152 会長とエピソードゼロ
自らをサキュバスと打ち明けたカヌレ。
話は、カヌレの出自から始まる。
「始まり……という表現が正しいのかは分からないけど、物語の始まりは母さんだ。いや、母さんもまた、巻き込まれた側かな」
「母さんは純粋な淫魔でね。異世界……まぁ、魔界って所からこちらの世界に来たんだ」
「二十数年前の話。その時はまだ見習いの淫魔だったらしい。見習いは複数人で、こちらの世界に来て研修する習わしがあった」
「異世界とこちらを繋ぐ所は世界中にあるが、日本にも何箇所があるらしい」
「その日も、いつものように淫魔の一団はこちらの世界にやって来た。降り立ったのは、とある人里離れた廃墟」
「母さんにとってはその日が初めての研修。当時の母さんは凄く気弱な性格だった為、上手くやれるかと不安に満ちていたらしい」
「淫魔の研修内容は……まぁ察して欲しい。いや、別に答えないでいいよウカノ君。クイズじゃないから」
「監督役の淫魔が見習いらに今回の課題を説明していた……その時だ。 コツ コツ コツ 深夜の廃墟に、誰かがやって来た」
「廃墟にはたまに一部の人間がたむろするらしいが、事前に、人がいない事は確認していた。ならば、肝試しにでも来た者か?」
「足音は一人分。肝試しに来た者にしては、怯えを感じさせない堂々とした足取り。肝試しでなければ、たまたま近くに来た警察か? 話し声が聞こえたから?」
「まぁ、それはどちらでも良かった。人に見つかったとて、しかしそこまでの焦りはない。淫魔の力で記憶を消せばいいだけだ」
「果たして、その者はそこにやってきた。まるで目的が淫魔の集団かのように、迷い無く。そしてそれは、正解だった」
「なんかホラーみたいな語りだなぁ」
「え、テイスト変えた方が良い?」
「いや、そのままでいいよ。ホラーとピザはよく合うから(ムシャムシャ)モアちゃんも食べなよ」
「じゃあ……(モグモグ)……てか私は何を聞かせられてるんだろう……」
「続けるよ」
「淫魔一団の元までやって来たのは少年だった。少年は、開口一番こう告げた。
『突然だけど、君達をスカウトしに来た』、と」
「その口ぶりからして、明らかに淫魔の存在を知る者。淫魔の協力者、という意味でなら、日本にも何人かいたが、この日そんな者が来るという連絡は無かった」
「敵意は感じない、が、その少年は不気味過ぎだ。色々と知られている。その時点で、害なす存在という認識。消すのは記憶だけでは生ぬるい」
「淫魔とはいえ、これでも魔と呼ばれる存在だ。見習いでも、筋骨隆々に鍛えた上げた人間相手を片手で捻られる。ましてや、監督役の淫魔はあらゆる事態に対応出来る手練れ」
「有無を言わさず、監督役の淫魔は少年に襲い掛かった。一瞬で距離を詰め、鋭い爪で切り裂く」
「母さんは思わず目を瞑った。当時は血も苦手な、本当に気弱な淫魔だった。次に目を開いた時の光景は、当然、少年が地に伏している……そう疑わなかった」
「だが、現実は逆」
「少年の横で倒れていたのは監督役。『血の気が多いなぁ』と、少年は気絶する監督役に心配するような視線を向け、次に、スゥっと見習い淫魔らに目をやり、微笑んだ」
「『じゃあ、スカウトについて詳しく説明させて貰うよ?』」
「……ふむ。それで、そのサキュバス一行はどうなったんだい?」
「そのまま、半ば拉致のような形で少年の『職場』に連れて行かれた、と聞いている」
「その少年って?」
「糸奇さん」
「あー」
頭に思い浮かぶのは、あのおぞましくも美しい微笑み。
「当たり前のように置いてけぼりだけど、誰それ?」
「僕のママンの『上司』的な人で、僕が引くレベルの変人」
「うわぁ、わかりやす……特に後半の例えで」
喧嘩のやり方や女の子にモテる方法を教えてくれた師匠でもある。
『あまり悪い遊びを教えるな』と当時のママンがガチギレするほどの相手だ。
「しかし、そんな経緯でシフォンさんがこっちの世界に来たとはね」
「シフォンさんとは私も会った事あるけど……てか、淫魔ってなに? 確かにあの人、そう言われたら信じるくらいにはエロいけどさぁ」
「話の通りでしょ。シフォンさんは魔界から来た悪魔で、夢先姉妹はサキュバスの子供ってこった」
「理解も理解力もある彼君め……ウカノ君は知らなかったの……?」
「君と同じく初耳だけど、普通に受け入れられたね。寧ろしっくりない? 姉妹のドスケベボディがサキュバス由来なの」
「それはそうだけどぉ」
「同意するなよ……」
まだ納得いかない様子のモアちゃん。
「うーん、やっぱ、いきなり言われてもまだ信じられないなぁ。魔界だの淫魔だの、ファンタジーすぎるというか」
「そういう一般的な意見出してくれる子はこの場に必要だね。よしカヌレ、見た目で分かりやすく証明してやろうぜ」
「当たり前のように仕切って……何させる気?」
「そりゃモアちゃんを洗脳とか性的感度何倍にもするとか『生やす』とか」
「ナニ生やさせる気!?」
「まぁ、出来なくはないけど」
「やめて!」
「全部合わせ技でやったら面白そう」
「悪魔の所業だよっ」
「考えたら感度が倍になるって痛みも倍になるよね。拷問に使えそう(チラッ)」
「強引に理解らせるつもり!?」
バッと自らを抱くモアちゃん。




