第056話 俺、弱いんだ……
ランドルさんに水筒の技術を売って、数週間が経った。
その間、徐々に客の数も減ってきており、店もかなり落ち着いてきている。
予想より早く落ち着くもんだなと思っていたが、ランドルさんから王都で水筒を早速、売りだしたというお礼の手紙が届き、納得した。
「いやー、キッチンが綺麗だし、洗い物も捗るわ」
夕食を終え、アンジェラがご機嫌に洗い物をしている。
水回りの改修を終え、キッチン、風呂、トイレなんかが一気に綺麗になったのだ。
「……良かったなって言っていいもんかな?」
メアリーに聞いてみる。
ここ、アンジェラの家じゃないし、何なら客に洗い物をさせている状況だ。
「さっさと言えるようになればいいんじゃないかな? 私は別に反対しないし」
そうかい。
「風呂に入ってこい」
「そうするー」
メアリーが風呂場に向かった。
すると、洗い物を終えたアンジェラが戻ってくる。
「見てろ。『着替え、着替え』って言って、1分後に出てくるぞ」
予言。
「学習しない子ねー……」
よくやるんだ。
「アンジェラ、これを」
席についたアンジェラに封筒を渡す。
「何これ?」
「ボーナス。今回はかなり儲かったし、お前には随分と助けられた」
「どうも。ありがたくもらっておくわ。大変だったけど、ようやく通常業務に戻りつつあるし、平穏が戻ってきたって感じがするわね」
ホント、そう。
「発明も考え物だな」
自分の才能が憎いぜ。
まあ、思い出しているだけなんだけど。
「さすがはエリックね。今後はやっぱりランドルさんに相談する感じ?」
「そうなるな」
あれからそこそこ手紙のやり取りをしているが、コンロについてもちょっと興味を示していた。
「取引相手に大手が加わったわけか」
「ああ。これはかなり大きい」
この付き合いは大事にしないといけない。
「着替え、着替えー」
髪を下ろしたメアリーが風呂場から出てきて、自分の部屋に行く。
そして、パジャマを持って、再び、風呂場に行った。
「実際問題さ、エリックはこの店をどうしたいの?」
「ん? どういう意味だ?」
「いやさ、もうちょっと大きくしたいとか、2号店を出すとか、王都にも出店したいとか、経営者なら色々考えるじゃない?」
うーん……
「まずもってなんだが、俺はこの町から出る気がないな」
住みやすいし、10年もここにいる。
何よりも子育てなんかに苦労していたところを町の人が助けてくれたし、その恩を返したい。
「そこは嬉しいわね。私も出る気ないし」
アンジェラは魔法使いとしての才もあるし、出るならとっくの前に大きな町に行ってるだろうしな。
「2号店っていうのはちょっとわからん。ウチにはメアリーがいるだろ? あいつが店をやりたいって言うなら2号店を出す協力はする。この町の規模から言えば魔道具店がもう2、3軒あってもいいしな」
北区や西区の人達も東区にあるウチに来ているし、逆に出張することもある。
遠いだろう。
「あの子は冒険者でしょ」
「これはかなり将来的な話だ。冒険者は長くやれる職業じゃない。あいつが冒険者を引退した時に次の就職先のコネがないかもしれない」
冒険者はロジャーみたいにギルド職員になったり、商会なんかの雇われ護衛や警備員、さらには兵士という次の就職先がある。
しかし、全員が全員、そういう職に就けるわけではない。
いかに現役中に名を上げたり、コネを作ったりするかが大事になると思うのだが、その日暮らしの冒険者はあまりそういう考えを持たない。
「まあ、魔道具屋の娘で本人もその資質があるんだからウチがコネよね」
家業があるならそれが一番だからな。
メアリーだって、別に魔道具作りが嫌いなわけではない。
むしろ、暇があれば妙なものを作っている。
「そういうことも踏まえれば2号店も可能性としてはあるって話だ。まあ、先の話だから考えなくていい。あいつが本当に伝説になって、超が付くほどの金持ちになるかもしれないし、そういう上級の男に嫁ぐかもしれない」
ウチの子、バカだけど、可愛いし。
「確かにわからない話よね。想像はできないけど」
そんなもんだ。
俺だって10代の頃はこんな生活を送っているとはまったく思っていなかった。
まあ、俺もそこまで将来のことを考える人間じゃなかったし、そんな余裕もなかったからなんだが……
「店を大きくするっていうのも微妙だな。今でも余裕ある生活を送れるだけの収入はあるし、水筒みたいに一発当たることもある。それで十分だろ。悪いが、俺はランドルさんみたいな商人にはなれん」
どう頑張っても俺はあの水筒を3万ミルドでは売れない。
「うん。エリックはそれで良いと思う」
アンジェラが嬉しそうに頷く。
「頑張ろうぜ」
「ええ。まずは残り2個になっているコンロを明日にでも片付けてしまいましょう」
水筒を作る量が減ってきたので、その分、コンロを作る方に回れた。
なので、予想よりも早くできそうなのだ。
「そうだな。アーヴィンも早い方が良いだろ」
その後も俺達が話していていると、風呂場からホクホク顔のメアリーが出てきた。
「いやー、お風呂が綺麗だと心も綺麗になるねー。アンジェラちゃんも入りなよ。そんでもってカードゲームやろー」
今日はアンジェラが泊まっていくのだ。
「そうね」
「あ、そうそう。その前に相談があったんだった」
ん?
「どうしたの?」
アンジェラが聞くと、メアリーが席につく。
「冒険者の話。私達もさー、結構良い線いってると思うんだよねー」
「カトリーナとシャーリーもEランクになったんでしょ? そう思うわね」
あいつらもランクアップしたか。
まあ、あれだけ動ければおかしい話でもない。
「それでさ、護衛の仕事でもしようかと思っているんだ」
護衛?
メアリーとあいつらが?
「護衛は女性だと厳しいわよ。嫌がる人も多いし、よくトラブルになったりする」
冒険者に詳しくない俺でもそれはちょっとわかるな。
特にメアリー達は若いから舐められたり、言い寄られたりすることもあるかもしれない。
「そこは大丈夫。護衛対象が薬師のベティおばさんなんだよ」
薬屋のベティさんは俺も知ってる。
優しいアラフォーの女性でたまに薬を買いに行くし、同じ商業ギルドに入っているから知己だ。
「あー、薬草取りのお手伝い?」
「そんな感じ。ちょっと森の奥に行くことになるけど、3人いれば大丈夫かなって。ヴィオラちゃんもそう言ってた」
ヴィオラがそう判断したのならそうなんだろうな。
「まあ、いいんじゃない? 護衛は単純に魔物を倒せばいいってわけじゃないから注意よ」
「わかってるよー」
「エリック、どう思う?」
アンジェラが俺に振ってきた。
「何事も経験だし、ベティさんが困っているなら手伝ってやれよ」
「じゃあ、そうするー。アンジェラちゃん、カードゲームしようぜー」
「お風呂入ったらね。エリック、先にもらうわ」
アンジェラがそう言って立ち上がる。
「どうぞ。ゆっくり入れ」
アンジェラが風呂に入り、次に俺も入ると、この日も2人のカードゲームを眺める。
途中でアンジェラが誘ってきたのだが、一戦だけやって、酒を飲むことにした。
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