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174 とある少女のとあるお仕事 2

少女は仕事で、ある事務所へと足を運んでいた。

事務所の扉を開くと、中は真っ赤な血塗れの凄惨な現場になっていた。

犯人は、中で佇んでいた二人組のメイド。

話も通じず、即襲われたので、少女は応戦する──



「まって? 日本人でウチらと同じ年代でここまで動ける子……もしや、あの【毒空】(ポイズンブルー)?」


「あの嫌そうな顔はマジかぁ」

「噂じゃあいくつもの国際テロ組織の指導者を消して戦争を終わらせた英雄らしいやん? どーする? ウチら、ヤられるで?」


「ヤらねぇよ。欲しいもんはもう手にしたからな」


「欲しいもん? ……あっ」

「あんたもしかして……」


「探してるのはコレか?」


私は、さっきまでメイドの片割れが持っていたUSBメモリをチラつかせる。


「手癖が悪い子やねぇ……」

「悲しいわぁ……もうウチらは用済みってわけかぁシクシク」


軽口を叩くメイドども。

しかし、二人の纏う空気が変わる。

矜持が傷付けられたからだろう。

私に対する殺意が目に見えて分かる。

スカートの一部を切り落としただけで、攻撃自体を加えてないのも、尚更、舐められてると思ってる。


そういうところが甘いんだよ。


こういう仕事をしてるやつは、感情的になったら終わりだ。

怒りで動きが単純になり、読みやすくなる。

凄んでも無駄。

カタギならビビるかもしれんが、同業者が日和るわけねぇだろ。


それに……さっき、『本物』を見た後だから、尚更。


良い見本だった。

相手を怯ませるのに圧や脅しは必要無い、という良い見本。

静かに、圧倒的な存在感さえ示せれば、それだけで相手は臆す。

あんなの努力で真似出来るもんじゃねぇが。

いや……今はあいつの事は考えるな。

思い出すだけでビビって、動きが鈍る。


私はヒョイと、手にしていたドスを捨てた。

カラン 地面に落ちるドス。


自らの得物を棄てるという自殺行為。

目を見開くメイドども。

こんなの見え見えの挑発だ。

だが、二人の視線が鋭くなる。

ホント、わかりやすい奴らめ。


「なぁ、もうええやろ?」

「せやね。いつまでも遊んでられんしぃ?」


スルスルスル

背中からH&K……短機関銃マシンガンを取り出す片方のメイド。

一気に決めるつもりのようだ。

流石にアレを全てを避けるのは面倒くさ


ピッ!

パシッ


不意に、飛んでくる小型ナイフ。

メイドの片方が投げたやつだ。

さっき、スカートを切り落とした時にチラリと目にしていたが。

太ももに巻かれたベルト(ハーネス)に納めてたやつだろう。

普通の奴なら、マシンガンに意識を向けて食らっちまってる。


「うわ! 今の指でキャッチとかないわっ。漫画かっ」

「でも丸腰やで!」


向けられるマシンガン。

ナイフキャッチで体勢を崩した今を狙う。

狙いは悪くないが……


「丸腰? お前らもな」


くすねたのは、USBメモリだけじゃねぇ。


アイツらがナイフを投げたのと同時に、私も【ある物】を奴らに投げていた。


奴らの視界に入らぬよう、高く、弧を描くように。

それが、丁度 ヒュー と落ちて来て、


カッッッ!!!


強烈な光と音。


「「ッッ!!」」


面食らったように固まるメイドども。

スタングレネード。

光と音で相手を行動不能にする兵器。

仕掛けた私は片耳と片目を閉じたが、それでもキィィンという耳鳴りと陽性残像(光を見た後視界に残る影)が残っている。

だが、動く分には問題はない。


私は、一気にメイドどもの懐に飛び込む。

アイツらは閃光を直撃しちゃいるが、腐ってもプロだ、回復も早いだろう。

だから、さっさと終わらす。


ドスッ


「かはっ!」


腹に右拳を一撃。

片方のメイドが息を漏らす。


「ッ!」


もう片方の機関銃持ちメイドは早くもスタンを解き、私に銃口を向ける。


パパパッ!

放たれた弾丸は私の髪をかすめ、事務所の窓を撃ち抜く。

ピシリとガラス窓に入る亀裂。

メイドは、すぐに次の射撃を行おうとするが、


遅い。


私は、もう片方の手に待った【スタンガン】を、メイドの首筋に当て バチンッ!


………………静かになった、か。


「ふぅ」


コキリと首を鳴らす私。


落ち着くよりも先に、ヒモ(これまたメイドの私物)でコイツらを縛り上げ、行動不能に。


それから、改めて目的のデータを回収する為、PCをカタカタ。


「ぅ…………?」

「あん? 気ィ付いたか。オメェは腹殴った方だな」

「…………君、やっぱり甘いんね。普通、口封じするやろ」

「私は無闇に命を奪わないお優しい人間なんだよ。こっちが終わったら私は帰るから、後は好きにしろ」

「わけわからんな……普通、今後ウチらに狙われるって思うやろ……まぁ……この仕事、そんなんばっかやけど……」

「オメェら生かした所で私に影響はねえってこった。もういいから黙ってろよ」

「いや……もう充分休んだわ」


ダッ


意識を取り戻した方のメイドが、一瞬で縄を解き、もう一人のメイドを抱え、後ろに跳ぶ。

その先は、ヒビの入った大きめの窓ガラス。


バリィン!


「…………面倒くせぇなぁ」


飛び降りやがった。

まぁ潔く自害、なんて事はないだろう。

どうせ生きてる。

しっかし、下にいる一般人にも見られたかもだし、じきにここにも人が来そうだ。

さっさとズラかろう。


「……、……成仏してくれよ」


その場を去る前に。

振り返った私は、屍となった部屋の奴らに、ペコリと片(手)合掌をした。



ブルルル…… ピッ


「なんだよ、終わったぞ」

『ご苦労。しかし、悪いガ、次の仕事の依頼ダ』

「はぁ? 日に二度なんて今まで無かったぞ」

『色々とあってナ……』


歯切れの悪い言い方だ。


『こちらとしてモ、今回のは受けたくない案件ダッタ……』

「なら断れや」

『そう出来れば苦労シナイ』

「……で、中身は?」

『殺シの依頼ダ』


……ちっ。

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