持ち歩かない。


大抵、仕事の時は素手か現地調達。

このサバイバルナイフは特別性。

『知り合いの発明好き』から押し付けられたナンチャラ合金製で。

切れ味が凄まじく、切り合った相手のナイフはうまい棒のようにポキリ。

銃や戦車の特殊装甲ですらプリンのように切り裂ける。

危険過ぎるから、滅多に抜かない護身用。


それを、私は、咄嗟に抜き、相手に振るった。


背後に立たれただけで『生命の危機』を感じた、ゆえの、殺意を込めた渾身の一振り。

殺すつもりの攻撃。

だった、というのに……


奴はそのナイフを、左足のゴムサンダルで受け止めていた。


思いっきり振り抜いたのに、その衝撃を、靴底で、容易に殺された。

特別な素材でもなさそうな、タダのサンダル。


つまり、この『体操着姿』のやつが普通じゃないって意味で……


いや! ダメだ! 止まるな! 考えるな! すぐに次の手を出せ!


シュッ!


投げナイフ。

メイドどもから貰っ(キャッチし)た一本。

バスケのバックハンドパスのように背中で隠した、奴には見えない死角からの一投。

タイミングや速度、方向や視線誘導は完璧。

被弾確実。

メイドどもの投げナイフを掴んだ私ですら、同じ事をされればどうにも出来ない不意打ち。


「ほっ」


だってのに。

パシッと。

奴は、サンダルから覗く(右の)足の指の間で、投げナイフをキャッチした。

まるでキャッチボールでもするように。


「あっ、返すね」


ヒュ カッ


足の指で挟んだナイフを、そのまま足首の振りだけで投げ返される。

一瞬、私の横を何かが通り過ぎたという感覚。

こんな場面で、相手から視線を逸らすのは愚行でしかないが。

それでも、咄嗟に、背後を振り返ってしまった。


……数十メートル先にある、隣のファッションビルの外壁に、ナイフが刺さっていた。


「あ、ごめーん、後で友達に『回収』して貰うね」


……ッ!

揺れるな!

切り替えろ!

この程度コイツなら出来て当然の超人と思え!


ガシッ


足元に置いていたマシンガンを拾う。

嫌な予感がし、これまたさっきのメイドどもからくすねていた一丁。

普段は抵抗があって利用しないが、それの引き金を、私は躊躇せず引く。

躊躇したらこっちが終わる。


ダ ダ ダ ダ ッ ! ! !


放たれる弾頭、震える銃身。

遮蔽物も防ぐ物も周りには何もない。


敵意の無い相手への、一方的な私の攻撃に、

しかし相手は、キョトンとしていた。


……変な事を言うが。


今、世界の時間はスローモーションになっている。

弾頭も、音も、何もかもが緩慢。

その世界の中で、唯一。

目の前の相手だけは、普通の世界を生きていた。


「これがホントのセーラー服と機関銃ってやつかぁ」


だからこそ、目の前の標的の言葉が聞き取れた。

自らに迫る弾頭。

奴はソレを明らかに目で追い、右手を構える。

素手、ではなく、その右手には……

【アイス】。

先ほどから手に持ってペロペロ舐めていた、ワッフルコーンのアイス。


それで……


スッ

スッ

スッ


弾頭を 受け止めた。

ジュウ

弾の熱で溶ける コーンに残ったアイス。


「うーん。こういう弾ってばっちいのかな。いや、三秒以内に取ればまだ(アイス)食えるか?」


な……

なんなんだ、コイツは……


真正面から、マシンガンを全て受け止めた?

さっきからの行動も含めて、人間が、出来ていい事じゃねぇ。

どういう世界の住人だ。

身体能力が、バトル漫画とかギャグ漫画みたいなソレ。

私より格上だとか、そういう次元の動きじゃない。

銃火器ですら、どうにもならないんじゃ……


……さっきから。

立て続けにおかしな光景を見ていたからかもしれない。

私は、冷静さを欠き、自棄やけになっていた。


本来ならば、この時点で潔く降伏すべきだ。

した所で許されるとも思えないが、それでも。

この先は、全て時間の無駄。

悪足掻きですらない。

私は自身を、悪足掻きしないサバサバした性格だと思っていた。

だってのに……私は、こう思ってしまった。


ここでコイツをなんとしても止める、と。


「らぁ!!!!!」


殴り掛かる私。

徒手空拳でも、私は大抵の相手に遅れを取らない。

取ったことはない。


「お転婆な子だ」


右ストレート、膝蹴り、手刀、水面蹴り、肘打ち……


連続で繰り出す目にも止まらぬコンビネーションを。

しかし奴は全てヒラヒラと避け続ける。

まるで風になびく葉のように。

私など扇風機扱い。


分かっていた事だ。

相手にならない事は。

その上での、奴の意識を逸らせる私の行動。

奴が反撃に出ないという希望的観測の上での行動。


私は、こいつを止める。


何故そう思ったかは知らない。

コイツが何者なのかも知らない。

だが……直感で、

コイツは野放しにしちゃならないと感じた。


既に、私の行動は終わっている。


ポイッ と。


私はコンビネーションを繰り出しつつ。

ソレを放っていた。


手のひらサイズの金属の塊。

安全ピンを抜いた【手榴弾】。

これまた(メイドどもからの)戦利品。

改造されたそれで、威力はおそらく笑えないレベル。


このままだと私も巻き込まれる。

考えなしの咄嗟の行動。


……多分。


行動に理由をつけるなら。

『その先』を守りたかったんだろう。


私の守りたい相手を。

コイツの魔の手から。

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