112 兄妹と神楽 2
箱庭神楽が始まった。
和楽器の音色と共にゾロゾロと現れ始めた動物達。
演奏していたのもその動物達。
この学園の者達ならば、そんな光景もまだジャブに近い光景。
……『この学園の生徒』、であるならば。
「ええっと。これはどんな催し? 着ぐるみ? サーカスのように調教した動物? それとも、精巧なロボット?」
「……(ボー)」
「聞いてる?」
「え? ああ。(説明が面倒くさいので)そんな感じです」
「その適当な返答……何かあるわね?」
隣の女が鬱陶しい。
私は静かに神楽を眺めていたいだけなのに。
「動物を操る蒐集品、なんてのは沢山あるわ。これも、状況次第によっては止めないといけない。いつ、観客に襲い掛かるか分からないしね」
「止められませんよ。アレは誰にも」
「……言うじゃない。いつも淡々と仕事をこなす貴方が野放しにしてる所を見るに、危険ではないと判断するわよ? ……それに、確かに。アレは、普段相対してる蒐集品関連の事象とは、だいぶ毛色が違うように見えるし……」
仮に、アレを止められる者が居るなら、怒られるどころか(コレをどこかで見てるであろう)プランさん直々に『優秀な人材』とスカウトされるだろう。
例え今、この神事を止められようが別の日に行えば良いだけの事だし。
あの兄妹が『萎えたわー』と二度目をやらせられるかが、一番の問題なだけで。
「……まるで、『熱を出した時に見る夢』の中、のようなフワフワした気分になるわ。こんな異常現象、仕事で何度も見て来てるのに……今だけ一般人になった気分よ。本当に、大丈夫なのよね? アレ。精神への異常効果とか」
非現実的な仕事をしているだけあって、良い危機感を持っている。
夢の中、は言い得て妙。
ここは既に『異界化』しているから。
「大丈夫か大丈夫じゃないかと言われたら大丈夫じゃないです。いいから、黙って見てるか私から離れるかして下さい」
「容赦ないわね!? と、とりあえず、様子を見てるわ」
ピュー
ふと。
凡ゆる演奏がピタリと止まり、笛の音色がその場を支配する。
ガラ ガラ ガラ
車輪の音と共に暗闇から現れたのは、バッファローが引く一つの【牛車】。
笛の音色は、この牛車の荷車からだ。
その金銀で装飾された(平安の貴族が乗ってそうな)荷車の中は伺えないが……この笛は、明らかに動物達の演奏とは質が違う。
音楽に詳しい詳しくないに関わらず、それは周りの者達も『肌で』気付くだろう。
牛車荷車内で演奏している人物は、この神楽の主役の【一人】だ、と。
ガラ ガラ ガララ……
一団と牛車は目的地に辿り着き、止まる。
演奏は続いたままだ。
目的地とは、皆がライブなりの催しをした木製のステージ。
沖縄のガジュマルの木やカナリア諸島で有名なリュウケツジュを彷彿とさせる、複雑に絡み合った根っこや枝で支えているステージ。
本来ここは『この神楽の為』にプランさんが用意した場所だ。
なんの『仕掛け』も無い、筈がない。
ステージの真ん中には ポツン とドリーが佇んでいる。
風も無いのにサワサワ揺れる『彼女』の頭、樹冠は、キラキラと輝いていた。
まるでクリスマスツリーの飾り付けのように、様々な色に発光する実を宿している。
アレは……確か【仙桃】だったか。
貴重な『不老不死の桃』。
熟すまでに数百年掛かり、成長過程でその色を七色に変えるらしいが……ドリーの力で、強制的に成長を早めているのだろう。
熟しきったら廃棄(吸収)し、また初めに戻る……を繰り返して変化させてるのだ。
その強制的な発育方法のせいで、まばゆい命の輝き(発光)を見せるほど。
貴重な果実をLED照明代わりにするなんて……プランさんは相変わらず、子供の晴れ舞台には躊躇がないな。
『ハッハッハ! BGMも相まって最高の『舞台』じゃねぇか! 利用させて貰うぜ!』
ふと。
突然現れた一人の男が勝手にステージに上がり、マイクで何かを叫んでいる。
「ッ! まずいわ! あの男がさっき言った敵組織の男よ! そして手に持ってるマイクが件の蒐集品! 命じた声を聴いた者は傀儡になってしまう!」
なんて、隣の人は焦っているが……
『お、おい! 聞こえてんだろ! 『派手に暴れろ』って言ってるんだ! おい!』
「え? 蒐集品が……効いてない? それどころか、周りの人達は誰もアイツに気を留めてない……?」
当然だ。
この演奏以上に魅力的なモノでない限り、周りが心を動かす事など無い。
この演奏を洗脳ソングと言われたら否定は出来ないが……害は無い(多分)。
そもそも、神楽はまだ『始まってすらいない』のに、この段階ですら人の心を動かせないとは、蒐集品という代物も大した事は無いな。
……さて。
あの壇上の男には罰が与えられる。
今の舞台は、『神聖な者』以外お断りだからだ。
ヒュッ!
『ああ!? なんだ!? 蔓が身体に巻き付いて! うわァ!!!』
ステージ下の根っこが一本、ヒョロリと伸びて男を捕らえ……ブンッ! 投石のように男を放り投げた。
その先にはドリー。
ボフンッ!
男は樹冠に突っ込んで…………
スンッと静かになる。
……訂正。
さっきは『罰』なんて大仰な言い方をしたが、ドリーからすれば掃除と変わらなかった。
「えっと……男はどうなったの?」
「見ての通り、取り込まれたのでしょう」
「嘘でしょ……私達『組織』があれだけ手を焼いた男を、ハエを払うかのように……」
「理解出来たのなら、貴方も『あちら側』相手に妙な事は考えないように」
これ以上、神楽の鑑賞に水を差されたくないし。




