142 会長とノーブラ
カヌレと動物園デート中な僕。
途中、映画撮影のスタッフらと再び絡む流れに。
動物園内に潜む人喰いモルモットの事を話しておこうかと……
チラリとカヌレを見る。
話していいの? というアイコンタクト。
件の人喰いモルモットラクタは、この撮影スタッフやらキャストらも無関係ではない。
「……いや、大丈夫だよ話しても。というかこの撮影スタッフや演者らは皆、私の家の『関係者』みたいなものだからね。事情も分かってる。逆に、君が確認して来た方が意外だ」
「んだとぉ? 僕ほどの気配りさんはめったに居ないぞぉ?」
「その気遣いを少しは私に回して……」
許可が下りたので、アマンちゃんに現状を説明。
周りのスタッフにはアマンちゃんが伝えるだろう。
「ふぅむ。そのようなUMAがこの動物園に、ですか。厄介ですわね……」
「撮影中止になるから?」
「いえ。厄介なのは『モルモット被り』なことで」
『被り?』
「こちらです」
スッと、自らの頭を指差すアマンちゃん。
そこには……
「おや、お揃い」
「みたいですわね」
彼女の頭にもモルモットちゃんがチョコンと。
同じ三毛だ。
「キュッ」「キュキュ」
僕のと彼女のが顔を合わせると、鼻をヒクヒク、なにやら仲良く情報共有していた。
「君のモルちゃんは何用? ファッション?」
「ファッションで連れ歩くのは君くらいだよ……」
「お忘れになって? この作品での主人公の相棒はモルモットでしょう」
「ああ、そーいえば」
ゴスロリビッチ探偵は、肉体言語(直球)で操作する他に、相棒のモルモット【モナオー】の助けも借りて捜査する話だ。
見落としがちな証拠を見つけて貰ったり、動物的勘で犯人を特定したり、モフモフ癒しのマスコットだったり。
無くてはならぬ存在、というか九割方の探偵要素はこのモナオー。
「モナオーみたいに賢そうな子だね。教育は出来ていて?」
「ええ。急拵えではなく、実際にわたくしの家族ですからね。『先月お迎えした』のです。原作のモナオーに出来てこの子に出来ない事はございません」
「それは頼もしい。……にしても、こうも三毛のモルモットが集まると、探してる人喰いモルモットとごっちゃになりそうだね。『見た目もそっくり』だし」
「ええ。同じ三毛のモルモットでも、それぞれ顔を見比べれば見間違えはしないと思っていましたが……件の映像の子と貴方の子とウチの子、驚く程に『そっくり』ですわね。『瓜二つ』と言ってもいい」
「それな」
「いや、こっちのモルモットはウカノ君のペットじゃないんだけどね……」
まるで僕とセレス、カヌレとわらびちゃんみたいな双子のよう……いやこの子らは三つ子か。
しかしそれも正確ではない。
純粋な一卵性双生児でも、生きていれば見た目に差異が出る。
僕ら男女の兄妹なら尚更だ。
同姓のカヌレとわらびちゃん姉妹は瓜二つだが、それでも違いは『僕には』分かる。
けれど、この子達は、まるで……
「その大喰いモルモットさんの名前、ラクタ、でしたか。ならばモチーフから考えて……」
「うむ。君も気付いたか」
「インド神話知ってるって普通なの……?」
ギャーギャー パオーン アオオオオ ゲッゲッゲッ
「おっ? なんだなんだ? ここはアマゾンの森か? アニマルがお祭り騒ぎだな」
唐突な、動物達の叫び。
悲鳴で駆け付けたさっきといい、この流れ多いな。
「ウカノ君っ」
「ああ。やっこさんが出たのかもしれねぇな。動物達も『まだ手を出すな!』『野郎舐めやがって!』『ぶち◯す!』と殺気立ってるよ」
「おや、動物の話してる言葉が解るのですね?」
「うむ。会話も出来るよ。寧ろ人間より会話してるよ」
「それもどうなの……」
「ニャーニャニャニャー」
「むっ、猫語ですか今のは……」
「『カヌレは朝僕の前でもノーブラ』って言ったんだ」
「なんで今それを!? ほ、ほらっ、早く行くよっ」
タッタッタッ
「これは……」
騒がしい場所を目指し、辿り着いた途端、言葉を失うカヌレ。
モッモッ モキュキュ キュワワ
モルモルモル……『大量のモルモット』が、そこら中に溢れていた。
その全てが三毛のモルちゃん。
このエリアは猛獣系が多い場所。
ライオンやらトラ、クマやイノシシらが居る。
一触即発な空気だが、幸い、どこもまだ戦いは始まってない様子だ。
「もしかしてこれ……全部ラクタ?」
「わっしょい!」
「チョッ!?」
カヌレの問い掛けを無視してモルモットの集団に飛び込む僕。
ばふんっ と優しく受け止めてくれるモルモット絨毯。(靴は脱いだ)
なんとなく、大丈夫だろうという確信が僕にはあった。
普通のモルモットであるならば重さと勢いで潰れてただろうが、この子達は何もなかったように鼻をヒクヒクさせている。
そう、怒っていないのだ。
攻撃とも取れる僕の行動に、しかしモルモット達が怒る様子は無い。
「なんだこりゃ!?」
現場にやって来た飼育員さんは、園長である。
だがすぐに、モルモットの海でゆらゆら仰向けで寛いでる僕を認めると、「はぁ……」と呆れ顔に。
「ったく。お前が来るといつもお祭り騒ぎだな。さっさと解決しろよ?」
「職務放棄かよジジー」
「ジジーはオメーと違って忙しいんだ。ほら、ガキ(動物)どもが怖がってるから早いとここのモルモット回収しろ」




