20 瘡蓋
時間をみてかけました
僕は休めることなく喋る口を進めた。6年前、幸という少女との出会いがありそして別れがあったこと。それに伴う僕への影響や、罪悪感。全て話した。
気づく頃には僕達は進む足を止め、口だけを動かしていた。
「その、幸さんはなんでその時に血を吐いたの?」
「......僕も分からない。だから看護師さんにも聞いた。けど、教えてくれなかった」
「病気だったんでしょうか?」
「分からない。でも、そうなんだと思う。僕は彼女が血を吐いて倒れた後、病院で、その子の父親に殴られたんだ」
「え? どうして......」
「多分、その子の家族は知っていたんだと思う。彼女の状態を......。元々、体の弱い子だったしね」
「......じゃあ、亘くんはなんで殴られたの?」
「それは......親なら、時には子供のことで感情的にもなってしまうもんなんだろ?」
「分からないけど、亘くんは悪くないんじゃないのかなぁ? だって亘くんは何にもしてないじゃん」
「たしかに、僕は何もしていない。でも、もしかしたら過去の僕は、知らず知らずのうちにそういった雰囲気を作ってしまっていたのかもしれない」
琴音さんは静かに耳を傾け、僕の話に問いかけることなくじっと聞いてくれた。
「僕は、小さい頃から自分の周りの人に不幸を与えてしまうと思っていたんだ。だから、全部、自分のせいにしていた。それが周りの人にも伝わってしまっていたんだと思う。でも、もういいんだよ」
「だからって、そんなのおかしいよ......きっと幸さんも――」
「もういいんだよ!!」
僕は琴音さんがまだ話しているのにも関わらず、無理やりその話をきった。
僕の怒鳴り声にビクッと体を動かせ、少し怯える琴音さん。いきなり怒鳴ってごめんなさい。もう気にしてないから大丈夫、と素直に言えればどんなに気持ちよかったんだろう。
僕はそんな気持ちと共に溢れ出す涙を流したまま言った。
「もう......いいんだよ」
彼女はそれ以上何も言おうとせず、まだ怯えているというよりは、何かを察したかのように無言で歩き出した。
自分から昔の話を始めたというのに......。本当に僕は自分勝手な人間だ。心の底からそう思った。
琴音さんには何の罪もない。僕が、いきなり怖くなって我を忘れて怒鳴ってしまった。
ただそれだけだ......。
琴音さんは正論しか言っていない。全部正論で正しいこと......。でも、それを認めてしまったら僕のあの苦しみは、悲しみは何だったんだってなってしまう。
彼女から離れ、転校したこと。
食事も喉に通らず、やがて痩せ細って歩くことすらできなくなってしまったこと。
リハビリが苦しくて、何度も影で人に見せたこともないくらい弱い姿で泣いたこと。
僕の全てを否定されているようで怖かった。
いや、否定されている。僕が認めないだけ。
なぁ、幸。僕は、やっぱり間違っていたんだな。どこで間違えたんだろうな。
「やっぱり......僕は、幸せになんてなれないんだな」
この先、生きていて楽しいことなんてあるのか。前に6年前のことを完全に吹っ切れたんだと思った。でも、それは単なる瘡蓋でその瘡蓋を剥がせばすぐに元に戻る。
完治していると思っていた傷も少しの衝撃で剥がれて血が出る。
「本当にかっこ悪いな......」
「そんなことないですよ」
「琴音さん......」
「辛いですよね。苦しいですよね。でも、誰にも言えなくて、誰にも相談できなくて結局一人で溜めちゃいますよね」
「......」
「隠さなくてもいいんです。私も分かります。過去の自分がどんな人だったのか、どんなことが好きだったのか。それだけじゃあ、ありません。過去の記憶がないって本当に苦しいんですよ。自分の目に焼き付けた光景全てが新しく感じて怖いんです」
いつの間にか戻っていた琴音さんは続けた。
「亘くんは今、自分のやってきたことは間違っているんじゃないかって思っていますよね? それは過去を振り返って確認しているんですよね。でも、私にはできません。だから、とても羨ましいです」
「何が言いたいの?」
「振り替えれるだけの過去があるならいいじゃないですか! 幸さんはもうこの世に居ないんですか!? 余程のことがない限り、いますよね? だから、もう一度やり直せばいいいじゃないですか! 亘くんには過去があるんだから!」
琴音さんは感情的になりながらも冷静に、そして僕の心を響かせた。
記憶喪失で過去の記憶がない琴音さんだからこそ、とても説得力のある言葉だった。
「今は泣いてもいいんですよ。でも、その泣いた分を幸せにしてください」
「うん......」
僕は、自分が壊れるくらい泣いた。もう我慢しなくていい。僕のやってきたことは間違っていたとしてもやり直せばいい。
そして、全ての準備が整ったらもう一度彼女に会いに行こう。
その時には彼女にも新しい彼氏ができているかもしれない。もしかしたら、結婚して子供もいるかもしれない。
でも、あくまで僕は一人の友達として彼女に会いたいと思う。元彼の亘ではなく、ただの亘として。
その後、僕達は親切な方に泊めてもらい、次の日に帰宅した。あのおばあさんのご飯の味はもう忘れない。
「結局、ばあちゃん家行けなかったな」
「そうだね。まぁ、あれはあれで面白かったじゃん」
「そうだよね、また皆で出かけようね」
「今度はバス間違えるのは勘弁ね」
琴音さんはあれからも僕に何事も無かったかのように接してくれた。あの時はいきなり怒鳴ってごめん、と謝罪して「え? 何のことですか?」と返事された時は本当に驚いた。
彼女も僕と同様に悩みを抱える人。なのにここまで違うのかぁ、と関心すると同時に自分が情けなくなった。
今の僕は瘡蓋も治り、もう傷口なんて残っていない。本当の意味で全てを吹っ切れた。そんな気がしている。
6月11日 午後4時12分 21歳
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