171 会長と妖怪耳舐め
新しい朝が来た。
(カヌレにおんぶされながら)登校中な僕たち。
サキュバスと判明した彼女に、サキュバスの特性を訊いていたわけだが……
「てか普通はこう、漫画アニメのイメージで、サッキュに搾られた男はカラカラに乾涸びるイメージなんだけど、昨日の夜イチャイチャしたわりに僕は元気だぜ?」
「……君は(搾られて)乾涸びるタマじゃないだろ」
「いつもより朝眠い感覚はあるかな。実際その辺、どうなん?」
「……まぁ、ようは生命力を貰うみたいなもんだから、乾涸びたりは無いと思うよ。全身疲労で動けなくなるらしいけど」
「まだ平和だなー」
「一部には、中から徐々に溶かして肉を吸い上げて最後には物理的に食べるタイプの人も居るみたいだけど」
「平和じゃないなー、タランチュラみたいなサッキュだ。となると、君は一人の男も搾り尽くせない半端もんってわけだ」
「そんな煽られ方をされるとは……」
「今後の君の成長に期待するよ。淫獣への道に近道はない」
「そんな称号要らない……」
カヌレは少しプクリとホッペを膨らませ、
「そも、君の(ゴニョゴニョ)は生命力が溢れ過ぎなんだよ。すぐに(許容量)一杯になっちゃって……暫くは受け付けられないよ……」
「んー、君の中にサキュバス標準搭載の精力保存タンクみたいのがあるとしたら、今はマックス状態って事?」
「……まぁ、そんな感じ。暫くはそのタンクも減らないかな。そも、普段から君のそばにいるだけで供給は出来てたし」
「マイナスイオン的な癒し成分なアレが僕から放出されてたわけか」
「吸い過ぎたら猛毒な腐海の空気みたいなアレかな……」
ようは酸素みたいな不可欠な成分ってこったなっ。
「んーチュッチュ」
「んあっ!? な、なにするのっ、耳ついばむのやめてっ」
「隙だらけだったからね。妖怪耳舐めじゃー」
「微妙に居そうな日本の妖怪め……振り落とすよっ」
「耳に齧り付くからそのまま耳も取れるがよろしいか?」
「厄介な妖怪過ぎる……」
スタ スタ スタ
スタ スタ スタ
「…………ウカノ君? 急に静かになったけど、眠くなった?」
「ふふ……また……初デートの時みたいに……映画館とか服屋とか……普通のデート……したいね」
「どしたの急に。まぁ、そうだねー。…………やっぱり眠いの?」
「ガクッ」
「死んだ?」
「(ムクッ)こう、戦いで負傷した僕が最期に君の背中で死ぬと言う最高に幸せなシチュの予行練習をね」
「君が幸せでも私からしたらホラーだよ……人の背中を墓標にしないで」
「君の背中に地縛霊として住み着く第二の人生も悪くない」
「絶対大人しくしてないでしょその地縛霊」
クカー……あふぅ。
話してたらアクビが出た。
眠いの? なんて言われたら眠くなって来る。
おんぶという体勢もあって、尚更。
「着いたら起こしてー」
「都合の良いタクシー代わりにして……立場上、遅く登校なんて出来ないから急ぐよ。揺れても文句言わないでね」
「むにゅー」
スヤスヤ
ゆりかごの様に揺れる彼女の背中。
匂いのおかげかな。
安心感と多幸感で、学校に着くまで目覚める事は無かった。
僕はそのまま、学校が終わるまで寝てても良かったのに。
『はーい、お昼休み恒例、放送部の時間でーす。今日のメニューわぁ……噂のあの人にインタビューのコーナー! です! そして! 今日のゲストは! 皆さんお待ちかねぇ……この人! 生徒会長こと夢先カヌレさん!』
『ど、どうも』
『わーわーぱちぱち。流石は会長さん、外には多くの閲覧客がいますよーみんな手ェ振ってますー』
『み、見てても面白くないから、みんな、お弁当でも食べててくれ……』
『まずは学園祭、お疲れ様です!』
『あ、ああ、ありがとう。皆もお疲れ。お陰で学園祭は大盛況のまま終われた』
『どういたしましてー。会長もカッコよかったですよー。急遽バンド演奏のヘルプに入ったり!』
『あー……そんな事もあったな……アレはあの場のノリだから、二度と同じ演奏は出来ないぞ。だからリクエストされても無理だ』
『謙遜しますねー、憧れちゃいますー。さて! 話は変わって質問タイムです! 多くの質問が来てますよー』
『そ、そうか。お手柔らかに』
『色々ありますよー。好きな食べ物はなんですかー? とか、靴下はどこで買ってますかー? とか、シャンプーは何を使ってますかー? とか』
『……これは、普通の質問、でいいんだよな? 別に、答えられる範囲だが……』
『ええい生ぬるい! みんなが知りたいのはこんな質問じゃないはずだ! さぁ話して下さい! 噂の恋人との真相を!』
『言うか! 打ち合わせの段階で話さないと言ったろ! ノーコメントだ!』
『くそぅ……なら件のあの人を呼んで直接話を!』
『本当に来るからやめろっ』
『まぁ今はいいです。実は今日、ファンの方々から会長の変化について様々な見解を頂いてまして』
『変化……?』
『休みで一日空けただけだというのに、よりエロ……セクシーさが増したという意見がありまして』
『知らんわ!』
『今日の身体測定でもカップが増えたという事ですが!?』
『……ノーコメント』
『同棲中との噂も!?』
『これ以上変な質問をしたら打ち切るぞ! というかお昼時になんて話をするんだっ』
『そうですね。では真面目な話を。噂では、今期で会長をおりるという話ですが?』
『……そうだな。それは事実だ。中途半端な任期で皆済まない』
『おーっと、外からは悲鳴が聞こえますねー。カヌレ会長の朝の挨拶を一日の活力としていた生徒達や、数々のイベントで凛と前に立つ会長に憧れていた生徒も多いです。周りは会長の続投を望んでいるでしょうねー』
『ありがたいが、決めた事なんだ』
『それはアレですか? 芸能界から引いたのも同じ理由で? 普通の女の子に戻ります、というやつで?』
『アイドルではないが、まぁそうだ』
『イチャつくためで!?』
『やかましい!』
『あー、カヌレ会長にはちょっとエグい性癖持ってて欲しいなー』
『校内放送で変な妄想を垂れ流すな! 私はもう帰る!』
「うーん、良い放送だった」




