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……速いな。
迫ってきたデュラハンの長剣を受け止める。
「そこから、降りてこい……!」
デュラハンが乗っていた馬を睨みつけ、空間魔法で馬を、デュラハンを巻き込むように展開する。
しかし、デュラハンは即座に馬の上から飛び退き、回避する。
結果、仕留められたのはデュラハンが乗っていた馬のみだ。
すっと起き上がったデュラハンが、長剣を構える。
地面を蹴ると、一瞬でこちらへ迫ってきた。
……馬、必要ないじゃないか。
そう思えるほどの速度とともに、長剣が振り抜かれる。
俺は冥牙とミスリルナイフで、長剣を捌いていく。
一撃一撃が重く、素早い。
攻撃が体を掠めたが、衝撃に吹き飛ばされそうになる。
痛みに怯んでいる暇はない。
ゲームと違うのは、ノックバックを気合で押さえこむことができる点。
攻撃など喰らっていないかのように即座に反撃をし、その鎧に短剣を叩き込む。
ただ、頑丈な鎧に攻撃を弾かれる。
そして、デュラハンもまたダメージを気にせず、すぐに長剣を振りぬく。
ギリギリで身をひねってかわしたが、俺の肩を掠めていく。
……ゲームならば、ダメージを受けた後他の仲間に敵を引きつけてもらい、その間に回復できた。
ただ、今は時間を稼いでくれるだけの仲間はいない。将来的には信頼できる仲間になってくれるかもしれないが、今はまだ、俺が俺自身の手で未来を変える必要がある。
痛みはある。だが、まだ動ける。
短剣を握り直し、デュラハンの側面から一撃を叩き込む。
デュラハンが長剣で反応し、冥牙の一撃を受け止める。
左手に握ったミスリルナイフによる一撃は、反応できないだろう。
そう思って振り抜いたのだが、デュラハンは俺を弾くように力をこめ、後退する。
……なかなか、仕留めきれない。
ここまでの戦闘で疲労も溜まっていて、あまり持久戦には持ち込みたくない。
次で、決める。
俺は一度大きく息を吸い込んでから、地面を蹴った。
デュラハンは俺の攻撃を受け切ろうとしているのか、長剣を構える。
走りながら俺は、ミスリルナイフを投擲する。
デュラハンはそれを長剣で受けようとしたが、そこで空間魔法を発動する。
俺の展開した空間魔法の出口は、デュラハンの背後。
ミスリルナイフはその勢いのまま、デュラハンの背後から襲いかかる。
「……ッ」
威力よりも、背後からの強襲による驚きが大きかったのか、デュラハンは大きく仰け反った。
隙だらけとなったその体へ、俺は冥牙を叩き込む。
一閃で削り切れるとは思っていない。
だからこそ、立ち直す前に次の一撃を叩き込む。
デュラハンの体がよろめいたその瞬間、空間魔法を発動する。
さっきまではその速度でかわしていたが、体を抉り取る一撃を回避はできなかったようだ
デュラハンの心臓部分をまとめて薙ぎ払うと、その体から生み出されていた怪しい光が消えた。
……同時に、周囲は静寂に包まれる。
もう周囲に魔物はいない。
これで、終わりでいいだろう。
さすがに、ここまでの連戦をしたのは初めてだった。
こちらへ、皆が駆け寄ってくるのが見える。いくつもの声がどこか遠くで聞こえる。
もう、魔物の反応はない。
そして、俺は……無事だ。
なんとか、乗り越えた。
街はもちろん、フィーリア様も、兵士や冒険者もすべて……守り切った。
これでようやく、俺は自由に生活できるんだな。
そう思った瞬間、体から力がぬけた。
……後のことは、すべて皆に任せよう。
「レイス様!」
「治療班! すぐにレイス様に魔法を!」
「レイス様! 死なないでください!」
自分を囲むたくさんの人たち。
……それは俺が転生してから作り上げることができた場所だ。
……悪く、ないな。
俺はそんなことを考えながら、目を閉じた。
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