第009話 プラスならお菓子を作る女
「痛むところとかはないか?」
アーヴィンの足に触れながら聞く。
「それはない」
「違和感は?」
「ないない。この前も生意気な新米を鍛えてやったぞ」
アーヴィンは元黒影団なだけあって強いからな。
義足でもその辺の兵士には負けないだろう。
「恨まれるなよ」
「ちゃんと訓練の範疇だよ」
「そうかい。じゃあ、調整するわ」
義足を外し、変わったとこがないかをチェックしていく。
「はい、お茶」
アンジェラがお茶をアーヴィンに渡した。
「ありがと。親父さんは元気?」
「いつも通りじゃない? 知らんし」
「なら良い。今度、飲みに行こうぜって言っておいて」
「うん。でも、遅くならないでね。翌日の家の空気が悪くなるから」
アーヴィンは水のように飲むからな。
それに付き合わされたらべろんべろんになる。
「そりゃウチもだよ。エリック、メアリーちゃんは元気か?」
アーヴィンが聞いてくる。
「元気だよ。今日も元気にカトリーナと森に行った」
「あー、昨日から冒険者だっけ? 心配だねー」
「別に。好きにすればいい」
「ふっ……」
鼻で笑うな、アン。
「ははっ、娘を持つと大変だな。ウチは男で良かった」
「お前のところの悪ガキは元気か?」
「それがびっくり。軍に入りたいんだと」
そりゃびっくりだ。
「親父の影響か?」
「知らね。一度、親父の偉大さを教えてやったからかな?」
息子をしばいたか。
「偉大すぎて相手にならんだろ」
「本気でやってねーよ」
当たり前だ。
「ウチは冒険者だよ。店を手伝うか、どっかに嫁にでも行ってほしいね」
嫁はまだ早いけど。
「嫁に行くって言ったら反対するよな?」
アーヴィンが笑いながらアンジェラに聞く。
「するする。絶対にする。徹底的に調査して、少しでも粗があったら大反対」
そんなことせんわ。
「うるせーなー」
「はははっ、それにしてもメアリーちゃんが冒険者ねー。あんなに小さかったのに時が経つのは早いな。いきなりお前が子供を連れてきた時はびっくりしたもんだったが」
俺は戦争の後、魔道具を作りながら路銀を稼ぎ、この町に来た。
どうしてもアーヴィンが気になったからだ。
その時にアーヴィンが勧めてくれたからこの町に住みつくことにしたし、店を出す時も協力してくれた。
いや、アーヴィンだけじゃない。
この町の多くの人が助けてくれた。
特に女の子の育て方なんか知らなかったから本当に助かった。
「感謝してるよ」
「そりゃ俺のセリフだ。お前らの分まで金をもらったし、足まで作ってくれたじゃねーか。また歩けるようになるとは思わなかったわ」
天に旅立ったビルとローランはもう帰ってこない。
でも、アーヴィンはどうにかしないといけないと思ったのだ。
幸い、義足というものがあるのはわかってたし、試行錯誤の上で完成した。
「別にいい。正直、流されてお前に金を譲ったところがあるし」
他の連中に乗っかった感じ。
あとは勢い。
戦地を離れ、メアリーとラシェルと共に近くの町に着いた後、途方に暮れてめっちゃ後悔したもん。
「お前、そういうぶっきらぼうなところは全然変わらないな。アンジェラちゃん、苦労するかもよ?」
「私、良い女だから大丈夫」
「じゃあ、大丈夫だ」
ふん。
「ほら、調整は終わったぞ。さっさと仕事に戻れ」
アーヴィンに義足を着ける。
「けっ、おっさんのツンデレは流行んねーぞ」
アーヴィンはそう言って立ち上がった。
「俺はクールなんだよ」
「そんなに目を腫らして何を言ってんだ?」
うっせ。
「昨日、目に虫が入ったんだよ。アーヴィン、冒険者になって、メアリー達とパーティーを組まないか?」
「無茶言うな。俺は軍属だぞ。軍は副業が禁止なの。それにそういうのは同世代で組むもんだ」
まあ、アーヴィンじゃ保護者感がすげーしな。
「そっか。じゃあ、帰れ」
「はいはい。あ、そうそう。お前、フルフェイス・マスクマンって知ってるか?」
ん?
なんでその名前が?
「何だ、それ?」
「昨日、町に現れた謎のマスク野郎らしい。めちゃくちゃ怪しいって噂になってるぞ」
「ふーん。俺の耳には入ってないな。今日はお前が最初の客だし」
「そうかい。ほどほどにしろよ。じゃあな」
アーヴィンがそう言って帰っていったのでアンジェラを見る。
「親御さんが何か言ってたか?」
「うん。夕食の時に怪しいのがいるから気を付けろって」
本当に噂になってるのか……
「俺が守ってやるよ」
「その不審者がエリックでしょ」
アンがご機嫌に笑う。
「それは仕方がないんだよ」
まあ、冒険者登録はしているし、兵士に何か言われても身分はギルドが保証してくれるだろう。
「何が仕方がないかわからないけどね。さて、仕事、仕事」
俺達は仕事をしていく。
その間にも客が来て、注文していくし、簡単な修理の依頼もあった。
これも最初は大変だったが、子供の頃からよく遊びに来て、仕事を手伝ってくれたりもしたアンジェラが正式にウチの従業員になってからは楽になったものだ。
仕事をしていき、昼になったので昼食を食べる。
そして、午後からも仕事をしていくと、15時前にはメアリーがカトリーナと共に帰ってきた。
「ただいまー」
「おかえり。早かったな」
「まあねー。今日は軽めにして、作戦会議」
まあ、そうやって確認していくのは良いことだ。
どんな職種でも何も考えずに突っ込んだら失敗する。
「おじさん、お邪魔します……」
カトリーナが消え入りそうな声で挨拶をしてくる。
「いらっしゃい。メアリーが迷惑をかけてないか?」
「かけてないよー」
お前には聞いてない。
「大丈夫です。私もやってみたかったことですし、メアリーちゃんは頼りになりますから」
カトリーナが冒険者をねー……
てっきり、メアリーが強引に誘ったのかと思っていた。
「エリックー、そういえば、アンジェラちゃんは? 配達か何か?」
「あ、そういえば、アンジェラさんがいませんね」
2人が店の中を見渡す。
「奥でケーキを焼いているぞ。タイミングが良かったな」
昨日はマイナス50点で焼いてくれなかった。
「おー、ラッキー! アンジェラちゃん、良いことがあったんだな」
「アンジェラさん、わかりやすいもんね」
そうか?
「アンジェラちゃーん、ただいまー」
「お邪魔します……」
2人が奥の住居スペースに入ったので仕事を再開した。
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