126 サキュバスと仮想世界
朝から知り合いの喫茶店でモーニングと洒落込む僕とアンドナ。
朝の営業時間も過ぎ、僕らの席で賄いを食べ始めた店の娘ことモビー(モブガールB)ちゃんを恋愛方面でいじってたら、どっか行っちゃった。
「乙女心は複雑だねぇ。青春だねぇ。甘酸っぱいねぇ」
「だから、あまりイジってやらないで……」
「うん、そうそうそうだね、モビーちゃんは関係無いね。僕らの話だもんね。まだ途中だね」
「まだ続くの……?」
「当然。因みにさっきの話、僕が何を言いたいか分かるかい?」
「……デート、同時に複数人ではしない、ってだけの話でしょ?」
「うむ。さっき言った通り、その日デートする相手を一人、アプリでランダムに一人決める。当然、同じ相手と連続ってのと一人飛ばしとかは無しで、必ず一巡させる。平等だろ?」
「……別に、ルール決めないでも今まで通り、キミの気紛れでも構わないけどさ、私は」
「ふぅ……あんまこの子を調子乗らせない方がいーよー? アンドナちゃん」
む?
「なんだいモビーちゃん、もうこっちに来ないかと思ってたよ」
「思ってたけど暇だからね。片付け手伝わなくても済むし。あと、あのまま逃げたら負けたみたいじゃない?」
「そう思った時点で意識してるようなもんだけどね。おや、それはアイスティーかい?」
「うん。親父はコーヒーに拘ってるけど適当に淹れた紅茶の方が美味いって皮肉よ。あげないからね?」
「ちぇー」
チュルルとモビーちゃんはストローでティーを吸い上げて、
「しっかしウカちゃん。話を戻すけど、私は君のその計画には否定的だよ。なんだか女の子を管理してるみたいでね。アンドナちゃんの言うように、まだ君の気紛れで振り回す方が健全的に思える」
「そうかい? 現実的な案だと思うけどなぁ」
「デート先だってランダムなんでしょ? 例えば、女の子が前のデート先と同じとこを偶然リクエストして来たらどうするん?」
「また同じ場所行っても良いよ? けど基本、デート先は僕が『行った事ない場所』だから、僕のテンションが落ちてるよ」
「清々しいほどのクズめ……逆に、君が行きたい場所に既にヒロインが行ってたら?」
「当然行かないさ。まぁオープン初日に行くとか、事前にさり気なく『行くなよ?』アピールはするけど?」
「ランダムの意味とは……」
「お互い新鮮な気持ちでいたいんだよっ」
「君が楽しみたいだけだろっ」
ええい、一々細かい奴だ。
「(ボソッ)だからまだ個人ルートに入れてねぇんだよ」
「聞こえなかったけどなんかムカつく事言われた気が?」
「いいかい? 僕の方針は間違ってないと自信を持って言えるよ。仲間やヒロインが増える度に戦闘シーンやデートシーンが増えてテンポが悪くなる漫画みたいにはなりたくねぇんだっ」
「色んな方面に喧嘩売ってんな……」
「まぁ僕の気紛れの方がマシとは君ら言ってたけど、これも気紛れだからね。なんか違うな? と思ったらやめるかもしれん」
「もう好きにすればいいじゃないかな……アンドナちゃんは? 何か意見ないの?」
「満足するまで好きにすればいいんじゃないかな」
「理解ある彼女め……」
しかしこのモビーちゃんは人の恋愛事情気にしてる余裕あるんだろうか?
「君こそ、主人公君との絡み(イベント)が少なくなったらやばいと思いな? ルート外れてる可能性あるから」
「こそ、ってなんだよゲーム脳。この世界はギャルゲーじゃねぇんだぞ?」
「実はここは僕の脳内世界で君達はNPCなんだろう?」
「あり得そうだからやめて……」
「知ってるよ。僕が認識してない時は皆活動を止めてるんでしょ? このAIどもめっ」
「そういう妄想した時あるけどっ」
AIであるモビーちゃんが真実を否定する展開は想定済みだ。
……おっと、アンドナを一人にしてたな。
当事者なのに我関せずとコーヒーをチビチビ飲んでる。
現実の人間である彼女とは触れ合わないとな。
「アンドナ、君が心配な気持ちも分かるぜ? 『日常が壊れる』と心配なんだろう? 安心してっ。今まで通りの一日のルーティンは崩さないからさっ。平日はフリーで、アプリを使うのは土日祝日っ。変わらず、夜の時間は君担当だよっ」
「んー? そっかー」
「コイツ、適当な返事しやがって……後で吠え面かかせてやるっ」
「君らホントにカップルか……?」
「さっきから言ってるけど、私は君の自由にしていいと思うよ。因みに確認だけど、お泊まり系の場合はどうなるの?」
「んー、一泊のお泊まりデートの場合は二日使用って感じかな。その後は他の子も平等に連続お泊まりデートでどっか行くよ」
「オッケー」
「理解ある彼女過ぎる……」
ふと、そういえば今って何時だろう? と店内の壁掛け時計をチラリ。
「おっと、もうこんな時間か。そろそろお暇させて貰うぜ。名残惜しいのはわかるけどなっ」
「はよ帰れっ」
「ツンデレだなぁ、それは主人公君の前だけでやりなっ。でも最近はツンデレヒロイン負ける傾向が多いから程々になっ」
「やかましい!」
「お、帰るんすか? お会計っすねー」
主人公君にレジを打って貰い、店を退店。
既にcloseとプレートは裏返っていた。
ハァ とアンドナは息をついて、
「大分居座ったね……もう入れてくれない気がする」
「良いお店だったね。また来ようね」
「相変わらずの図々しいメンタルだ……」




