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もふもふ姿で逃亡中の戦姫様、ダンジョンでストレス発散しているところを配信されてバズってしまう  作者: 緋色の雨


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エピソード 1ー4 白いもふもふ、美少女姉妹にほだされる

 お風呂から上がった私は魔術で余分な水分を飛ばして身体を乾かした。その横では、下着の上にだぼだぼのトレーナーを身に着けた紗雪がドライヤーで髪を乾かしている。


「ユリア、不思議な魔術を使うね」

「わん(貴方の髪も乾かしてあげる)」


 ドライヤー中なので少し控えめに余分な水分を飛ばす。


「わぁ、ありがとう!」


 感謝した紗雪に抱き上げられる。

 そうして私はリビングへと連れて行かれた。


「夕食の準備終わってるよ~」

「じゃあ運んでいくね。っと、ユリアはいい子で待っててね」


 紗雪はそういって料理をトレイに乗せ始めた。制服姿の結愛と、可愛らしい部屋着の紗雪が仲睦まじく夕食をテーブルに運んでいる。

 その光景は微笑ましくて、少しだけ……瑛璃さんのことを思い出した――って、なんで私はこんな状況で瑛璃さんのことを思い出してるのよ!

 彼女は私を騙したんだからね!

 そうして頭を振っていると紗雪が私を見た。


「そう言えば、ユリアの食事は普通でいいのかな?」

「……ワンコならタマネギとかはダメだけど……」

「わんっ!(ワンコじゃないって言ってるでしょ!)」


 フェンリルに食べられないものはない。とはいえ、味覚は人間としての影響を受けているからゲテモノは嫌だ。出来ればドッグフードも避けたい。

 そんな意味を込めて、私にもちょうだいと、料理を見ながら前足で床をたしたし叩く。


「……一緒の料理がいいって言ってるのかな?」

「わんっ!」

「そうみたいだね」


 紗雪が笑って、私のまえにも夕食を用意してくれる。

 食べていい? と見上げれば、パシャリと写真を撮られた。


「……わふ?」

「夕食をまえに、ちゃんとマテが出来るワンちゃん!」


 なんか、スマフォに書き込んでる。

 それ、SNSに発信したりしてる訳じゃないわよね……?


「わぁ、見てみて、結愛。投稿した瞬間、ものすごい勢いで拡散されてるよ!」


 ……思いっきり発信されてた。

 そして、ものすごい勢いで拡散されているらしい。

 え、これ、もう色々と手遅れじゃない……?


「お姉ちゃん、ご飯冷めちゃうよ」

「っと、そうね。それじゃ、いただきます。ユリアも食べていいよ」

「わん(いただきます)」


 許可をもらって、ハグハグと食べる。

 ……うん、美味しい。結愛は中学生なのに料理が上手だね。きっと、ダンジョンに潜る姉を支えようとがんばってきたんだね。

 そんな風に考えながら結愛の手料理を味わった。



 そして夜更け。

 私は紗雪が寝付くのを待って起き上がった。

 紗雪は……うん、ちゃんと眠ってるね。


「……わん(少しのあいだだけど、楽しかったよ)」


 このまま居着きたい気持ちはある。

 でも……行かないと。

 紗雪が私の名前をユリアにした以上、いつ私の正体がばれてもおかしくない。瑛璃さんの追っ手が来るまえに逃げなくちゃいけない。

 だから――ばいばい。


 別れの言葉は短く、身を翻し、ドアノブに飛びついてドアを開ける。そうして出来た隙間から部屋から出ると――ひょいっと抱き上げられた……って、え?


「ユリア、何処へ行くつもり?」


 私を抱き上げたのは結愛だ。


「わふ……(いや、その、ちょっと夜の散歩に)」


 言葉が通じないと分かっているのに思わず言い訳を口にしてしまう。


「ちょうどよかった。今夜は私の部屋においで」

「わ、わふ(いや、私はこれから夜の散歩に……)」


 逃げようとするけれど放してくれない。

 私はそのまま、結愛の部屋へと連れて行かれてしまった。


 このときの私は、まぁ結愛が寝てから抜け出せばいいか――なんて思っていたのだけれど、結愛は私を抱きしめたままお布団に入ってしまう。

 私を逃がさないようにしているのかとも思ったけれど、結愛は少しだけ震えていた。


「ねぇ、ユリア、お姉ちゃんを助けてくれてありがとうね」

「……わふ?」

「さっき、お姉ちゃんの切り抜きを見たの。お姉ちゃん……本当に死にそうになってた。ユリアが助けてくれなかったら、絶対死んでたって、みんな言ってた……」


 あぁ、そっか。切り抜きには、フェンリル姿の私が活躍するシーンだけじゃなくて、紗雪が死にかけるシーンだって映っているものね。

 それを見たのなら……怖くなって当然だ。


「あのね。お姉ちゃん、中学になってすぐに探索者になったの。遺産だけじゃ、私を大学に通わせるのは難しいからって」

「わん……」

「私も手伝うって言ってるんだけど、聞いてくれないの……」


 紗雪は三年前のダンジョンブレイクに巻き込まれたと言っていた。

 ということは、いまの紗雪は高校一年生ということだ。もう一つ二つ上だと思ってた。年齢よりもしっかりして見えるのはそれだけ苦労してきたからだろう。


 そもそも、中学生が探索者になるのはかなり珍しい。毎年、少なくない数の探索者が亡くなっているからだ。


 それでも学生がダンジョンに潜ることが規制されていない。

 ダンジョンがこの世界に発生した当時は規制されていたらしい。それが緩和されたのは、ダンジョンブレイクの発生原因が分かったからだ。


 ダンジョンの魔物が地上へ氾濫するダンジョンブレイク。

 その原因は、ダンジョン内の魔物を放置することだ。倒す魔物の量が少なければ少ないほど、ダンジョンブレイクの発生率はアップする。


 これが周知されたことで、規制は一気に緩和された。ダンジョンブレイクを未然に防ぐためには、多少の犠牲はやむを得ない、という風潮が生まれたのだ。

 そして、そんな風潮になる程度には、この世界が危機に晒されている。


 結果、隣人の死は珍しいものではなくなった。

 結愛が姉を心配するのは当然のことだ。


「あのね、お姉ちゃんってちょっと大胆の服を着てるでしょ? あれって、私が危ないことはしないでって言ったからなの」

「わふ?」


 それならむしろ地味な服になるのではと首を傾げる。


「視聴者数を稼ぐためなの。ちょっと恥ずかしいけど、それでリスナーが増えれば収入も増えて、その分だけ安全な場所で狩りが出来るからって……」


 あぁ……そっか。落ち着いたイメージの紗雪がちょっと大胆な服を着ているのはそういう理由だったんだ。本当に、優しい子なんだね。


「……正直、危ないことを止めてくれるならそれでいいって思ってた。そのときの私、ダンジョンのことをちゃんと理解していなかったの」

「……わん(そっか)」


 ダンジョンは危険な場所だ。

 いくら気を付けたって、ある日あっさり些細なミスで死ぬこともある。

 それを、結愛は本当の意味で知ってしまったんだろう。


「ねぇ、ユリア。お願い。これからもお姉ちゃんを護ってあげて」

「…………」


 その言葉に答えられなかった。

 私と似た境遇の二人を出来れば助けてあげたいと思う。でも、私がユリアだとバレれば、追っ手がここに来ることになる。


 ……どうしたらいいのかな?

 そんな風に考えていると、私を抱きしめる結愛の手から力が抜けた。

 すぐに可愛らしい寝息が聞こえてくる。いまなら抜け出すことが出来る。……けど、そうしたら、二人はきっと悲しむだろう。


 ……まぁいいか。

 別に目的がある訳じゃない。いつか正体がばれるとしても、私がここから立ち去るのはその後でも遅くはない。だから、とりあえずは二人の側にいよう。

 そんなことを考えながらベッドに身を委ねた。

 久しぶりのふかふかのベッド。

 そのベッドは甘いミルクのような匂いがした。

 

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