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もふもふ姿で逃亡中の戦姫様、ダンジョンでストレス発散しているところを配信されてバズってしまう  作者: 緋色の雨


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エピソード 3ー1 聖女様に捕捉される白いもふもふ

 星霜ギルドが所有するビルの一室に拉致された紗雪と私。犯人である黒嶺と、その部下であるシオンを叩きのめしていたら創世ギルドの部隊が現れた。

 そしてそのリーダーである女性に見つけて目を見張る。

 鮮やかなイエローの髪にパープルの瞳。聖女と言うにはあまりに華やかな雰囲気を纏う彼女は、創世ギルドのマスター、瑛璃さんである。

 彼女の登場に、私は思わず紗雪の後ろに隠れる。


「……ユリア?」


 いやあぁぁあぁっ、私の名前を呼ばないで! 瑛璃さんにバレちゃう!


 そんな風に焦りながら、紗雪の背後からこっそりと様子をうかがう。瑛璃さんは部下達に黒嶺とシオンの捕獲を命じると、続けて紗雪に視線を向けた。


「初めまして、私は香澄(かすみ) 瑛璃(えり)。星霜ギルドのギルドマスターをしています。まずは、私のギルドの関係者が紗雪さんにご迷惑をおかけしたこと、心よりお詫び申し上げます」

「あ、いえ、その……聖女様は、私を助けに来てくれたんですか?」


 紗雪が少し警戒する様子を見せる。


「はい。お恥ずかしながら、貴方の配信を見て事実を把握して駆けつけた次第です」

「……配信?」

「今回の一件、星霜ギルドは事実を解明して、黒嶺とシオンに責任を取らせることはもちろん、貴女にも相応のお詫びをと考えています。ただ、そのお話の中には、貴方の個人情報に触れる内容もございますので、いったん配信を止めていただいてもよろしいでしょうか?」

「え? 配信中? って言うか、デバイスはどこに……あった!」


 事前に絨毯の上に転がしておいたデバイスを見つけて装着する。

 いまの彼女には多くのコメントが見えているのだろう。


「――みんな心配掛けてごめん。気になると思うけど、報告は後日にね!」


 紗雪は一方的にそう言って配信を切った。


「ご配慮に感謝します。それでは――」


 彼女が話をしようとした瞬間、戦闘の余波で破壊された天井からコンクリート片が落下した。それがちょうど瑛璃さんに向けて落下する。

 まあ、瑛璃さんなら余裕で回避するだろうけど――って、どうして避けないのよ!


「わんっ」


 即座にグレイプニルの鎖を発動、そのコンクリート片を弾き飛ばした。


「あら、私を助けてくれたのね、ありがとう」


 瑛璃さんはそう言って私を抱き上げた。って言うか、いま破片を避けなかったの、絶対わざとだ! 冷静に考えたら瑛璃さんが気付かないはずない。

 なんか、すっごい試された気がする!


「そう言えば、この白いもふもふ、名前はなんて言うの?」

「ユリアです」

「へぇ、そうなんだ。貴女、ユリアって言うのね。ふふっ、いい子、いい子」


 瑛璃さんは私を胸に抱きしめて頬ずりを始めた。……って言うかそれ、フェンリルの子である私に言ってるんだよね? 私の正体に気付いている訳じゃないわよね?

 ……ものすっごい、怖い。


「あの、聖女様?」

「あっと、ごめんなさい。色々と話があるのだけど、ここで話すのは危険ね」

「あ、その、うちの子が部屋をめちゃくちゃにしてごめんなさい!」

「あら、責めている訳じゃないわよ。ひとまず別室に移動しましょう」


 ――ということで、私達は別のVIPルームへと移動した。

 その応接間にあるローテーブルを挟み、瑛璃さんと紗雪が対面してソファに座っている。私は途中で瑛璃さんの腕の中から逃げ出したので、いまは紗雪の膝の上にお座りしている。


「あらためて、ギルドの関係者がしでかしたことについて謝罪します」

「あ、いえ。びっくりはしましたけど、ユリアが助けてくれましたから」


 紗雪がそう言って私を撫でる。


「その子、本当に優秀なのね。こちらでも少し調査させてもらったのだけれど、貴女がユリアと出会ったのは、あのイレギュラーのときが最初で間違いないかしら?」

「はい、あのときが最初です」


 私は思わずビクッとなりそうになり、寸前で平常心を装った。


「ちなみに、黒嶺が言っていたネックレスの件は?」

「ユリアさんの私物とか言ってた奴ですね。でもあれ、宝箱から手に入れたものですよ?」

「見せてもらっても?」


 紗雪はそれに応じ、ネックレスを瑛璃さんに手渡した。

 ……まずいよぅ。

 黒嶺でも気付いたんだ。瑛璃さんなら絶対に気付くはずだ。


「なるほど、これはたしかにユリアのデザインね」

「……デザイン、ですか?」


 紗雪がコテリと首を傾げた。


「あまり表に出してないから知られていないけど、ユリアはダンジョンの素材から魔導具を作る能力もあるの。これは、間違いなく彼女が作った能力アップのネックレスよ」

「……でも、宝箱に入っていたんですよ?」


 それは、私が宝箱に入っていたように偽装しただけ。瑛璃さんがそこに至れば、私がユリア本人であることに気付くのは時間の問題だ。

 そうして固唾を呑んでやり取りを見守っていると、瑛璃さんが「そうね」と口を開いた。


「ダンジョンの宝箱から得られるものの中には、探索者の落とし物も含まれるでしょ? 宝箱にユリアの私物が入っていたのは、そういうことかもしれないわね」

「まさかっ、ユリアさんになにかあったってんですか!?」


 私は正体がばれなくてほっとしたけれど、紗雪は別の理由で目を剥いた。

 私が死んだ可能性を考えたのだろう。


「あぁ、そういう意味じゃないわ。驚かせてごめんなさい」

「でも、ユリアさんの私物が宝箱から出てきたってことは……」

「ユリアは制作物を売ったり譲ることもあるの。だから、宝箱から出てきたのはそのうちの一つだと思うわ。それに、死んだユリアの私物が宝箱から出てくるには早すぎるもの」

「……そう、ですよね」


 紗雪がほっと息を吐く。


「紗雪さんはユリアのこと、心配してくれるのね」

「それはもちろん、私にとって彼女は恩人なので」

「切り抜きで見たわ」


 思わず吹きそうになって顔を背けた。

 ……瑛璃さん、切り抜きとか見るんだ。


「――あの、私からも聖女様に質問していいですか?」

「瑛璃さんでいいわよ」

「え、でも……」


 戸惑う紗雪に瑛璃さんは「私も貴女のことを紗雪と呼ぶから。それとも、私と親しくするのは嫌かしら?」と悪戯っぽい笑みを向ける。

 ……瑛璃さん、相変わらずの人誑しだなぁ。


「それじゃ……えっと、瑛璃さん。質問いいですか?」

「ええ、もちろん」

「あの、ユリアさんのことなんですが、どうして追っ手を掛けられているんですか?」

「それはユリアが逃げたからよ」

「……それは、彼女がなにか悪いことをした、ということでしょうか?」


 私を抱く紗雪の指先がわずかに震えた。

 だけど、瑛璃さんは首を横に振った。


「ユリアはなにも悪くないわ。ただ……そうね、私がやり方を間違ってしまったの。あの子のためを思ってしたことが、あの子のためにならなかった。だから、あの子は逃げ出したの」

「なのに、追っ手を掛けたんですか?」

「連れ戻したかったのよ。あの子は大事な……そうね、妹のような存在だから」


 それは、私にとって意外な言葉だった。でも、瑛璃さんが本気でそう思っているのは、その表情と声色から伝わってきた。


「……教えてくれてありがとうございます。このこと、ネットで話しても大丈夫ですか?」

「ええ、もちろん。私としても、ユリアが濡れ衣を着せられたままなのは望むところじゃないもの。貴女が世間に発信してくれるというなら歓迎よ」


 瑛璃さんはそう言って席を立った。

 だけど、ふと思い出したかのように口を開く。


「そうそう。まだ少しお詫びの内容を決めたりとか話があるから、今日はここに泊まってもらってもいいかしら? ちょうど明日は休みでしょ?」

「それはかまいませんが……ところで、あの壊してしまった部屋の件は……?」


 言葉を濁す紗雪。

 なにを言いたいか察した瑛璃がすぐに微笑んだ。


「さっきも言ったけど、貴女たちは被害者よ。だから、修理代を請求するようなこともないわ。むしろ、お詫びをするのはこちらだから心配しないで」

「ありがとうございます! ちょっと安心しました」

 

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