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173 とある少女のとあるお仕事

少女は仕事で、ある事務所へと足を運んでいた。

事務所の扉を開くと、中は真っ赤な血塗れの凄惨な現場になっていて──



「あらぁ?」「お客さぁん?」


ふと、見れば生存者もいるようで。

夕焼けが漏れるブラインドに照らされた、二つの女の声。

メイド服を着た二人の少女。

瓜二つだから双子なのかもしれない。

この事務所の男どもの趣味(買った女)か?

……こんな状況だってのに、落ち着いたもんだ。


「たまたま迷い込んだ女子高生ぇ?」

「やー、私達と同じ空気を感じるわぁ」


関西訛りな言葉遣い。

二人分の瞳がギラリと私を見る。


「お前らに訊きたい事が」 パスッ

キィン!


「あらぁ? 防ぎはったよ?」

「良い目(動体視力)してはんねぇ」


ヤロゥ……いきなり弾いて来やがった。

サプレッサー(発砲音軽減装置)付きの自動拳銃。

それの発砲を、私は、足元に落ちてた金属製の灰皿で防いだ。

気付いてはいた。

あのメイドどもが、手に銃と大型のコンバットナイフを持っていたのを。

間違いない……この事務所の惨状はコイツらの仕業だ。


「テメェらに訊きたい事は一つだ」

「話続けちゃうかぁ」「図太い子やねぇ」

「テメェらの目的も、ここにあるデータか?」


私がそう訊ねると、メイドどもが顔を向き合わせて。

それから、片方のメイドがポケットに手を入れ、スッと何かを取り出す。

シャー芯入れみてぇな長細い物体……USBメモリ。


「これのことぉ?」

「やっぱり同業者なんやねぇ」


ったく……他の奴らも狙ってる代物なら事前に言えやあのクソ電話(依頼主)。


「ウチらの事は知っとるやろぉ?」

「この界隈じゃあ有名人やしなぁ」


「知らんわ」


そうは言ったが、これだけ目立つ外見だ、噂程度なら聞いた事がある。

イカれた噂だ。

ターゲット一人の為に、百人以上が乗る航空機を落としたという二人組の殺し屋。

この分じゃあ、噂じゃあなく本当の話だろう。


私はわざとらしく周囲を見渡し、


「で、この現状はなんだ?」


「何が言いたいんー?」

「フワッとした物言い嫌いやわぁ」


「データ抜き取るだけならこうも部屋ん中グチャグチャにならんだろ、って話だ」


「ほんと、何言うとんのぉ?」

「ウチらの仕事は顔見られたらアカンやろぉ?」


「見られる前に催涙弾投げ込むだの、黙らせる方法なんて幾らでもあんだろ。とぼけんなよ。テメェらはただの殺人狂だろ」


ニタァ……

メイドらは口角を上げて、


「傷付くわぁ。別に好き好んで殺しなんてせんでぇ。なー?」

「こうした方が別の組同士の抗争みたいに思われて都合がええねん。なー」


「ここには別ンとこの組員がいねえってサツにはすぐバレんぞ。殺人狂が今更良い子ぶんなよ」


「はぁ…………良い子ちゃんは君ちゃう? 邪魔だから消す、普通やろ?」

「ま、ウチらは特別男嫌いやからねー。この人らは気の毒やけど、スカッとしたわぁ」


私情を絡めるよく居るタイプだ、珍しくもない。

そもそも、こんな仕事してる奴らにまともな倫理観を求めるのが間違ってるが。


「別に、お前らの趣味嗜好なんざどうでもいい。取り敢えずそのデータ寄越しな。それでさっきの粗相(銃撃)は目瞑ってやる」


「この状況で強く出る……惚れるわぁ。なぁ、ウチらと仲良くしぃひん?」

「そーそー。ウチら、女の子には優しいで?」

「同世代の同業者は意外に珍しくないけど、目付けた子はすぐ死ぬ世界やしなぁ」

「見た目もウチらの好みやし、悪いようにはせぇへんで?」


「あーうるせぇうるせぇ、ノンストップで捲し立てるな」


死体見るより気持ち悪ぃ事言いやがって。


「メイド服で諜報員で悪趣味な殺人狂とか盛り過ぎなんだよ。もっと地味に動け色物どもが」


「普通は若い女の子ってだけでも色物だと思うでー」

「漫画とかアニメで慣れ過ぎちゃうー?」


見てねぇよそんなの。


「兎に角。テメェらはこっちに何か言える立場じゃねぇんだよ。ほら、さっさとデータ渡して消えろ」


「いけずやわぁ。そもそも、ウチが言うのもなんやけど、これの中身が本物な保証、ある?」

「データも送信済みかもしれんよ?」


「いーんだよンなのは。こっちは言われた通りのもん持ってって早く帰りてぇんだ。中身なんざどうでもいい」


「良い性格してるわぁ」

「なんでこの仕事やってるんー?」


知るか。

こっちもやりたくてやってんじゃねぇ。


「はー、交渉決裂やねぇ」

「惜しいわぁ。仲良くなれそうだったのにぃ」


チャキリ 銃やナイフとそれぞれ武器を構えるメイドども。

……話が早い。

初めからこうしてりゃ、私もさっさと帰れたんだ。



ヒュヒュ!


私は先制で灰皿と落ちてた弾倉マガジンを二人に同時に投げる。


カカンッ!


メイドどもが私への視線を切らさず銃とナイフで払うも、


ダッ!


既に私はメイドどもに走り寄っていて、


「「はやっっ」」


片方のメイドが ブンッ! ナイフを振うもカスりもせず、

片方のメイドが パスパスッ! 銃を撃つも既にその射線に私はおらず、


ヒュヒュ!


私は地面から拾っていたヤクザの長脇差ドスで、二人を斬りつけていた。


……ゴトゴトッ。


メイドどもの足元に、硬い何かが落ちる音。


「いやーん。メイド服を切り裂いてミニスカにするなんてええ趣味しとるわぁ」

「あーあ、お気にやったのにぃ」


「よく言うぜ。それだけ物騒なもん仕込んどいてよ」


ヒラヒラしたロングスカートなんて、何か仕込んでます、って言ってるようなもんだ。


切り落とした布の内側。


そこには、怪しげな液体の入った容器、銃、ナイフ、メリケン、拷問器具……


それだけでも随分な重さになって動きが鈍るだろうに、バカが。

上着にも色々仕込んでんだろうが、大体の中身の予想つくから警戒するほどじゃない。


「ドスとJK! 映えるわぁ」

「まって? 日本人でウチらと同じ年代でここまで動ける子……もしや、あの【毒空】(ポイズンブルー)?」


人を周りが勝手につけたダセー二つ名で呼ぶんじゃねぇ。



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