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「仕事の話だ」
「えー、ほんとー?」
「ほんとほんと。ほら、おまえたちも訓練に励んでくれよ」
近づいてきたハイウルフたちを撫でてやると、彼らは一度鳴いてからルーフのもとへと向かった。
ルーフをリーダーとして、魔物部隊もかなり統率がとれている。
ハイウルフたちの元々のスペックを考えれば、これが三食しっかり与えるだけで協力してくれるのだから安い兵力だ。
「レイス様。イナーシアに仕事の話と言っていましたが、何かあったのですか?」
ゲーリングが心配そうに声をかけてくる。
……まあ、だいたいのことは俺一人で解決できるからな。
その俺がイナーシアを頼る必要があるということから不安を感じているんだろう。
「いや、危険なことはなくてな。フェアリー族と話をするためにイナーシアに協力をお願いしたいと思ってな」
「フェアリー族ですか?」
「ああ。色々と話があってだな――」
イナーシアが戻ってくるまでの間、俺はゲーリングに今考えていることを伝えていた。
彼が納得した様子で頷いていると、大きな食料箱を台車にのせたイナーシアがやってきた。
……見た目の割に、なんて力強いんだろう。
それは俺も同じか。
「あれ? レイス様? どうしたんですか?」
「イナーシアに用事があってな」
「あたしですか?」
イナーシアは少し驚いたように目を見開いた後、前髪を軽くいじりながらこちらを見てきた。
イナーシアが持ってきた食事は、アリアナたちがハイウルフたちに食べさせるために準備している。
……待てとかおすわりとかお手とか、きちんと躾もされているな。
そして、ハイウルフたちが賢いこともあってか軍隊のように皆がびしっと動いている。
本当に、思っていた以上にしっかりと教育が行き届いているな。
「フェアリー族って、知っているか?」
「え? 知ってますけど。以前、依頼を受けたときに多少話しましたよ」
「今度、屋敷でフェアリー族の魔道具を導入しようと思ってな。フェアリー族に交渉しようと思っているんだ。その仲をとりもってくれないか?」
「……ふーん、分かりました。あたしは別にいいですけど、いつ行くんですか?」
なんだか、イナーシアが少し残念そうだった。
何か別の頼み事をされると思っていたのだろうか? 彼女の性格からして、戦いがあるほうがいいのかもしれないな。
「南の森なら、俺が空間魔法で移動できる。この後時間があれば行かないか?」
「あたしは、大丈夫です。二人きりですか?」
「その予定だが護衛が必要なら他の兵も連れて――」
「大丈夫です! 行きましょう!」
……今度は急に元気になったな。
イナーシアが嬉しそうに笑っているのを見て、ゲーリングは暖かい目を向けていた。
「ねぇ、レイス様……フェアリー族の魔道具を使ってもいいんですか?」
イナーシアとともにフェアリー族が暮らす森の近くに移動し、俺たちは歩いていた。
俺もフェアリー族が暮らす森の中にまでは入っていなかったので、ここからは徒歩だ。
「特に問題ないと思うが。何かあるのか?」
「あたしは別に気にしてないんですけど、やっぱり貴族の人たちってフェアリー族を嫌ってるからなぁって思いまして。レイス様が他の貴族の人たちとは違うっていうのも分かってますけど」
フェアリーの魔道具について、貴族たちが嫌う理由についてはさらに調べてみた。
真っ先に導入されたのがギルドだったこともあり、平民が使う道具という認識が定着したというのが忌避される最大の理由のようだ。
おまけに魔道具を導入してもなお、ギルドなどの情報の管理にはミスが多いため、信頼されていないらしい。
……まあでも、これに関してはデータを入力する人間がそもそも間違えているなど、再確認をしていないからなんだろうけど。
昔は貴族たちがフェアリー族を見下していたから使っていなかったものだが、今では平民たちが使う道具として皆がバカにしている。
ただ、ギルドで見た限り、領内の情報をまとめるなら絶対これのほうが便利だと思うんだよな。
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