109 会長(?)とライブアライブ
学園祭夜の部。
もう学園祭も終わりが間近で、残すイベントもあと僅か。
特設ステージにて神楽をやらされる事になった僕は、本番まで誰もいない教室で『彼女』とサボり中。
今は、マッサージしてくれている彼女の背中の筋肉に見惚れていたわけだが……
「ふぅ、ふ、んっ……」
不意に、僕の脚を揉み解してるだけの彼女が悩ましげな吐息を漏らす。
……熱っぽい。
僕らの周りだけ湿度が上がったように感じるのは、夏の夜のせいではないだろう。
ぬちり……
僕の脚と、それを挟む彼女の太ももとの間に、汗。
汗っかきな彼女だ、こうなるのも仕方がない。
けれど……この状況に淫靡な香りを感じ取ってしまうのは、不可抗力と、彼女も許してくれる筈。
ぬち…… ぬち……
まるで潤滑油。
この静かな空間で、気付かぬ彼女でもない。
しかし、汗に恥ずかしがる様子が無くって。
これは……『何かして欲しい』という『期待』か?
ならば、応えるべきだ。
ツツツー
「ひゃっ!? きゅ、急に(背中に)指這わせないで!」
ツツツー
「え、なに? (背中に)文字書いて……『むちむち』? 馬鹿にしてる!?」
「してないよ、君が筋肉を動かす度にむちっむちっ❤️と音が鳴ってるんだよ」
「そんな機能無いから……これ以上変な事したら足裏の痛いツボ押すよっ」
「しゅん……」
モミモミ……
「……、……まぁ、君はなんやかんやで『行き過ぎ』無いから安心出来るね。最低限の節度は守ってるというか。手、出してきそうで来ないし。ふふ、要は『ヘタレ』って事だけど」
「なにっ」
露骨な挑発だ。
彼女は顔の見えないこの角度で、笑うように肩を揺らし、
「あーあ。最初の『おいた』云々のタイミングで攻められてたら、空気も相まって、なし崩し的に許してたかもしれないのに」
「ぬぅっ! 人がどれだけセンシティブに配慮してると思って……! (外の世界の)しがらみがなきゃ今頃テメー、子持ちだぞッ」
「何言ってるか分かんないけど、言い訳してる時点でダメダメだね」
「チャンス! も一回チャンス頂戴っ」
「ふふ、ダメダメ」
僕を揶揄うのは楽しいらしい。
「気分屋め……女の子ってストレートじゃない匂わせが好きだよねっ。次からは『ムラムラして来たからヤろうぜ!』って意思表示してくれっ」
「私そんな豪快なキャラじゃないから……」
「あえてこの流れで唐突にチューしたらウケるやろなぁ……」
「べ、別にされても微妙に変な流れでもないけど、特別感薄いからダメっ」
「シチュに拘りがあるんやなぁ」
ワーワー ガヤガヤ ザワザワ
「ん?」
ふと、窓の外から妙なざわつきを感じる。
色んな組の演目が続く流れと思っていたが……。
「(ヒョコ)なんだなんだ?」
「(ヒョコ)……どういう状況だろうね。
ステージ上でガールズバンドの子達がセッティングを終えてる様子だけど……中断してるみたい。機材トラブルとかなら、プランさんがどうにかするだろうし」
「ふむぅ……ボーカルがいない? ベースは居るのにギターが居ないから、正確にはギターボーカルがいない、かな?」
「人間のトラブル、か。必死に練習しただろうに、本番で披露出来ないってのはキツいだろうね……」
「よしっ、じゃあ(ガララッ)」
ガシッ 即掴まれた。
「なんで窓開けたの? 飛び降りるつもり? 突撃しないでね?」
「なぜバレた? 僕なら解決出来るよっ」
「そんなに注目されたいの……? 第一、即興で弾ける?」
「さっき言ったろう? 『今からでも君へのオリジナルラブソングを披露出来る』って。彼女達にも協力して貰うよっ」
「突然飛び込んできた奴に『演奏合わせろ』と言われる彼女達が可哀想過ぎるよっ。
……ん?」
「むっ! あの子は……!」
と。
この盛り下がりそうな空気に颯爽と現れたのは……我らが【生徒会長(偽)】!
生徒会長様は泣きそうなガールズバンドの子達の話を、ウンウンと頷きながら聞いてあげていて……
突然、ステージへと上がった。
観客にマイクで事情を説明するのか? と思いきや……
ヒョイと『ギターストラップを肩にかけ』、センターへ。
ドワアアアアア!!!
『まさかそういう展開!?』と期待せざるを得ない観客。
会長とメンバーらは、ビィンビィンと少しだけ周りと音を合わせ……
カンカンカン ギ ュ イ ン ! ! !
マイクMCも無いまま、当たり前のように始まる演奏。
そのクオリティは、急遽な助っ人と言われたらヤラせを疑うレベルだ。
「あっ、これ知ってるアニソン(冴え〇ノ)だー。わらびちゃん、普通にギターも上手いねー」
「……あの子が知ってるアニソン以外だったなら、弾けなかったと思うけどね」
「にしてもだよ。バンドも即興だろうに。こういうシチュ、ハ◯ヒで見たなー」
「……色々器用な子だからね。たまにネットの生配信でピアノ演奏とか、オリジナル曲を投稿とかしてるらしいよ。勿論顔出しはしないで」
「おっぱいピアノ?」
「……いや、そのジャンルは知らないけど、絶対に無いと思う。身体も映してないだろうし」
「安心した」
持って生まれたモノを本人の意思で武器にするのは自由だけど、わらびちゃんの場合、見た目が良過ぎて他の部分を喰ってしまう可能性がある。
表現したい絵や音楽よりも、本人に注目がいく。
まぁそれは本人が一番理解してるだろう。
ネットリテラシーも高そうだし。
「凄いねぇ。漫画も描けて作曲も出来る。
夢先姉妹、表の有名人が君なら、裏(ネット界隈)のはわらびちゃんかな?」
「……私はもう一般人だからね。わらびも、その活動をいつまで続けるかは知らないけど……」
そういえば、姉妹の実家に行った時に『漫画を終わらせる』、なんて言ってたな。
ネットでの活動が趣味なら、そちらは続けるかもだが。
「活動を抑えるとなると、今後は君みたいにわらびちゃんにもフリーな時間が出来るって事だねっ。僕にはメリットしかねぇな?」
「毎度私が付き合ってあげると思わないでね?
…………でも、仮に、わらびと私、どちらも時間が空いてた時はどちらを優先するつもり?」
「三人でデート! まだやってないから楽しみだねぇ」
「絶対楽しいの君だけだよ……」




