105 会長(?)とカラムーチョ
学園祭夜の部。
ママンがグラウンドのステージで自身のチャンネルの生放送を始めた。
今は、他者も自らをも燃やして心中を計る不思議植物、ゴジアオイパート。
俗説をドヤ顔で説明するママンだが、彼女の持って来た新種【ヨイゴシアオイ】は、俗説を上回る面倒臭い特性持ちの花で……
『ゴジアオイは山火事を起こし自らも燃えた後、その場に種を遺します!
その種は耐火性を持っていて、火事に巻き込まれた周囲の植物の灰を栄養にその後育っていくのです! なんと自分勝手!
サイコパスと呼ばれる所以です!
しかしそれこそが残酷で美しい弱肉強食な野生の世界!』
『それを踏まえて皆さん! こちらのヨイゴシアオイに再びご注目!
先ほど、花弁に触れてしまった怪人さんは、このように、こんがり炭化しています!
一瞬で全身を炎に包んで焼き尽くす地獄の業火のような火力!』
因みに、他二体の枝怪人は今も大人しく立っている。
解説中は手を出さない怪人の鑑。
『異世界のゴジアオイも過去、こちらの世界と同じように炎の力で狩りをしていたわけです!
が! ただっ、そこは異世界の森!
何度も森を焼くうちに植物達はみな『炎耐性』を持ってしまいました!』
『これではいけないとヨイゴシアオイは本能で悟ります!
進化をしなければならない、と!
そうして……『ならもっと強い火力で焼けば良いじゃん』という結論に!』
『結果!
匂いで獲物を誘き寄せ! 炎耐性すら破る業火で燃やす、という狩りスタイルが確立されたわけです!
直接触れずとも、近付いた相手に花弁を飛ばし燃やすという技もあります!』
『脅威度はC+!
この子ですらメガテッポウウリと同じくヒエラルキーは下の方!
それほどに異世界の森は魔境なのです!
……ムッ! 怪人さんの活動が再開しましたよ!』
解説が終わりそうと察するやノソノソと動き始める枝怪人さん。
スッと、セレスはメガテッポウウリを枝怪人に向け
ボンッ!
躊躇無く種を放つ。
ズンッ!
枝怪人の腹にめり込む種。
しかし、枝怪人は怯みもせず、その歩みも止めない。
鉄板よりも丈夫な木の板を貫いた種だが、枝怪人を貫くには至らなかった。
それほどに、この枝怪人は硬いという事。
だが、
めり込むだけで『充分』なのだ。
メキメキメキ……!
『おおっと!
めり込んだ種が急激に成長して!
怪人さんの自由を奪い!
養分を吸い始めた!』
みるみる内に枝怪人は干からび萎んでいき……
残ったのは、ステージに根付く、成長したメガテッポウウリ一本だけ。
『少しの隙も見逃さないっ、それが野生の戦い!
そんな感じでもう一人の怪人さんもヤッちゃいましょう!
セレスちゃん!』
ボンッ!
最後の枝怪人も投げ槍な対応で終わらせようとするセレス。
……しかし
サッ
軽やかに避ける枝怪人。
ボンッ! ボンッ!
連射しても同じ。
避けるか触手で弾かれるかで回避されてしまう。
『なんという事でしょう! 怪人さんは仲間の犠牲を糧に学習したようです!
そう! 学習こそが生き抜く上で最も重要!
最早別の手段でないと倒す事は叶わないでしょう!』
シュパ!
突然、触手を観客に伸ばす枝怪人。
「キャー!」 響く悲鳴。
枝怪人が釣り上げたのは……山百合学園のお嬢様の一人。
耳長ウサギ魔法使いコスの子だ。
シュルルルル!
掃除機のコードを戻すように(今はコードレスが主流らしいけど)枝怪人は触手を体内に引っ込め、捕まえたお嬢様を抱きかかえる。
『くっ! 怪人らしく人質作戦と来ましたね! これではウカツに攻撃も出来ません!
ああ……! こんな時!
真のヒーローがいてくれたら……!』
「……なんかチラチラこっちに視線寄越してるよプランさん。明らかに君にお膳立てしようと……って、君、その『手に持ってるモノ』って……」
「へい! 怪人君!」
枝怪人が僕を見る。
僕は【球】を持つ右手を相手に向ける。
不意打ちはしない。
ヒーローは正々堂々勝負をするのだ。
「よけてみな」
振り被って……投げた。
パァンッ!
枝怪人の顔にめり込む、メガテッポウウリの種。
直後、種は先ほどのように即座に成長し、枝怪人の全神経を侵食。
同時に、人質だったお嬢様の触手の拘束が緩み、
「キャッ!?」
ポロリと落ちそうになるも、そこはセレスが寸前で支えてあげていた。
『ストライッッック! まさに豪速球!
観客の皆さんにはいつの間にか怪人さんの顔に種がめり込んでいたように見えたでしょう!
怪人さんも、飛んで来る種を避けるか防ぐかを投げられた瞬間判断しようとしたはず!
直前まで自身の思うように事が運び、己の力を過信したのです!
がっ!
種は本人の知覚を超えた速度でやって来た!
見事な投球でした!』
「へっ、お嬢様達がこっちに手ェ振ってるぜ。礼なンて良いって事よ(鼻の下指でコスコス)」
「これほど露骨なマッチポンプもそうないよ……」
「ところで君ならわかってるだろう? 僕がさっきのセレスみたく(投げた種が力の入れ過ぎで貫通しないよう)繊細なパワーコントロールした事を……!」
「そ、そうなんだ。どう褒めたら良いのかわかんないけど……にしても、意外だね。君が躊躇なくあの怪人を屠るなんて。人間以外の生き物が大好きな君だ、もう少し手心を加えるのかと」
「ああ、あの枝怪人は、言わばドリーの分身体みたいなもんでね。透明な糸で操ってる人形に近いかな。『命の定義』は人それぞれだから、可哀想と思う感情は否定しないけど。……しっかし、『本家』のドリーが今回のをやってたのは見た事あるけど、まさかウチの子も出来るとは……」
ドスンッ
ふと、侵食された枝怪人が力無く倒れたその先は……ヨイゴシアオイの花の上。
当然、即座に
ボワッ!
と燃え上がり、ステージ上を明るく照らす。
ヒラリ ハラリ
炎による上昇気流で、千切れたヨイゴシアオイの花弁が数枚、宙を舞う。
それはとても幻想的な光景で、火を纏い風に揺られるソレは、火の鳥が落とした羽のようにも見えた。
『あっ、皆さんお気を付け下さーい。
当然ですが、その花弁にも発火の効果が残ってますよー。
一枚でそこの校舎を丸焦げに出来るほど危険ですのでー』
ウワー! キャー! ヌワー!
左右に散り散りになるギャラリー。
あちこちに花弁が広がっていれば地獄絵図と化していたろうが、しかし花弁は、意思があるかのように『僕の所』へ落ちて来る。
ヒラ ヒラ ヒラ パシッ。
「ほっ! と。見て見てっ、花弁を一回で全部掴んだよっ、左手だけでっ。まるで『はじめの◯歩』の有名なシーンみたいだねっ」
「いや、それ私知らない……というかソレ、素手で掴んで平気なの……?」
「カイロみたいなヌクヌクは感じるよ。あーんっ(パクッ)」
「えっ、なんで食べたのっ?」
「久しぶりに食べたけど、カ◯ムーチョみたいにピリ辛で美味しいんよ。まぁでも、基本的に火種代わりかな? セレスと一緒にコレでメガテッポウウリの種とかヤバげな色のキノコとかを焼いて食べるのが、外で遊んだ時のお決まりだったなぁ」
「散々、森の生物の力のバランスを崩してたんだろうというのが窺える兄妹だよ、ホント」
「あっ、散った花弁はすぐに復活するからイジメじゃないよ?」
「そういう問題じゃないんだけど……」




