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……あとは、フィーリア様が死ぬかもしれないストーリーがいつくるのか。
今日なのか、また別日なのか……。それとも、すでに終了しているのか……。
俺としては、そちらのほうが不安だった。
一通りの訓練を見て行ったフィーリア様は、満足げに息を吐いた。
「ルボールさん、ちゃんと改善してくれたようですね」
「ええ、もちろんですとも!」
父は自信満々に頷いている。本人は何もしていないのだが、大した面の皮の厚さだ。
兄たちも誇らしげに胸を張っていて、訓練から戻ってきたリームはそんな彼らにジトっとした目で見ていたが。
余計なことは言うなよ、とは伝えてあるので黙ってくれている。引き換えに、あとで匂いを堪能させろとは言われていたが……必要経費だ。
「……私は初め、少し心配でした」
「心配、ですと?」
「ええ。……腐敗した貴族というのは中々反省をしないものでした。ですので、爵位の取り上げも考えるべきでは、と私の父に提案しましたが……父は、ルボールさんを信じていました。『我が幼馴染のルボールは、真面目な男だ。必ず、元に戻ってくれるはず』と。……父はあなたのことを信頼していたのですが、どうやらその通りだったようですね」
「ええ、そうですとも!」
父は、それはもう嬉しそうに頷いている。
……まあ、実際、父も昔は真面目だったみたいだけどな。
ただ、ルボールの両親が早くになくなり、ヴァリドー家の教えも十分に伝えられないまま、家を引き継いでしまった。
そして、周りの駄目貴族と関わる機会が増えていき……どんどん堕落していった結果、今の父が出来上がってしまった。
父もある意味でいえば、被害者だ。
「この調子で、堅牢なヴァリドールを再建してくださいね」
「ええ、お任せください」
父はぼてっとした腹を揺らすように頭を下げる。
皆が腹を揺らすように頭を下げるものだから、俺だけ浮いているよな。
俺たちがフィーリア様に頭を下げた時だった。
慌てた様子の兵士が訓練場へとやってきた。
……その兵士は、確か今日は見張り台で仕事をしているはずのものだ。
この街の防壁には人が通るための道や、見張り台がある。
そこで街に迫る危険がないかを調べるのが仕事なのだが……嫌な予感がするな。
「た、大変ですザンゲルさん!」
「どうした!?」
「今、王女様が来られているのだぞ!? 無礼者!」
父が怒鳴りつけると、兵士はびくりと肩をあげる。
それを、フィーリア様が片手をあげて制する。
「緊急事態かもしれません。私のことは気にせず、続けてください」
「……は、はい! ただいま、悪逆の森から大量の魔物が溢れていると報告あり。索敵によって、そのすべてがこちらに向かってきていることも確認済みです……!」
「なんだと!?」
……また、最悪な状況じゃないか。
以前のイレギュラーもフィーリア様がいた時のことだし、呪われているんじゃないだろうか?
「それは、本当なのか?」
「……はい。索敵が、得意なものに調べさせたところ大量の魔物がヴァリドールに進行していると皆も言っていました」
「……分かった。ルボール様、いかがしましょうか」
「すぐに避難だ! 転移石を使い、別の街に移動するしかない!」
……まあ、魔物の規模が分からないとはいえその判断自体は正しい。
ヴァリドールが、普通の街だったらだ。
すぐに反応したのはフィーリア様だ。
「……ちょっと待ってください。ヴァリドールは魔物の進行を止めるための街です。魔物に対抗するための様々な武器があるのですから、ここで対応したほうが良いのではないでしょうか? 他の街に、兵士の援軍を募集し、転移石で移動してきてもらえれば十分可能だと思いますが」
フィーリア様の意見が、正しい。
このヴァリドールには対魔物用の装備が大量にあり、結界装置も他の街よりも優秀だ。
それらの燃料や整備がされていれば……それらを用いて援軍を待ちながら戦うのが正しい。
……燃料があり、整備がされていれば、な。
整備自体は俺がヴィリアスにお願いしてみてもらっているが、何せ数が多いからな。必要最低限しか整備できていない。
燃料は……軍事費が割かれていないのでもちろんほとんどない。
そこまで、父も計算したのだろう。
その顔が一気に青くなっていく。
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