160 会長と二人きり
昔から僕を知っていたカヌレと、記憶にない僕。
もしそれがカヌレ側の妄想なら『ヤベー女じゃん』と評する彼女の友人モア(モブガールA)ちゃんだったが……
「真面目な女の側面とヤベー女の側面……ギャップ萌えってやつか」
「君(の清楚な見た目と実際のキャラとのギャップ)と違って普通に笑えないやつだよ……」
「ま、残念ながら、カヌレはヤベーくないよ。僕にはカヌレとの……いや、姉妹との記憶はないけど、『記録』は残ってんだ」
「それって……」
プルルルル!!!
ふと、不意に、知らない電話の着信音。
「あ、やっべ、店からだ。ピザ配達から帰らないから……!」
「不良店員がよぉ」
「拉致監禁した犯人がぬけぬけとっ。ええいっ、話の途中だけどもう行くねっ」
「ちょい待ちな」
僕は台所に行き、ポイポイと袋に色々入れていく。
「モアや、これ、持ってきんしゃい」
「おばあちゃん、その茶封筒はなぁに? お駄賃?」
クパァと封筒の口を開き中を覗くモアちゃん。
「んー? これは、干し芋かな? 美味しそうっ。あとは……何かの種?」
「銀杏なんよ」
「なんで……?」
「モテる男は女の子の帰り際に銀杏を渡す」
「変人過ぎる……てかモテないって嘆いてたじゃん」
「その封筒に入れたままレンチンすれば簡単に殻を剥けるけぇ」
「おばあちゃんの知恵袋だ……家に帰ったらやってみるねっ」
「オウこらカヌレ! 客人のおかえりじゃあ! 出てこいや!」
「おばぁから急にヤクザに!」
『えっ!? ご、ごめんっ、ちょっとすぐには出られないかもっ』
「んだとぉ!? ワシの部屋のトイレじゃ! 外から開けて引き摺り出す事も出来るんやぞ!」
『やめて!?』
「いいからいいからウカノ君っ。じゃあカヌレっ、私バイトに戻るねっ。ウカノ君もお土産ありがとっ」
スタコラサッサ
モアちゃんは逃げるように部屋を後にした。
「(ガチャ)……ふぅ。翡翠とはカッコ悪いお別れしちゃったね」
「女の子は便秘しやすいらしいから分かってくれるよ」
「その前提やめて!?」
さて……もう夕飯時と言ってもいい時間だな。
時間。
普段であれば『彼女の時間』。
そろそろ、あの先輩サキュバス(アンドナ)が来るかも?
今度こそ、鉢合わせは免れない。
百聞は一見にしかず。
実際に会えば、カヌレへの説明も楽。
「(ガチャ)さぁて、冷蔵庫冷蔵庫。夕飯は何かなぁ?」
「ピザとか食べた後なのに……」
「だからピザとかのパン系はオヤツだって言ってんだろぉ? おっ、このボールの中身は……下味を付けた鶏肉かな? こりゃ唐揚げやろなぁ」
揚げていいのかな? アンドナに確認とるか。
スマホを確認。
おっと? アンドナからメッセージが来てた。
『今日は行けそうにないから夕飯は一人でね☆ 冷蔵庫に唐揚げ漬け込んどいたから☆』
アイツ……絶対バッティング避けてるやん。
最早意地すら感じる。
「どしたの?」
「いやぁ? この唐揚げ揚げよっかなって」
「さっき翡翠が持って来たフライドチキン食べたじゃん……」
「アレはオヤツ。コレはおつまみ。しっかし、揚げ物ってメンドーなのよねー。でも今日中に揚げないとね。髪が揚げ物くさくなるからお風呂入る前に」
「……じゃあ、私はそろそろ」
「おいー、何帰ろうとしてんだー。お前も一緒にお風呂に入るんだよー」
「えー……」
しかし、それ以上の不満げな反応は見せないカヌレ。
本当は引き止めて欲しかったんだろう。
面倒くさ可愛い女だ。
「何か手伝う事ある?」
「無いかなー。さっさと揚げるからその間に部屋に着替えとか寝巻きとか持ってくればー?」
「完全に泊まる流れに……じゃ、ちょっと行ってくるね」
「うぃー」
ジュワジュワジュワ……
油鍋の中で踊る唐揚げ。
当然もも肉だ。
柔らかいし脂も乗ってジューシー。
当然、とは言ったが、むね肉派も否定しない。
自称唐揚げ県を名乗る九州大分の主流はむね肉らしく、一度食べにも行った。
醤油ベースだったり塩味だったりを食べたけど、ん、まぁ、好みは人それぞれだよね。
某チキンチェーン店の肉だってむね肉がメインなのに長く愛されてるし。
因みに、さっき食べた既製品チキンも嫌いじゃ無い。
しっかりした肉とは別物な、ミンチにして成形した所謂ナゲットだが、あの食べやすさがいい。
手作り、既製品、どちらにも良さはある。
まぁ、どちらにしろ……食べるのは好きだが揚げるのは嫌い。
服も油くさくなるし。
ガチャ
肉を揚げ終わるのと、部屋の扉が開くのは同時で。
僕はそちらを見ず、カチンとコンロの火を止める。
揚げ立て……は別に食べなくてもいいかな。
お風呂に入ってからで。
ギュッ
「……ん?」
背中に、圧迫感。
圧迫感と、二つ分の重量感。
あっさり僕の背後を取るだなんて。
「どしたんだい? 二人きりだから遠慮なくハグっ(抱きつい)た?」
「……(クンクン)……油くさい」
「そらそうよ」




