紫音とスッキリしない日常
実野妓くんを病院に送り、事務所へと帰った後のお話しである。
実野妓くんの手術が終わって翌日。僕はいつも通りに真理亜さんのお店を手伝っていたが、その場にいる全員はお店に設置してあるテレビに注目している。
『昨日、午後4時に入浜警察予備高校の生徒が、武器の密輸組織と銃撃戦を繰り広げた末に、生徒6人が重軽傷を負う事件がありました。
6人の内5人は腕や脚に怪我を負いましたが、意識があり回復に傾向があります。しかし残りの1人に関しては重傷を負ってしまい、現在入院中との事です。
この事件、どう思いますか?』
『いやぁ〜、どうしてこんな事になってしまったんだろうね? しかも、高校生を実戦に出すなんて普通考えないでしょう。許可出したの?』
『はい。手元の情報によりますと理事長先生が先生方の反対を押し切り、彼らを現場に送ったそうです』
アナウンサーの説明を聞いた人達は、顔をしかめたりしていた。多分あの理事長のやり方に怒りを感じているのだと思われる。
『ああ〜、そうなんだぁ。怪我を負った子達の親は、なんともいえませんよねぇ?』
『はい。その方達のインタビュー映像があるので、その映像をご覧下さい』
アナウンサーの一言で画面が変わり、被害者の両親達の心の内を話す映像が流れていく。そんな中、真理亜さんが僕の方に顔を向けて来る。
「それでシオンちゃぁん。その龍平って子はアナウンサーの言う通り大丈夫なの?」
「はい。何とか一命は取り留めたのですが、問題が山積みらしいです」
「と言うと、どういう事なのかしらぁ?」
「石野さんによると、銃弾が下顎の歯を貫通して喉の方へと通ったみたいなんですが、その時に舌も一緒に傷付けてしまった為、話しをするのに苦労するかもしれないと言ってました」
それに、他の医師からも 石野先生じゃなかったら、今頃どうなっていたかわからない。 って話していた。
「もしかして、言語に障害が残る可能性があるって事?」
「はい・・・・・・可能性が高いと仰っていました」
あの日別室に移された実野妓くんのご両親も、 ちゃんと話せるように出来ますか? と泣いて懇願する声が聞こえて来ていた。
「こればかりはどうする事も出来ないっスよ」
「どうしてそう思うの?」
「医学は万能じゃないっス。だからお医者様に出来ないって言われたら、今の医療技術じゃ出来ないって諦めるしかないっスよ」
確かに一理あるけど、そんな言い方しなくてもいいんじゃないかなぁ?
「そうねぇ〜・・・・・・ところで理事長はどうしているのかしらぁ?」
「本来なら謝罪会見を開くべきなんですけど、みんなが病院に運ばれている間に何処かへと行ってしまったみたいです」
「それって、行方を眩ませたって言った方が合ってるんじゃないかしら?」
「・・・・・・その通りかもしれません」
そう、入浜警察予備高校では、責任逃れをする為に逃げたかもしれないと教員達の間で言われているのだ。
そんな中、ドアのベルが店内に鳴り響いた。
「いらっしゃいませぇ〜! ってあらぁ?」
「えっ!?」
店内に入って来たのは、何と下谷さんと舞ちゃんだった! しかし、何故か2人の顔がやつれているように見える。
「おねぇさんの方は入っても構わないけれどもぉ〜。お嬢さん、アナタは未成年なのだからぁ、ここには入って来ちゃダメよぉ〜」
「すまない。私の連れなんだ」
「それだったらOKよ。でも未成年の子にお酒を出せないのは理解してねぇ〜」
「教師としてそれは心得ている」
下谷さんはそう言うと、お店の中へと入って来た。
「下谷さん。どうしてここに?」
「ああ、キミが何処にいるのか事務所の方に確認を取ったら、ここにいると言われてね」
「つまり、僕に会いに来たって事ですか?」
僕がそう聞くと、下谷さんは頷いた。
「昨日は生徒達を助けてくれて、ありがとう」
「いいえ、気にしなくても大丈夫です。ところで生徒達の方は大丈夫なんですか?」
「ああ、身体の方は大丈夫なんだがぁ・・・・・・」
「みんな、ショックを受けていたの」
やっぱり、そうなっちゃったんだ。
「まさかあの馬鹿理事長が、独断で生徒達を実戦へ送っていたとは思いもしなかった」
ん? 思いもしなかった?
「あれ? 下谷さんは把握していなかったっスか?」
「その時ちょうど自衛隊の方に行っていて、生徒達と共に演習をする予定を打ち合わせしていたんだ。
それで打ち合わせをしている最中に支給された携帯が鳴って、後はキミ達の想像通りだ」
「つまり、あの理事長の思惑通りだったって事っスね」
「ああ、私も話しを聞いた当初は訳がわからないと思っていたが、後になってから、やられたと気付いたよ」
「そうなのぉ〜」
真理亜さんはそう言うと、ノンアルコールビールとオレンジジュースをカウンターに置いた。
「私達は飲み物を頼んでいないが?」
「大丈夫よ。紫音ちゃぁんの奢りだから」
「えっ!?」
僕がいつ2人に奢ると言いましたか?
「そんな顔をしないのぉ。こういう時に女性に奢ってあげるのが、男の甲斐性よぉ」
「いやいやいやいや、下谷さん達は知り合いであって彼女じゃないんですから、奢る理由になりませんよ」
「えっ? それじゃあやっぱり、マルチネスさんと付き合っているの?」
コニーさんとぉ?
「コニーさんとは付き合ってないよ」
「いや、でもぉ・・・・・・病院でキスをしていたよね?」
そう言われると、心がドキッとしてしまう。
「その事については後ほど聞くっス。下谷さん、紫音くんにお礼を言いに来ただけなんスかぁ?」
真奈美さんはそう聞くと、下谷さんは戸惑った表情を浮かべる。
「・・・・・・紫音くん。うちの高校に転入してみないかい?」
「えっ?」
これってもしかして、スカウト?
「どうして紫音ちゃぁんを入れたいのかしらぁ?」
「入浜警察予備高校はキミの能力を高く評価している。だからキミとコニーを我が高校に転入させようといった話が出ているんだ。どうする?」
それはもちろん、答えは決まっている。
「すみませんが、お断りさせて頂きます」
「どうしてだ? キミ達2人なら学費を免除するらしいが?」
「僕はアナタ達が掲げているような正義感は持ち合わせていません。自分の学費と生活費を稼ぐ為と、僕が信頼している人達の為に銃を持って戦っているんです」
「・・・・・・そうか。わかった」
下谷さんはそう言うと、テーブルの上に置かれたノンアルコールビールを飲んだ。
「勧誘のわりにはアッサリしているわねぇ」
「私自身、大園くんとマルチネスさんを引き入れるのは反対だったからな。断られたら断られたでその場で終わりしようと思っていたんだ」
「そうなのぉ。ねぇ、アナタ達の理事長が何処に行ったか知らないかしらぁ?
」
真理亜さんがそう聞くと、下谷さんはバツの悪そうな顔をさせる。
「すまないが、本当に私達はあの女の居場所を知らないんだ」
「高校の方もそれが原因になって、休校状態になっているの。しかも生徒の中には転校をするって子も出て来て・・・・・・」
「高校存続の危機に直面しているって事っスかぁ?」
真奈美さんがそう聞くと、舞ちゃんは頷いた。
「そうなんだぁ。色々と大変だね。ところで実野妓くんはどうしているの?」
「意識は取り戻したそうだけど、本人はショックを受けていて。そのぉ〜・・・・・・」
「とても面会が出来る状態じゃないんだ」
「どう言う事っスか?」
真奈美さんの質問に下谷さんは話したくないのか目を逸らすが、舞ちゃんは決意したような顔で話し出した。
「さっき私達がお見舞いに行ったの。だけど病室に入ろうとしたところで、龍平くんの怒声が聞こえて来たの」
「怒声って・・・・・・怒っていたの?」
「うん。何を言っているのかわからなかったけど、病室に入っていた先生とかに叫んだり、呻き声を上げたりしていた」
「恐らく、現実を受け入れられない状態だったんだろう。今はそっとしておこうと言う事で帰って来たんだ」
うん、僕もその方がいいと思う。
そう思っていると、またドアのベルが鳴ったが今度はドアを開け放ったので、全員驚いた顔をしてそちらに顔を向ける。
「あっ、アナタは!」
「やっと見つけたわよ! クソ犬ぅっ!!」
そう、入浜警察予備高校の理事長がお店の中へと入って来たのだ!
突如として現れた理事長! 彼女は一体何を語るのだろうか?




