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143 会長とバイバイン

カヌレと動物園デート中な僕。

彼女の仕事で人喰いUMA捜索というのがあったが、どうやら奴さんが僕らの前に現れたようだ。

その正体とは……大量のモルモット。



「ジジーはオメーと違って忙しいんだ。ほら、ガキ(動物)どもが怖がってるから早いとここのモルモット回収しろ」


言って、スタスタとジジー(園長)はどこかへ行く。

当たり前のように、モルモットを踏まないよう気を配りつつ。


「もー、僕が広げたわけじゃないのにっ、ぷんぷんっ。(パンパン)はーいモルちゃーん、みんな集合ーっ」

「手叩くだけで集まるの……? というかさっきの続きだけど、この子達全部、ラクタ?」

「恐らくねー」

「なんで増えてるの……?」

「インド神話の豪傑ラクタヴィージャ。元ネタには、自身の血を分身に変化出来る能力があってね。この能力で数々の戦果を上げて来たのさ」

「……名前を知った段階で、君はこの流れを予想して?」

「うん。ホントに出来るとは思わなかったけどね。いいもんが見られたよ。ま、そんな分身を出しても、破壊の神カーリーに最後は負けるんだけどね。……お?」


トコトコトコ トコトコトコ トコトコトコ


「わっ……ホントに集まって来た……」


モルモットちゃんらがゾロゾロと僕らの周りにモルモルと。

その数は二百……いや、三百? 兎に角沢山。


「はいっ、素直で良い子達ですねっ。これで全部ですかっ?」


モッモッ モッモッ

顔を見合わせるモルちゃんら。


「もしかして、自分達でも把握出来てない系?」

「キュッ!」


答えたのは、頭上のモルちゃん。

ブンッとヘドバンすると、モルちゃんはポフンと僕の腕の中に落ちる。


「てか、君もラクタの中の一匹だった?」

「キュー……」

「オマエモ ブンシン ダタノカ」

「なんでカタコト……?」

「アマンちゃんとこのモナオーも一ヶ月前にお迎えしたらしいけど」

「キュッ」

「あの子もかー。モルモル天国だねぇ」

「割と地獄みたいな状況だけどね……君がいるから大人しいけど」

「興味深いねぇ。分裂は何匹までいけるのか、増えるほど弱体化するのか、それぞれの思考の違いとか、とかとか」

「……で、解決策は?」

「強いて言うなら、この子達次第かな」

「ええ……丸投げってこと?」

「ようは、この子達が一匹に纏まってくれればいいんだろ? ほら頑張れラクちゃん」

「キュー……」


困ったような顔を見せるラクタ。


「そんな可愛い顔見せても優しくしないぞ。いいかい君、いや、君達と呼ぼう。君達は今すぐにでも変わらなきゃいけない」

「なんで今すぐなの? いや、早く落ち着くに越した事は無いけど」

「この子達の身の危険を考慮して、だよ」


僕は指を一本立てて、


「君達の今日に至るまでの道筋ストーリーはこうだ。

生まれた研究所から脱走した君達。

君達は世界各地に散らばった。

君達には行く当てもなく、喧嘩に勝った獣で食い繋いでいく日々。

そんな生活を続けて、最後に君達が辿り着いたのがこの国だ。

君達は平穏を求めてる。

この国を選んだのはある意味では正解で、ある意味では最悪の選択だ。

君達を狙う連中はこの国に矢鱈集中してるからね」


そうでしょ? とカヌレに目をやると、彼女は相槌をうつ。

適当に言ったんだけど本当らしい。


「でも、中にはキチンと保護してくれる場所もある。それがっ、このっ、僕の実家の『庭』だぁ!」

「一番最悪の場所じゃないか……」

「僕の実家には豊かな自然の庭があってね、伸び伸びと暮らせるよ。例え君が千だの二千だのバイバインが如く無限に分裂しようが広いから問題なし。もう逃亡生活は嫌だろう?」

「「「キュッキュ!」」」


喜びの表情を見せるラクタ達。

けれど、上手い話には裏があるもの。


「おっと、ぬか喜びするなよ? そこは優しくも厳しい大自然だ。弱肉強食のシンプルなルールが支配する世界。君も、猛獣を相手に食う食われをしてきたんだろうけど、結局は勝てる勝負しか選ばなかった」

「キュ……」

「このままじゃあ僕はただ庭の生き物達に餌を投じただけになっちまう。寝覚も悪いってもんだ。僕の言いたい事が分かるかな?」

「キュ……!」

「そうっ、その目だ! 縄張りは自分の力で得るしかない! 証明してみろ! 生き残れるという証明を!」

「え、なに、そういう流れ?」


ザザザッ

お互い示し合わせたように距離を取る。

数千もの瞳が僕を睨む。


「手を出さないでよカヌレ。これは男の勝負だ。いや、ラクタが女の子でもそれは変わらないっ」

「出さないけど、早く終わらせてね……? 『周りの目』もあるから」


↑↓


対峙する彼とモルモット集団。


なにやら戦う流れになったらしい。

どうしてこうなったかは説明出来ない。

まぁ殆どはその場のノリという事で納得するしかない。


両者はまだ動かない。


片方は待ちの姿勢で、片方は攻めあぐねいている印象。

まぁ今回彼は胸を貸す立場だから、先に手は出さないつもりらしい。


かと言って……今の彼からは、近付けばヤバいとわかるオーラがダダ漏れている。

ラクタも本能的にそれを感じているから、先手を取れないのだ。


触れれば爆ぜると分かっている爆発物、それが今の彼。


「「「キュ……!」」」


だが、このままではいけないとラクタも感じているのだろう。

攻めなければこの先は無いと理解している。

あとは、一歩を踏み出す切っ掛けだけ。

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