29 再開の時
この度は更新を怠っており、本当に申し訳ありませんでした。
これからは、更新をしていきたいのでどうぞよろしくお願いします!!
何度か身体の検査を繰り返していくうちに事故の衝撃で頭を強打し、記憶を失ったのだろうという診断が下された。
この数日の間で分かったことは、僕の名前は済美 亘で大学生。あとは、友達がいるってこと。本当にこれくらい。
面会可能の時間になると、その友達は毎日のように来てくれる。名前は裕也。優しくて面白いやつだ。
そうしているうちに、今日もまた扉をノックする音が聞こえる
「亘、俺だ」
「入っていいよ」
ドアが横に開き、裕也が中に入ってくる。いつものように袋を片手に。
「亘、今日はリンゴ持ってきたぜ。一緒に食おうや」
「うん、いいね」
正直、僕は裕也についてあまり知らない。最初は信頼すらしていなかった。でも、なんだろうな。会った時から僕の心が暖かくなっていた。この気持ちは恐らく僕の元の記憶が辿ってくれているんだと思う。記憶を戻すためのレールを。
「そんでさぁ、うちのハゲ教授がさぁ······」
なぜだろう、そのハゲ教授の話をされると無性にイライラするのは。矛先は裕也ではなく、ハゲ教授であろう。
「裕也、僕もそのハゲ教授嫌いかも······」
「だろ! 亘なら分かってくれると思ったぜ」
無邪気なこどものように笑う親友の姿は僕に初めて会った時の悲しみの表情ではなく、期待や喜びの表情に満ち溢れていた。
もしかしたら、僕も少しずつ記憶を取り戻しているのかもしれない。
「おっと、そろそろ面会の時間も終わりだな」
「そうだね、ありがとう裕也」
「何かしこまってるんだよ。気持ちわりぃ、らしくないぞ」
「うるせぇよ」
裕也はそのまま笑いながら去っていった。でも、僕は見逃さなかった。裕也の目尻に溜まった涙を。
裕也は恐らく自分を責めている。何でかは分からないけど、そんな気がする。そんな裕也に声がかけられるとどれほど楽なのだろう、と思うが僕にはその声が出ない。
何度も出そうとした。裕也が来るまでに何度も練習した。でも、結局言えなかった。
——記憶をなくす前の僕もこんなんだったのだろうか······。
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結局、言えなかった。
俺は亘に助けて貰ってばかりだったのに、俺は亘を助けてやれなかった。
俺は亘が車に轢かれて記憶喪失になったと知って絶望のどん底に叩き落とされた。
あいつのことだ。ただで車なんかに轢かれるタマじゃない。そんなの俺が一番知っている。
大方、あいつまた何か自分では抱え込めないほどの悩みを背負ったままにしてたんだ。
そんな時、俺が隣にいたら······。肩を叩いてやれれば。あいつはどれほど楽になったんだろう。
そして、あいつの笑顔を見てると、実はこのままでいいんじゃないかなって思ってしまう。そんな俺が憎い。このまま、あいつに悩みなんて持たせないために、記憶を無くしたまま、悩みの元凶との縁を断ち切るのが最善なのではと。
でも、それだと何より亘が救われない。矛盾してることくらい分かってる。
でも、親友だからこそあいつには幸せになって欲しい。
俺はどうしたらいいんだよ!
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窓の外の色が暗く染まってきた頃。面会の時間でもないのに扉が開いた。
「ごめんね、今日も夜になったよ」
「あ、遅かったね。今日も大学の友達が来てくれたんだよ」
「また? 裕也くんだっけ? あの人よっぽど亘くんのこと好きなんだね」
「うん、僕も裕也のことは信頼してる。多分、記憶が無くなる前からこんな仲だったんだろうね」
「ふーん、じゃあ私は?」
「え?」
「例えば、亘くんと私が亘くんが記憶を無くす前から仲がよかったとすれば、私たちはどういう関係だったと思う?」
「ち、近いよ」
彼女は「ふふ」と笑いながら1歩下がった。こんなこと彼女には言えないけど、なんだろう。この胸が締め付けられるほどに苦しい気持ちは······。
鼓動が早打ちになり、頬が紅くなっていることくらい自分でもわかった。
「もう、性格悪いな。幸は」
7月 24日 午後20時25分 21歳




