117 兄妹と神楽 7
箱庭神楽ももう終盤だ。
巨大ロボの乱入という不測? の事態の真っ最中だが、それももう、雑に処理されそうな流れである。
「嘘でしょ……アレは古代兵器よ? 広大な都市を更地にする、悪魔の蒐集品よ……?」
自身の常識(世界)を再確認するように、先程のセリフを繰り返す隣の彼女。
一方的なロボの猛攻も、全てドリーに鬱陶しそうに払われて終わる現実。
そんな現実を、たとえそれが敵であっても、認めたくないのだ。
自身らを苦しめていた悪魔が、こうも片手で捻られている姿を。
『……ハッ。この既視感……思い出したぞ。いや、何故忘れていた? お前達は、我が国を、数分で地図上から存在ごと消した天災……!』
「は? 国を、存在ごと消した……?」
「ああ、成る程……これは『そういう繋がり』で……」
「……貴方、何か知っていると?」
「そういう貴方はご存知無いですか。ここ最近、そういった奇怪な出来事があったのを」
「…………心当たりは、ある」
彼女は語る。
先月、とある島国の人間全てが忽然と姿を消した、と。
彼女の組織も、蒐集品の仕業と調査したが、原因は不明。
ここ(日本)ほどの面積と人口の国が一晩でもぬけの空に。
全ての街が、戦争でもあったように荒れていた。
地面には、怪物でも這い出てきたような無数の大穴がチラホラと。
しかし、死体も血痕も無し。
只事では無いにもかかわらず、世界が騒ぐ様子は無い。
それどころか、初めからそんな国自体無かった、という認識。
その国は、スポーツや漁業が盛んな、活気のある所だった。
島に近い近隣の国の政府に訊ねても、『話す事は無い』と、まるで口止めでもされてるように話題を避ける。
一つ分かったのは……彼女の追う組織の痕跡が、そこにあった、くらい。
『お前達は突然現れ、我が国を蹂躙し始めた。抗う暇もなかった。人間はあそこまで残虐になれない。あれは、まるで神の暇潰しのような、地獄の様相だった』
以前、『母の職場の事務室』でチラリと、その国についての情報文書に目を通した事がある。
兄妹とドリーが暴れた場所が知りたかった、というだけの理由で、深い意味はない。
その文章によると、国にはとある組織の本拠地……もとい、国=組織、という記述が。
表向きは活気のある友好的な国……裏では世界を掌握せしめんと各国の中枢に潜り込み、よからぬ事を画策していた、と。
国のトップは(表向きには)中年男性だったが、真のトップは組織のリーダーでもある女性だ、と。
兄妹やドリーは、仕事か、はたまた観光でその国に行き。
そこで何かいざこざがあり、兄妹らの怒りを買った。
大方、オーラを隠さない兄妹が国の人間の目を引き、ちょっかいを掛けられたのだろう。
それだけで大暴れする兄妹でも無いが、何らかの拍子にドリーの逆鱗に触れ(それか今のようにアルコールを摂取して)……
組織は最悪の結末を迎えた。
事後処理も抜かりない。
周囲への記憶処理に関しても、また、ドリーが仕事をする。
ドリーの花粉や樹液には、薬から毒まで様々な効果があり、その中に『記憶処理効果』なんていう都合の良い毒(薬?)もあって。
それに『幻覚効果』を持つ毒とを合わせて散布すれば、近隣諸国ぐらいは欺ける。
彼が普段から所持している自白剤もドリー由来だったり。
だが現状、全世界が『忘れている』という状況を見ると、そこはプランさんが上手くやったのだろう。
音や映像によるサブリミナル効果だとか、それこそ(彼女達の世界観に倣えば)蒐集品だとかを使って。
「名のある国だったのよ? 歴史が掲載された教科書や雑誌、映像媒体なんて無数にあるわ。全ての回収は不可能よ。現に、書店にはまだあったのを目にしてるし」
「あったとしても、『認識出来なくすれば』、それは『無いのと同じ』ですよね」
「……貴方達は一体……」
そちらも似たような事が出来る集団なのに、奇異な目で見られるのは心外だ。
ヒュッ!
今まで、自ら手を出さなかったドリーが初めて、その腕をロボットへ振るう。
ドスッ!
腕は槍のように、ロボット腹部に刺さった。
……ザワリ 粟立つ私の肌。
不機嫌なドリー。
一度ならず二度も、彼との時間に茶々を入れられたのだ。
いい加減、手で払うのも面倒になった事だろう。
『ふっ……この超兵器をいとも容易く貫くか。つくづく化け物だな、最早驚きはしない。だが……私はまだ死ぬ訳にはいかん。逃げさせて貰うぞ』
ロボットが腹に刺さった木の腕をガシリと掴む。
グググッ……
が、案の定というか、抜ける気配はない。
『容赦が無いな。獲物は逃さない、実に野生的だ。しかし、ただでは殺されん……!』
プシュン!
ロボットの首元から出る煙。
あの辺りが操縦席なのだろう。
分離させて脱出するつもりだ。
……が。
『くっ……くくっ……分離出来ん。よもやこの木、ただ腹を貫いただけではなく、超兵器内を侵し回路をも支配するとは……既に、超兵器は操り人形というわけだ。本当に、容赦が無い』




