97 会長(?)とブルンブルン
屋上でイチャついてた僕らの前に現れたママン。
僕に話があるようだが……?
「別に長話じゃないよ、一つ君に許可を取りに来たのさ。このドリー(木)、貸して欲しくってね」
ペチペチと木の幹を叩くママン。
ザワワ……と反応するように葉を揺らすドリー。
てか僕がドリーって名前付けたとこまで聞いてたのね。
「ドリーを? なんで?」
「君らの『神楽中の演出』でちょっと、ね。……因みにウー君は、この子の特性を『どこまで理解』している?」
「特性? んー、そりゃあ意思疎通出来たりコンパクトになったり種撒けば色んな作物実らせたり……便利で可愛いって認識よ。元はラフランスの、だけど、不思議な木だよねぇ」
「……まぁ、『そこまで』だろうね」
「なんだい意味深な事を言って。あ、そういやあのラフランスも、僕のアパートの庭に生えた柿の木も、元はママンから貰った果物だったか。実は二つとも、ママンが見つけた『新種』だか『特殊な品種改良』の技術で作った果物?」
「いや? 普通の果物だよ。しかしその二つの木は『全く同じ存在』。『君が食べて君が撒いた』事に意味があったんだ。……兎に角、君には今夜、そのドリーの『可能性』を見せてあげようと思う」
「可能性だぁ? 僕の邪魔だけはするなよっ」
「寧ろ、君のカッコ可愛さを引き立てる、とだけ伝えておこう」
「何もしないでいいんだよなぁ……」
「ま! この話はこれで終わりだよっ。それよりウー君っ、ママンを見て何か『気付く事』は無いかい?」
パッと両手を広げ、自分を見てとアピールするママン。
このおばさん、いい歳していつまでも若い少女の気でいやがる。
「このおばさん、いい歳していつまでも若い少女の気でいやがる」
「いつだって少女だもんっ」
「全く、ママンにはページ(時間)割きたくないのに……で、触れて欲しいのはそのヒラヒラスケスケな薄緑色のドレスっぽい『コスプレ』?」
「そうっ。可愛いだろう? 私がやってるVtuber【プラン】と全く同じコスだよっ」
「ああ、そう……周りの反応は? 母親がこんなカッコして息子である僕も馬鹿にされないかという意味での質問だけど」
「大好評さっ。『画面の中からあのプランさんが飛び出た!』ってチヤホヤされてるよっ」
「馬子にも衣装、か。デザインはいいよね、デザインは」
「ママンにピッタリだよねっ」
「てかこのドレス、微妙に今夜僕ら兄妹が本番で着る『正装』と雰囲気が似てるな……やめてよね? 身内と思われるぢゃん」
「思われようよっ、仲良し三姉妹としてさっ」
「姉なら夢先姉妹で足りてるんだよなぁ。あ、そうだ、君らも神楽に出てくれたら僕のやる気も上がるんだけど?」
「いや……急に踊れと言われても無理ですし、そもそも私達は不純物でしょう。箱庭の神聖な舞は貴方達兄妹にしか務まりません」
「踊りなんて適当でいいのに。衣装の心配ならそこのおばさんが着てるのとセレスのを渡すよ。ぶっちゃけると君ら(のおっぱい)がブルンブルンするのが見たい」
「ぶっちゃけましたね……」
「ブルンブルン出来ないなんてママンのその衣装が可哀想だよ」
「邪な使われ方をする『製作者』が一番可哀想ですよ」
「いや、ママンでもブルンブルンするくらいあるからね……? しかし、だ。あの捻くれ者なウー君も褒めるとか、やはり『君の』デザインセンスは素晴らしいね、【わらびちゃん】」
「ッ!」
ビクッとなる隣の彼女。
んー? どういう会話だ今の?
「てかママン、この子はカヌレだよー?」
「へー、そうなんだ。まぁそういう事にしておこう」
「だから、ママンの前だからって偽らず、口調戻してもいいよ、カヌレ」
「う、うん。そうだ、ね……」
「で、さっきの『デザイン』ってのはなんの事? そもそも、ママンのVtuberアバターの原画って、【ふたごのマゾク】描いてる【くずもち】先生でしょ」
「そうっ。わらびちゃんはそのくずもち先生だったのさっ」
「な、ナンダッテー! (バッ)」
「い、いや、こっちを見られても……私はカヌレだから……」
「ならなんで教えてくれなかったのカヌレェ!」
「……そこは察してよ(プイッ)」
「嫉妬だねっ、可愛いっ(ガバッ)」
「い、いちいち抱きつかないでっ」
「ママンをダシにしてイチャつく……成長したねウー君っ。ママンも今息子を取られて嫉妬してるから抱き付いてっ」
「ええい触るなっ」
ママンの顔を見て少し興奮が冷めたので、改めて整理。
わらびちゃんの部屋に行った時の事を思い返す。
……彼女のタブレットに残る落書き
……不自然な態度
……あといたずら電話があったけどアレは関係無いとして……
成る程確かに、それらしいヒントはあった。
探偵並みに勘の鋭い僕がまんまと欺かれたぜ。
もー、やだー。
考えたら今まで憧れの先生に失礼な態度取っちゃってたじゃなーい。
本能のままにガツガツやってたセクハラ(触れ合い)も、今度からはしっとり官能的にやらなきゃ……。
にしても、何故彼女は黙ってたんだろう?
僕にバレると何か不都合が……?
何も知らず普通の女の子として接して欲しかった……?
なら……なんて可愛い奴だ。
「わらびちゃん、僕の事好き過ぎだろ……」
「今の数秒間で何考えてたの……」
「……さて。この後ママン、学校で生放送するけどゲスト参加するかい?」
「しない。さっさと行った行った。」
「ちぇっ。じゃ、ドリー借りてくねー」
気付けば、僕らを覆っていたドリーの木陰が『消えて』いて。
ママンの掌には、一つの苗がちょこんと乗っかっていた。




