エピソード 3ー3 紗雪は白いもふもふの濡れ衣を晴らす
「真っ白な世界に彩りを! ダンジョン配信系実況者の紗雪だよ!」
翌日の朝。
朝食を終えた後の紗雪が部屋で配信を始めた。
『おはよう、待ってた!』
『怪我とか大丈夫?』
『あれ、いまどこにいるの?』
「おはよう~。ユリアが護ってくれたから怪我とかは大丈夫だよ。それとこの場所は――星霜ギルドのVIPルームだよ! 瑛璃さんが使わせてくれたんだ~」
その後に、事情を問うコメントや、それを話して大丈夫? なんてコメントが流れる。
「えっと順番に答えるね。まず、配信は瑛璃さん――聖女様の許可を得ているよ。それと、事件の詳細は星霜ギルドが発表すると思うからそれを待ってね。それと――」
紗雪はおもむろに満面の笑みを浮かべた。
「戦姫のユリアさん、やっぱり無実だって! なんか意見の行き違いでユリアさんが怒って飛び出して、瑛璃さんがそれを連れ戻そうとしただけ見たい」
『へぇ~そうだったんだ!』
『それはそれで大事な気がするがw』
『まあ、疑いが晴れてよかったな』
『紗雪、よかったね!』
「うん、ありがとう! これで、みんなも晴れて、この子のことをユリアって呼べるね!」
どうやら、紗雪はそれを言いたかったらしい。
だけど――
『いや、白いもふもふは白いもふもふだと思う』
『実際白いもふもふだしな』
リスナーは白いもふもふという名前が気に入っているらしい。
まあ、私としても、ユリアって正体がばれそうで気が気じゃないので、白いもふもふって呼ばれる方が気が楽なんだけどね。
でも、紗雪は目に見えて拗ねた。
「もぅ、みんな! どうしてそういう意地悪をするのかな?」
『いやだって、白いもふもふは白いもふもふだろ?』
『まあ、ユリアと同じくらい強いのは認めるけどな』
『って言うか、S級を一方的にボコるってヤバいよな』
『実はその白いもふもふがユリアさんだったりしてw』
そのコメントを目にした瞬間、私は変な声が出そうになった。ヤバい、正体がばれそうだと、そこまで考えた私は、あれ? 別にバレてもいいんじゃない? と考える。
いや、だってさ?
私が正体を隠していたのは、瑛璃さんから逃げるためだ。でも、もう既に瑛璃さんには正体がばれている。その上で自由にさせてくれてるんだから、正体を隠す理由がない。
なんなら、今日にでも正体を明かしても――
『いやいや、ないだろw 大体、その白いもふもふが戦姫――というか人間なら、子犬の振りをして、女子高生の家に上がり込んでることになるじゃねぇかw』
『たしかに、それはヤバいw』
『事案かな?w』
――正体を明かしてもいいことはなかった。
私は改めて、自分の正体を隠し通すと決意する。
『まあ冗談はともかく、その白いもふもふはホントに大丈夫?』
『そういや、危険じゃないかって声が上がってたな』
少し心配の声が上がる。
シオン相手にやり過ぎたことで、私を危険視する人がいるみたいだ。まあ……あれを見たら、心配になるのは無理もないよね。
「大丈夫だよ。やり過ぎはダメだよって言い聞かせたから」
『言い聞かせてなんとかなるのか?w』
コメントを受けて、紗雪が私に視線を向ける。
「ユリア、反省したよね?」
「くぅん」
「次は大丈夫だよね?」
「わん!」
「大丈夫だって」
紗雪が笑顔で宣言する。
『ワロタw』
『やっぱり言葉が通じてるじゃねぇかw』
『実際、ベーシック狩りとかでも、紗雪の言うことをちゃんと聞いてたもんな』
『過保護なのが玉に瑕だけどなw』
好き勝手言われているけれど、紗雪のリスナーはあまり心配していないみたいだ。もちろん、不安の声は残っているけれど、多くのリスナーが大丈夫と言うことで、不安だというコメントを打っていた人も、みんながこう言うなら大丈夫なのかな? という空気になっている。
少なくとも、いまのところ、強固に心配する人はいないようだ。
『それで、どうしてギルドのビルにいるの?』
「あっと、なんかお詫びについて決めたりするからだって」
『え、星霜ギルドのお詫び……?』
『なんか凄そう!』
『なにもらうの?』
「まだ決まってないけど、どういうのがあるんだろう? ……菓子折?」
『か し お りw』
『あれだけのことをしでかして、その程度で済むはずないだろw』
『創世ギルドの伝手で武器を作ってもらったら?』
「あーっ、それいいね! このあいだ手に入れたインゴットで武器を作ってくれないか、お願いしてみようかな?」
そう答える紗雪に向かって、リスナー達がおすすめの武器なんかを紹介する。そうしてあれこれ話し合っていると、部屋の扉がノックされた。
「あ、ちょっと待ってね」
配信の機能を使ってミュート&映像を待ち受けに変える。
そうして返事をすると、瑛璃さんが部屋に入ってきた。
「昨日のことで報告があるのだけど、いま大丈夫かしら?」
「あ、配信を終わらせるので少し待ってください」
配信を元に戻し、「昨日のことで瑛璃さんと話すから、今回の配信はここまで! 続きはまた次の機会に!」と言って配信を切った。
「お待たせしました」
「いいえ、こちらこそ急にごめんなさい。というか、普通に部屋で配信をするのね」
「もしかして、ダメでした?」
「まさか、問題ないわよ。ただ、部屋で配信というのが意外だっただけ」
「あぁ、普段はあんまりしないですよ」
「そっか、みんなに心配を掛けてしまったものね」
瑛璃さんはそう言って、ぺこりと頭を下げた。
「改めて、星霜ギルドの関係者が迷惑をおかけしました。関係者はすべて確保したので、もう貴女に被害が及ぶことはありません」
「……え? あ、もしかして、私をここに泊めてくれたのは」
紗雪を二次被害から守るため。
それに気付いた紗雪に対し、瑛璃さんは悪戯っぽい笑みを返した。
「それで、お詫びの件だけど、なにがいいかしら?」
「実はリスナーと少し相談して、武器を作ってもらうのはどうかなって」
「そういえば、煌焔結晶のインゴットを大量に入手してたわね」
瑛璃さんがなにか言いたげな視線を向けてくるけれど、私はさっと視線を逸らした。
「インゴットはあっても伝手はなくて。それに、加工費も現物払いとかになる予定で」
「もちろんかまわないわよ。というか、お詫びなのだから加工費なんて必要ないわ。本来なら、インゴットもこちらで用意するところだけど……」
瑛璃さんは再び私をチラリ。
「せっかくだから、インゴットは貴女が入手したのを使いましょう。その代わり、武器の強化に関して、こちらで手を入れておくわ」
「……強化、ですか?」
「完成してからのお楽しみよ。それで、どんな武器がいいのかしら?」
それからしばらく、紗雪と瑛璃さんの話し合いは続いた。




