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【バッテリー特別編】


トゥルルルル…… ピッ


「もしもしー」


『……ど、どうしたんですか、急に電話なんて』

「ちょっとねー、変な電車に乗っちゃってねー」

『な、なんの話です? 乗る電車を間違えたと?』

「やー。乗るホームも時間も間違えてないんだけど、スマホ見てたらふらりと何も見ず電車に乗っちゃってさー。んで、今その電車の中なんだけどー」

『で、電車内での通話は周りの客に迷惑ですよ……』

「いないんだ」

『え……?』

「客が一人もいないんよ」

『……べ、別の車両にいるのでは? 時間帯によっては、そんな日もあるでしょう?』

「なのかなぁ。あっ、やっぱ人いたわ」

『で、でしょう? 安心しました』

「んー? でも客の様子がおかしいな。みんな俯いてるし。スマホ眺めてるとかでもないし」

『……み、みな疲れているのでは?』

「あとなんか半透明なんだよね。学校も真っ黒なスーツとか着物で……喪服?」

『…………い、行き先はどこになってます?』

「んー、出入り口の上にある案内表示は文字化けしてるなぁ……【繧√>縺九>】駅だって、知ってる?」

『い、今なんと発言したんですか?』

「おーい(ペチペチ)だめだ、お客さんも反応無し。まるで『死人』だね」

『……あ、案外、間違いではないかもしれませんよ』

「なにっ。まさかここはっ……!」


『し、死者を運ぶ列車……という可能性もあります』


「ふええ怖いよー」

『な、ならもう少し声を震わせて下さい……』

「喉トントンでやればイケるけど宇宙人のモノマネみたいになるぞ?」

『き、緊張感無いですね……一人で帰れますか?』

「反応が軽い! 迷子の子供扱いか! もう戻って来れないかもなんだよ!?」

『う、ウカノさんなら気合いで帰れるような……最悪、カヌレさんでも呼べば普通に迎えに来てくれると思いますよ』

「やーだー、誘導してよー、今日は『バッテリーの日』って記念日だよっ。夫婦の絆の人だよっ」

『と、唐突な記念日要素を……それ、電池だとかの意味では』

「気に入らないなら数日前(六日)の『姉の日』要素でもいいぞ」

『と、年上でも貴方の姉では……。というか、私が適任なのですか……?』

「ホラー関係の管轄はわらびちゃんでしょ?」

『い、いや、そんな話は初耳ですが』

「カヌレはUMA系が多いけど、わらびちゃんはホラー系の仕事多いじゃん」

『い、言われてみれば……』

「ま、そんなわけで誘導よろ」


『はぁ…………で、では、周りの状況説明を』


「んーとね、外は薄暗いかな。夕方とか夜とかそんな感じじゃなく、陽の当たらない部屋みたいな薄暗さ。まだ昼過ぎだってのに。あ、外にはバーっと彼岸花が咲いてるよ。少し光ってる。もう冬で咲いてない筈なのにね。いかにも現世うつしよじゃない感じだ」

『……あ、明らかに神奈備かんなびです。踏み込んでしまいましたね』

「神奈備?」

『げ、現世と常世とこよの境目の世界です。黄泉比良坂は……まぁ別にあるのでしょう。その列車は死者を運ぶ列車で間違い無いと思います』


ガタンゴトン ガタンゴトン


「うーむ、列車。12月1日は鉄の日らしいからピッタリだな」

『そ、そこまでして記念日にこじつけないでも』

「しかも幽霊列車か。ホラーでは無いけど死者を運ぶ銀河鉄道の夜が有名かな。あれは大正の作品だけど……もっと古い、明治の頃の話だと偽汽車にせきしゃって怪談があってね。狸とか狐が深夜に列車に化けて人を脅かせてたんだ」

『ま、まぁ妖が人を化かす怪談は昔からありますからね。コレがそうだと?』

「いや、偽汽車は急に線路に現れて、線路にいる人に『轢かれた!』と思わせといて素通りする系の怪談だから、中に乗れたって話は無かったと思う。てか狸だの狐なら『匂い』でわかるよ」

『あ、貴方の方がよっぽど妖怪してますね』


ガタンゴトン ガタンゴトン


「電車のホラーといえば、ネット発祥の都市伝説『きさらぎ駅』とかだよね。ああいう、異界へと連れてく電車の調査の仕事とかもしたりした?」

『ま、まぁ、ありましたね』

「どういうことするの? 電車を破壊したり駅を破壊したり?」

『ち、力技が過ぎるのでは?』

「だって、第二の第三の一般人の犠牲者を減らしたりするのが目的じゃ?」

『わ、私達は正義の味方とは違いますからね……飽くまで、表の世界にそういった裏世界の存在を隠蔽するのが目的なので。それに、基本的に、そういった電車や駅はそういった利用客の為のものです。それにたまたま一般人が乗ってしまったりして問題になるだけで。依頼があれば救出に行ったりもしますが、それ以外では特に。ワザと誘き寄せて秩序を乱す輩は排除しますが』

「じゃあ依頼するから助けに来てわらびちゃん!」

『す、すいません、邪魔にしかならないと思うので』

「自信を持てよー」


ガタンゴトン ガタンゴトン


「てか、そんな幽霊列車でも普通に通じ合える今のスマホはすげぇな?」

『で、電波というものは案外不確かな存在ですからね。山の中よりも神奈備の方が通ったりするものです』

「ふぅん。因みにこれ、乗り続けたらどこに辿り着く? 君ンとこの魔界とか?」

『そ、その列車は日本人向けでしょうからなんとも。まぁ有名どころな三途の川だのに着くのでは無いですか?』

「適当だな。パパ泳いじゃうぞ?」

『ふ、冬の川は冷たいでしょうね』

「しゃあない。濡れるのは嫌だから途中下車するか」

『も、目的地まで停まらないのでは?』

「先頭車両まで行けば車掌さんいるでしょ。停めて貰うよ」


………………

…………

……

ギャギャギャギャアアアアア!!!!!

……


「ふぅ。仕方ないよね、車掌さんがいないんだから、仕方ないよね」

『す、凄い金切り音が聞こえましたが……』

「停まらないから停めるしかなかったんやっ」

『で、電車を停めたんですか……どうやって』

「たまたまポケットにイイモンが入っててね。凄く成長の早い植物【オメガジュマル】の種さ。それを窓からポイッと投げると、みるみる大木みたいに太く成長、この電車に絡み付かせて緊急停車させた、ってわけ」

『ち、力技……死者らが冥界へと行けなくなったらどうするつもりで?』

「停められるような弱々な電車に乗ってしまったのは不幸だね。今もみんな急停車の衝撃でその辺に転がってるよ。死んでなければ死んでいたね」

『か、彼らにとっての不幸は今では……』

「ま、この絡み付いた枝を外せば幽霊列車はまた動き出すっしょ。ヨッ」


アーアアー


「ヨッと。スタッ。華麗に着地っ」

『な、なんの掛け声ですか今のは』

「ターザンして窓から外に飛び出たのさ」

『か、考えれば、貴方ならば電車を停めなくとも走る車両から飛び降り出来たのでは』

『無茶言いやがって、映画のスタントマンか。まぁ出来なくはないけど』

『……こ、これからどうするつもりですか』

「そりゃあ『あの世』の探索なんて滅多に出来ないからね、色々見て回るつもりだよ」

『ぴ、ピクニック気分……』

「おっと、先ずはオメガジュマルの回収っ(ヒュルルルル!)っと。僕が触れると掃除機のコードみたいに種に戻る生態も面白いなぁ。……お」


ガタンゴトン ガタンゴトン


「良かった、電車走り出したよ。ふふ、ちゃんと乗客を届けるんだぞ?」

『い、良い事した風に呟いて……』

「さ、探索探索っ」


スタスタスタ


「気になってたんだよねー、この淡く光る彼岸花。持って帰ろーっと。君にプレゼントするよ、花束でっ」

『け、結構です……』

「おっ、側にイチゴみたいなの生えてるよっ。あーん(パクッ)……ふむふむ、なんだろう、ザクロ? いちじく? 不思議な味だなぁ」

『へ、平然とよもつへぐいを……帰れなくなりますよ』

「ご当地グルメってやつだ、これも持って帰ろっと。さてさて、少し歩きますか」


トコトコトコ


「いやー、しかし一時はどうなるかと思ったけど、下車出来てよかったね」

『も、もう解決した風に話して……そのままあの乗って目的地に辿り着いていた方が、そこから帰りの電車があったかもしれないのに』

「今更言うなよー。でも案外、ショッピングモールとかあったかもねー」

『そ、そんなものがあるわけ…………いや、そういえば母の知り合いにはこの神奈備に『宿を構えてる』人がいましたね……有り得なくもない話かも』

「何が売ってると思う? 【死者が蘇る薬】とか【任意の相手を地獄に落とす権利】とかありそうじゃない? お中元お歳暮コーナーに」

『そ、そんなものを送り合う世界は嫌ですね。寧ろそういった商品を欲しがるのは生者側では?』

「かもねぇ。自由に人の生き死にを操れる世界は混沌としそうだねぇ。葬儀屋と坊主が泣きそう」

『そ、そういう世界を人は地獄と呼ぶのですよ。そうならないよう私達がいるのです』

「カッコいいね。あ、でも人を生き返す植物ならウチの『植物園』にもいるぜ? 死者に寄生して操って種を別の場所に運ぶタイプのが」

『そ、それは生き返ったのとは別物だと思いますが……くれぐれも世界に広げないで下さいね』

「植物に悪意は無いからねぇ」


スタスタスタ


『そ、そも、こういう生き死にを扱う側の世界は規則に厳しいですよ。誰が死ぬか、誰が死んだかをキチンと管理するお役所仕事なので』

「夢がないなぁ。あ、でもよく悪魔呼んで人を生き返すみたいなやつあるじゃん。ああいうのは良いの悪魔さん?」

『そ、その呼び方はやめて下さい…………そういう契約をするという悪魔は昔から存在しますが、基本、人は生き返せませんよ。先程の寄生植物の話と同じで、例え目を覚まし生前のように振る舞ったとしても、それは本人の情報を持ったモノでしかありません。魂は既に別の場所にあります』

「それでも良いって人は多そうだけどなぁ。契約の代償やばそうだけど」


テクテクテク


「んー。殺風景な草原が続くなぁ、コンビニでもないかなぁ。この世界に迷い込んだ人を戻してくれる薬【イキカエール】とか置いてないかな」

『よ、用途が限定的すぎますね。すぐに終売しそうなのは置きませんよ』

「人も獄卒も居なくて物足りないよ。花火鳴らしたりして大暴れすれば誰か駆けつけるかな?」

『だ、駄々っ子みたいです……そこは広いでしょうから、気付かれない可能性の方が高いと思います。結局、そこには貴方が思うような楽しいものなどないでしょう?』

「降りた場所が悪かったんだろうなぁ…………むっ?」


タタタッ タタタッ


「カヌレっ、カヌレっ。なんだかこっちに向かってくる足音が聞こえるよっ」

『え? あ、ああ、来ましたか』

「なに? 知り合い? ……おや? あのシルエットは……デカい犬の上に……人が乗ってる?」


タタタッ タタタッ タッタッタ……


「ニャー」

「おー。(学園祭ホラー回等でお世話になった)白狐ちゃんぢゃん。どしたのこんな死後の世界で?」

『そ、その通りなんですがシュールなセリフですね』

「ニャ」

「ほぉん、『迎えに来ましたわよ!』ってか。世話掛けるねぇ。わらびちゃんが連絡してくれたの?」

『て、ええ、まぁ』

「そっか。言われてみれば狐って、神の使いだの神そのものだのって逸話があるから、こんなとこに来るのなんて余裕か。しっかし、なんかデカくなってね? もの◯け姫の犬くらいデカいぞ?」

「ミャ」

「『こちらではこの姿になりますの。いいから早く帰りますわよ』か。へーへー」


「おい」


「ん? セレス、居たのかい。誰か白狐ちゃんに乗ってるなーって思ってたけど」

「それが迎えに来た恩人に対する態度か」

「別に白狐ちゃん一人でも良かったんじゃなーい?」

「ウカのスマホの位置情報辿って来た。私の機転に感謝しろ」

「なに! いつの間に人のスマホにそんな設定を! 子供扱いか!」

「子供の方がもっと賢い」

「ニャ!」

「はいはい分かった、すぐに乗るよ。ほらセレス、前に詰めて」

『ほ、本当にピクニック気分ですね』


タッタッタ


「……ん? あっ! アノ電気付いてる建造物! コンビニじゃね! やっぱあるじゃんコンビニ!」

「そうだけど寄らない」

『ほ、本当にあるんですね……』

「おーろーせー! コンビニ行くー! もっと探検するー!」

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