111 兄妹と神楽 1
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幼い頃、兄妹と共に『森』に行った事がある。
行った、というより幼い彼に無理矢理連れて行かれただけだが。
彼の妹は、兄との時間に入り込んだ邪魔者として私を見ていた。
彼女からは昔も今も、良い印象は持たれていない。
その森は、『真剣』で満ちていた。
生と死が隣り合わせな、善も悪も無い純粋な世界。
隙を見せれば食われる、
隙がなければ隙を作られて食われる、
隙も何も関係なく圧倒的な力の差で食われる、均衡な世界。
そんな均衡も、兄妹が森に足を踏み入れた瞬間、全て崩れ去る。
兄妹にとってそこはアスレチックであり、オヤツも常備された遊び場でしかない。
世界は純粋だが、 平等では無いのだ。
しかし森は、兄妹を受け入れていた。
強者に食われるのであれば仕方がない、と静かに揺らめいていた。
場違いなのは、私だけだった。
小さな彼は、私に色々と森の珍味を食べさせてくれたが、私は気が気では無かった。
『何故狩りもしていない弱者のお前がソレを口にしている?』と、森の民からの視線が刺さる。
場違いなのは、私だけだった。
12
ワーワー ヤーヤー
興奮冷めやまぬステージ周辺。
ライブの熱はしばらく冷めそうにない。
この後のプログラムはあの兄妹の神楽なのだが、皆は既に頭の外だろう。
「さっきは随分と目立ってたじゃないの、『夜行性』さん」
あまり目立たない場所でボーッと、誰も居ないステージを眺めていた私に、不意に、一人の少女が話し掛けてきた。
流暢な日本語を操る、金髪の人。
「どちら様ですか」
「えっ!? と、とぼけないでよっ、たまに『現場』で鉢合わせるでしょっ。『白銀』よっ」
「はぁ……まぁ何となく『立ち位置』は察しました。それで、私に何か御用ですか?」
「それは勿論、この催しの『即時中止』よ。貴方生徒会長でしょう?」
「はぁ。私にそのような権限などありませんよ。当然、中止も不可能です」
「貴方に権限がないのなら、無理矢理にでも止めないとね。『犠牲』が出る前に」
「どういう事です」
「……大きな声では言えないけど、この学園に私の追ってる『敵組織の人間』が混じってるの」
「はぁ……」
だからなんだ、と(何度目かの)溜息をつく私。
変な横文字も多いし。
なんにせよ、この神楽を中止にする理由にはならない。
いや、槍が降ろうが爆弾が降ろうが『止められない』が正確だ。
……そんな、気怠そうな私の気持ちを、あちらも汲み取ったようで、
「危機感が無いわね。それでも生徒の代表? 多くの人が傷付くわよ」
「はぁ、具体的には」
「その敵組織の男は『人の心を操る【蒐集品】』を使うわ。熟練した使い手なら、一度の使用で何人も纏めて洗脳するほどの、ね。かの有名な某国の独裁者も民衆に使ったとされる悪魔の玩具よ」
蒐集品……聞いた事があるような、無いような、そんな名称。
まぁこういったものは、その者らの所属する団体によって呼び方が変わる物だ。
呪物だったり、宝具だったり、魔法アイテムだったり。
結局は、人やそれ以外のモノの力や思いが込められた道具、なのは変わらない。
「成る程。それだけですか。気に留めるほどでも無いかと」
「反応が軽過ぎよ!? た、確かに私達は蒐集品に慣れているから耐性はあるけれど、一般人には容赦無いのよ? それに、私達の立場上、騒ぎで大ごとになるのは嫌でしょ?」
「騒ぎになど『なりません』よ」
「は? それって、どういう……」
ベンッ
その三味線のような音色に、騒ついていた空気が シン と静まりかえる。
ベンッ ベンッ ベンベンベンベン べベンッ
演目の『始まり』を告げる弦楽器。
音の出所はどこからだろう。
スピーカーを介してるわけではないのに、やけに、周囲に響き渡る。
コンコン トコトコ シャラシャラ
弦楽器と重なるように……太鼓のような打楽器や、カシシ(容器に種を入れて音を鳴らす)のような体鳴楽器の軽快な響き。
カラカラ ギロキロ カンカン
楽器の種類が増えていくにつれ、『何か』が近づいて来る感覚。
……そしてようやく 『現れた』。
それは 一団 だった。
ネズミ 牛 虎 ウサギ 猿 ……
十二支を彷彿とさせる一行をはじめとして、
今日学園を守っていた猫科の集団……
ゾウだったりキリンだったりといった動物園お馴染みの面子、などなど……
そんな一団が、それぞれの手や口に『楽器』を携え、暗闇から スゥ と現れたのだ。
優しい表現ならハーメルン。
悪く言えば百鬼夜行。
各々が手にするのは、特殊な木材を用いて作られた、特殊な音色を放つ、特殊な楽器。
……異常。
日本昔(神)話でありそうなこの光景は、文句無しに異常な光景、
ではあるのだが……
この学園の生徒であるならば、【彼】の普段の奇行や特性で耐性が出来ているので、アニマルオーケストラと言う流れも微笑ましく眺められるだろう。
……『この学園の生徒』、であるならば。




