135 会長とビッチ
わらびちゃんの家を追い出された僕は、次にカヌレと時間を過ごす事に。
動物園にいるらしいのでやって来ると、何やら芸能人時代の知り合いと会話をしていた。
その動物園では今、映画の撮影をしているようで……
映画化、というのであれば有名作品か?
オリジナルの可能性もあるが……しかし、カヌレの元同僚だという彼女、アマンちゃんの格好には見覚えがある。
「じゃあ、そのゴスロリの格好がヒントかな? ……もしや、あの(わらびちゃんが短編で描いて話題になった)【ゴスロリビッチ探偵】、とか?」
「ええ、その通りです。よく分かりましたわね」
「君の妖艶さで気付いたよ。スラリとしたロリ体型から醸し出される淫靡な雰囲気……見た目も主人公のビッチ(名前)そっくりだ。捜査関係者を誘惑して情報を集めるスタイルは、宛ら女スパイこと不二子ちゃんのよう」
「相変わらず酷いタイトルと内容だ……」
批判するカヌレだが、中身はしっかりしたミステリーもの。
ほのぼの(?)四コマを描いてるわらびちゃんだが、このゴスロリはしっかり濡れ場もありつつ、ゾッとする殺人やライバルとも共闘する熱いシーンもある名作。
日本を代表するなんちゃら大賞も受賞してた記憶。
「ああ、そういえば大事なことなんだけど、濡れ場はどうするんだい?」
「真面目な顔でなに訊いてるんだ……」
「どうする、とは?」
「君も僕らと同世代に見えるけど、流石に未成年の濡れ場はアレだろう? 上手くボカすのかい?」
「勿論、原作通りですが?」
「ほぉん、良い答えだ。濡れ場あってのビッチ。しかし、お嬢様学校山百合学園の生徒として、それはいいのかい? 校風だのイメージだので、退学させられないかい?」
「学園の校風は『個人の信念の尊重』です。生徒が『これだ』と決めた道は王道であれ邪道であれ支持してくれるらしいですよ」
「良い学園だ」
「そうかな……」
まぁ生徒に丸投げして責任取らんとも取れるけど。
「……はぁ。アマン、君はただ裸体を周りに見せたいだけだろう?」
「ほほほ、バレていましたか。これも『私達の』性でしょう?」
「ど、同意を求めるな痴女め」
「そろそろ行こーかカヌレ。じゃーアマンちゃん、撮影頑張ってねー」
「ええ。ではまた」
その場から少し離れて、
「面白い子だったねー。あんなライバルが君に居たなんて」
「……彼女も、私の両親が営む総合芸能プロダクションの人間でね。だからこそ、やりたい放題が許されている。その代わり、自ら企画を提案したからにはやり遂げる事が必須だけれど」
「君も好き放題やってたのかい?」
「好き放題……というよりは、NGが多かったかな。バラエティ出演とか……は、肌の露出の多い服とか。上もそれを分かってるから、提案も無かったが」
「ふふ、そんな君が今では、僕の前じゃNG無しだもんね」
「NGあるよ!? ……はぁ。現役の時は、やたら絡んで来る彼女を鬱陶しいと思ってたけど、今思えば君より扱いづらくはなかったかな……」
「手の掛かる子ほど可愛いってね」
「自分で言うなよ……」
「君も僕にとっちゃ手の掛かる子だと自覚してるかい?」
「……まぁ、自分の面倒くささは解ってるし」
「手の掛かる子ほど可愛いってね」
「……ほら、動物、見ないの?」
「おー、そーだそーだ」
本題である動物園デートを始動させる。
デート、とは呼んでるが、しかしこの九木山動物公園、大きな動物園のような派手さは全くない。
小動物ゾーンではヒヨコやうさぎ、爬虫類ゾーンではカメやトカゲ、虫ゾーンではカブトムシや蝶などなど……
玄人好みな渋さで、何度も通った子供はすぐに退屈するだろう。
けれども……
触れ合いコーナーにて、僕はモルモットを撫でながら、
「このショボさが良いよねー」
「なんでさっきから小動物系(?)しか行かないの? いや、別にいいけどさ……花形のライオンとかゾウとかキリンは見ないの?」
「おいおい、人が折角素朴な動物園もいいよねアピールしてたの王道アニマルも実は居るってバラすなよぉ」
「誰向けにアピール……?」
「言い訳出来ねぇじゃねぇか。一通り動物揃ってるのに大盛況じゃない事の言い訳をよぉ?」
「いや……こんなもんでしょ平日の動物園って。大きいとこも例に漏れずさ」
「僕はもっと盛り上がらせたいんだよ。ここには昔から楽しませて貰ってるからね。バズれば客も増えて新しいアニマルが導入されるかもだぜ?」
「その新しいアニマル導入が目的でしょ回りくどい。そもそもここ、市営でそこまで無名でもないし……少なくとも、今回のあの映画の舞台って事で話題にはなるよ? いや、今更ながら子供も来る場所で過激な映像を撮るのはどうかと思うけど」
僕はモルモル動くモルモットを持ち上げつつ、
「サーバルとジャガーをこの動物園で見たいんだよなぁ……知ってるかい? 水辺で無類の強さを誇り恐怖の対象となってるワニだけど、ジャガーはそのワニの頭を噛み砕いて食べるんだよ」
「唐突に何の豆知識……?」
「普通のネコ科は相手の首根を噛んで窒息させる狩り方法だけど、ジャガーは顎の力が強くてね。そんなまどろっこしい方法は取らず相手を噛み殺すんだ。バギッとね(パクリッ)」
「キュッ!?」
「頭甘噛みされてるモルモットちゃんがビクついてるからやめたげて……」




