〇〇の日 【R15】
ゆらゆら ちゃぷちゃぷ
「夏の終わりってのは八月の末を言うんだろうか?」
「何の話ですか」
「夏の終わりだよ。今日が何日か知ってるかい、わらびちゃん? 8月21日だ」
「はぁ。確かに後半ですね。立秋が(今年は)8月7日なので、夏の終わりと言っても差し支えが無いかと」
「そっかぁ、まだこんなに暑いのになぁ。台風が来て雨が続いて寒くなったと思ったら、途端またこの暑さだよ?」
「そう言われても……それで、今日は何の記念日ですか? 21で思い当たる記念日は存じてませんが」
「噴水の日」
「噴水……またリアクションに困る……」
「そんな訳で僕達は今、『夜の学校プール』に居るのであった」
「……何故?」
「夏なのにまだ水着回してねぇからだよっ」
「知りませんよ……夏ならば、一度や二度、海やプールに行くイベントぐらいやったでしょう?」
「(裏では)やったけど……表じゃあまだやってないんよ。僕の中では夏は八月末までだからやるん、よっ(ジャプンッ)……ふぅ。君も入って来な(ちゃぷちゃぷ)」
「表ってなんですか……入りませんよ、プールなんて」
「君、ばっちり競泳水着てるのに?」
「ッ!? …………この唐突さ、本当に慣れませんね、『この空間』は」
「スク水じゃないのがこだわりポイントよね。胸元に『わらび』とかネームまで入れたら狙い過ぎみたいになるよなぁ?」
「知りませんよそんなこだわり……」
「……今回の君は『その人格』か(ボソリ)」
「何か言いました?」
「んーん。話は戻るけど、最近のスク水はヤバいね?」
「そこに戻さなくても良いです」
「ネットで見たけど、社会の窓みたいなチャック付きらしいじゃん? 便利ではあるんだろうけど、アレも狙い過ぎってーか」
「いかがわしいサイトの商品ページ見て勘違いしてません? …………それより、貴方こそ、その水着姿は何ですか」
「この花柄ワンピース水着かい? さぁ。『君が望んだから』じゃないの?」
「どういうルールなんです……一応訊いておきますが、噴水要素はどこに」
「(ピュ!)」
「ヒャッ!? み、水(鉄砲し)掛けないで下さいっ」
「コレが噴水要素や(ピュッピュ)」
「……はぁ。もうなんでもありですね」
「その競泳水着、濡れた部分が溶ける仕様だったらどうする?」
「(バッ!)…………本当ですか?」
「そんな、アニメとか漫画じゃないんだし」
「……驚かせないで下さい」
「ホントは、人が着てから一分以内に濡らさないと透けてくる仕様だよ」
「…………(ちゃぷ)」
「え、今のは信じ(てプールに入)るんだ」
「どちらにしろ無理矢理入れるつもりだったのでしょう? ならば自分から入ります」
「捻くれてるなぁ」
ゆらゆら ちゃぷちゃぷ
かなかな ぶぅーん ぺっぽ ぺっぽ
「ふぅ……灯りはあらずとも月明かりで充分周りが見えるねぇ。聴こえるのは、婚期を逃した虫の鳴き声やたまに通る車、信号の音くらいだ(ぷかぷか)」
「……その浮き輪、いつの間に」
「浮き輪はプールで自分の可愛さをアップ出来る装備の一つだからね。物欲しそうな目しないでも後で貸すよ」
「別に要りませんが……」
「んー、夜にお忍びで男女がプールに……青春シチュだねぇ」
「青春と言いたいだけでしょう」
「本来なら着の身着のまま入るのがより青春してるんだけどねぇ。シャツ一枚の女の子がビシャビシャに濡れてシャツが肌に張り付く様子とか、ブラが透けたりとかさぁ」
「まだ水着がマシだったとは……」
「まぁ今みたいに、ワンサイズ小さめピッチリ競泳水着が水に濡れて月明かりでテカる様も青春ポイント高いけど」
「何でも有りじゃ無いですか……道理で少しキツめだと」
「その肉体的成長も青春だよ。青春ってのは『中高生時代の夏限定』でしか味わえない感傷だぜ? 人生で計六回しかねぇんだ。後悔はしたくないね」
「いうほど夏限定ですかね……学園祭や体育祭、修学旅行などは秋ですが」
「あ、そっかぁ……なら秋も青春していいよ」
「拘りは無いんですか……」
「でも法則性を見つけたよっ。青春、ってのは、どこか物寂しい空気のある季節にしか味わえないんだよ……!」
「それを言うなら、冬も春も別れの季節ではあるので当てはまりそうですが」
「そんなあからさまな季節じゃダメよ。匂わせる程度がいいんだ」
「基準が主観的過ぎる……」
「あ、でも、冬の図書室……ストーブと本をめくる音だけ……隣にいる好きな人との読者……止まったような時間……これも青春では? もうっ、君のせいで青春が迷子だよっ! えいえいっ(ジタバタ)」
「知りませんよ、何ですか迷子って……ちょっと、浮き輪に乗ったまま暴れたら……」
どぼんっ ぷかぷか ざぱっ
「ぷふぅー……塩素の香りきらいっ(プルプルッ)」
「ちょっ、水飛ばさないで下さい」
「おめーも同じ目にあえっ」
「ちょっ」
ズボッ グググッ
「くっ! 胸元がつっかえて浮き輪が入らないっ。対策済みってーわけかっ」
「……痛いんでもういいですか(ペイッ)」
「ああっ! 浮き輪があんな遠くに飛ばされてっ。可愛さが減るっ。……まいっか」
「もう帰りませんか」
「確かに。全身カルキ臭くなったからね。青春はカルキの香りと共にあるとはいえ」
「プールの話ですよね」
「プールから上がった後はちゃんとあの目洗い専用水道使って、その後はロート子供ソフト(DBパッケージの)をさすんだぞ?」
「別に普通の目薬でもいいでしょう……」
「その後は温水シャワー浴びて、カルキ臭い更衣室でプール用タオル巻いて水着脱ぐんだぞ?」
「それらの手順は踏まないといけないんですか。用意されてるのならば従いますが……」
「プールの後の定番って何かなぁ? よく聞くのが17アイスの自販機でアイスを買う、らしいけど、近くにないからなぁ」
「スイミングスクールに通っていた人は買うらしいですね……いや、予定は良いんですが、上がらないんです?」
「んー、あと五分」
「まぁ、いいですが……」
ゆらゆら ちゃぷちゃぷ
「……少し、肌寒くなって来ましたね」
「確かに、八月の残暑で日中は温かかったから入った時は程よいぬるさだったけど、今は冷たくなって来たね。あ、そうだ」
「やめときます」
「まだ何も言ってないだろぉ? ほら、寒い時は『肌を合わせろ』ってゆーじゃん?」
「やめときますって」
「そんなわけで、しよ❤️」
「ゴリ押しが過ぎる…………全く。どう温め合うつもりですか。さっさとやって帰りましょう」
「もっとやりたそうにしろ」
「はいはい」
「具体的にはだね、このまま抱き締め合っても水着という隔たりがあるから温かさも半減するわけだ。つまりは?」
「お互い裸になればいいと。はいはい(スルリ)」
「おいっ一人で先走るなっ、風情が無いだろっ。脱がせ合いっこするんだよっ」
「面倒くさい……」
「あと乳をまろび出すとこまでは脱がさないからなっ。僕のは良いけど、君のおっぱいが出たらそれはもう青春を越えた何かだっ。青春ってのは寸止めの連続なんだよっ」
「注文が多い……」
「じゃあ、はい。向かい合って、相手の水着の好きなとこを掴んでぇ……」
スルリ スルリ
「んんっ!? 前が見えないんだがっ!?」
「おや。うっかり」
「普通ワンピースの裾から捲らないだろっ。捲り上げたスカートの所為で前が見えないし腕も動かせないっ(状況説明)」
「普通は捲る機会など無いので(キュッキュ)」
「裾を結ぶなーっ! 今の僕絶対なさけないビジュアルだろっ! おっぱいと下の水着丸出しで! まるで剥いた皮を一纏めにして持ち上げたトウモロコシのようなっ」
「よく分からない例えを……」
「若しくは、脚の生えた餅巾着!」
「それは分かりやすいですね。まぁ、別に変ではないですよ、いつも通りです」
「僕は普段からこんな面白い格好してないやいっ」
「それよりも、ほら、温まるんでしょう? (ピトッ)」
「う、うむ…………んん? この……僕の胸に当たる……硬い……こらっ! 何おっぱい丸出ししてんだ! 僕そこまで脱がせてないだろっ」
「出してるわけないでしょう」
「じゃあこのツンツンしてるモンはなんだっ」
「寒いからです」
「先が硬くなってる理由は訊いてないのっ。全くっ、顔隠して乳首隠さずとはこの事だよっ」
「それは今の貴方でしょう。まぁ、別に出してるのは否定しませんけど……今の私達は、既に平気で肌を晒せる間柄なのでしょう?」
「まぁ……そうだけどさ……風情を大事にしてるって話したでしょっ」
「兎に角今は温まろうという話だったのでは?」
「うん…………まぁ、あったかいけどさ。主に、君の身体がさっきから熱くなって来てる」
「気の所為でしょう」
ぷかぷか ちゃぷちゃぷ
「むぅ……これじゃあ生殺しだぜ」
「青春は寸止め、でしょう?」




