119 兄妹と神楽 9
箱庭神楽が終わった。
……さて、神楽を終えた今の彼らはというと……
「むぅ、残ってんのはロボの腕だけかよぉ。なに勝手に自爆させてんだよ雑草がよー(ペチペチ)」
「ドリーをペチペチするな。第一、ウカがドリーを酔わせたのが全部悪い」
「盛り上がっただるぉ? あーあ、ロボでなー、ビューンて飛んでなー、悪い国をなー、ビームやロケットパンチで火の海になー」
「アンタが一番極悪」
「おっ? なんかロボの腕に怪しいボタンついてるな? 『caution』? カウトイオン? イオンモールに行けば本体が買える? そういえば、イオンの看板は赤かったな……?」
「アレはロボットにはならない」
「これ押したらどうなるかな? 変形してミニロボになるかな? (ワクワク)」
「また爆発するかもしれないから帰ってからやれ」
ステージ上で反省会をする兄妹ら。
既に、演者の動物達は撤収済み。
そして当たり前のように復活してるドリー。
落とされた首(?)も生え、都心のビルのような大きさだった幹も、元のこじんまりとした(普通の木の)サイズに。
和気藹々と三人(?)の世界に入っていて、放心してる客に気を配る様子は無い。
元より、一般人に向けての神楽では無いので、彼らが気を遣うわけもなく……。
「これで一件落着って……? そうね、そうよ。脅威が去って万事解決よ。何が不満なの?」
ふと。
正気を取り戻していた隣の彼女が、ブツブツと独りごちりだす。
「じゃあ私は? これからどうすればいいの? 追っていた組織はよく分からない連中に潰されて唯一の手掛かりも無くなった。母さんを……助ける手掛かりが……」
何となく、彼女の背景を察せた。
そりゃあ、事情もなくこんな仕事をしているわけがない。
まぁ、だからと言って、助けるつもりはないが。
知り合いでもないし。
人を助ける、という事は、最後まで責任を持つ事だ。
猫を拾うのと同じ。
なので遠慮無く、この場を去らせて貰う。
…………
……しかし、なんだろう、この頭の隅に引っ掛かる感じは。
買い物を一つだけ忘れたような、見たかった動画を思い出せないような、その程度のモヤモヤ。
別に、思い出せなくても良い、不要な心配で…………『不要』。
そう、不要、だ。
必要だったか? この神楽の場に、この彼女は。
全ての者に役割があるとまで言わないが、少なくとも、やられた敵役の二人は神楽を盛り上げる礎となってくれた。
『あの人』が招いたであろうゲスト達。
「……、……貴方、早くここから離れた方が」
「やっほー、カヌレちゃーん」
……間に合わなかった、か。
元より、逃げられるわけがないのだが。
私の(彼女への)きまぐれな気遣いも無駄になった。
「……こんばんは、プランさん」
「おやぁ? つい呼んじゃったけど、実際はわらびちゃんだったり? 『それとも』……誰にしろ、間違えてたらごめんねっ」
「……まぁ、どんな呼び方でも構いませんよ。神楽を終えた兄妹の所に行かなくてもよろしいのですか?」
「すぐ行くよー。そ、れ、よ、り。何か悩んでそうな女の子の声が聞こえてねー?」
グリンッ
と首を回してロックオンしてくるプランさんに、ビクッとなる彼女。
「あ、あの、何か私に御用で……? というか、どちら様……?」
「私はプラン。手短に説明すると、『あそこの兄妹』の母親だよ」
「ッ! あの二人の……!」
「で、どうやら君、この先の道に迷ってるそうだね?」
「……は、はいっ」
「どうかな。私とビジネスパートナーになるというのは。きっと、君の望む報酬を与えられる筈だ」
「ほ、本当にっ!?」
「……私は失礼しますね」
交渉をする二人を残し、今度こそ場を後にする。
プランさんも悪い人だ、ここぞというタイミングで現れる。
そも、彼女が困っているこの状況すらプランさんの脚本通り(マッチポンプ)という可能性も……なんて、疑い出したらキリがないので、考えない。
私から見れば、彼女にそこまで利用価値があるとは思えないが……プランさんにも思惑があるのだろう。
彼女は、きっと願いを叶えられる筈だ。
そこはプランさんを信用していい。
『どんな代償』を払っても構わない、というのなら。
おーいー
遠くステージの上で、私を見つけた彼が手を振っていた。
私は私の物語に戻る。




