第049話 マグロ
その後もどんどんと町の人や冒険者がやってきて、水筒を買っていく。
その中で見たことがない冒険者の若者がやってきた。
全身鎧の男でカバンを担いでいる。
「すまんが、この店がローウェル魔道具店だろうか?」
冒険者が聞いてくる。
ウチを知らないってことはやはり外の人間だろうか?
「ああ。そうだが?」
「水筒があるか? 氷が溶けないってやつだ」
「これね」
アンジェラが水筒をカウンターに置いた。
「いくらだ?」
「5000ミルドね」
「じゃあ、これだ」
冒険者は金を払うと、水筒を受け取り、帰っていった。
「見たことがなかったが、町の人間か?」
俺もこの町には10年もいるし、魔道具屋をやっているので知り合いじゃなくても大体は見たことがある程度にこの町の人間を知っているが、すべてを知っているわけではない。
この店がある東の方の人間は知っているが、他の区画に住んでいる人間は微妙なのだ。
「私も知らない人ね。冒険者っぽいし、他所の町じゃないかしら?」
冒険者であるアンジェラが知らないならそうかもな。
「旅の者かな? ウチの水筒の評判を聞いて、買いにきたってところか?」
「そうかもね」
俺達はその後も仕事をしながらやってくる客に商品を売っていくが、昼前には水筒が売り切れたため、入口に【水筒は売り切れ】という看板を立てかけた。
「うーん、アンジェラ、どう思う?」
店に来て、看板を見て帰る客を見ながらアンジェラに聞く。
「知らない人も来てたわよね? 他所の町の人でしょ」
ほとんどが知っている町の人間や冒険者だったが、1割くらいは見たことがない人間だった。
「他所の町でも話題になるかもなと思っていたが、想像以上に早いんだよな」
以前の傘は最初の数週間はこの町の人が買っていき、ひと月経ったくらいから他の町の人間が買いに来ていた。
そして、もうひと月経って、他所の商人にパクられて売り上げが落ち着いた。
「ちょっと判断が難しいわね。部品を大量に仕入れても作る手がないし、最悪は在庫を捌ける前に落ち着くってのも考えられるわ」
水筒は傘とは違って魔道具だし、簡単にパクられるものではない。
しかし、売り上げが良いとなると、他の店も躍起になるだろうしな。
「アンジェラ、やめよう。ウチは町の小さな個人店だ。できることをやろう」
需要があれば作るし、その都度、部品を仕入れるで良いと思う。
大量の在庫を抱えて、収支がマイナスになるリスクを負うべきではない。
それにアンジェラが言うように手が2人分しかない。
メアリーが手伝ってくれたとしても3人分だ。
ずっと休みもなく、残業続きもきついし、今でも十分に儲かるんだからそれで良いと思う。
「そう……うん、そうね。身の程ってものがあるわ。じゃあ、予定通り、今ある材料で作って、それを売りましょう。それでも足りなさそうなら追加で材料を仕入れる感じで」
「ああ」
俺達が方針を決めると、メアリーが帰ってきた。
「ただいまー」
「おかえり」
「ふっふっふ、今日の私は昨日とは違う。わかるかなー? ヒントは成長!」
なんかメアリーがポーズを決めて、ドヤ顔で聞いてくる。
俺とアンジェラはじーっと足から頭まで見た。
そして、最後に胸を見ると、お互いの顔を見合わせ、首を傾げる。
「身長でも胸でもなーい! オーラ! オーラを見て!」
見えるか。
「何かあったのか?」
「私は一皮むけたの! 言うなれば大人の女!」
メアリーがそう言って冒険者カードを渡してきたので見てみる。
FランクがEランクになっていた。
メアリーはこれをオーラで見て感じ取れと言っているらしい。
というか、大人の女って何だ?
それ、他所では言うなよ。
「昇格か。良かったな」
「おめでとう」
俺とアンジェラは昨日、ヴィオラから聞いていたので知っていたが、初めて聞いた感じで拍手をする。
「伝説の1ページがまた書かれてしまった……そうだ! 今日から日記を付けよう! それを将来、本にして、売ろう!」
まあ、日記を書くことは良いことだから止めはしない。
でも、10年後に『私、こんなにバカだったっけ?』って思わないようにな。
「メアリー、川の方はどうだった?」
「風が気持ち良かったね。ピクニックに良いかも!」
冒険は?
「川で泳ぐなよ。川は危ない」
「いや、泳がねーから。私は上品でおしとやかなんだよ」
ツッコミどころだが、否定できなかったりする。
「そうかい。明日からはどうするんだ?」
「東の森! もうちょっとだけ奥に行ってみようかと思ってる」
まあ、良いんじゃないかね?
「頑張れ。Dランクになったらお祝いをしてやる」
FランクやEランクは半人前だ。
Dランクになってようやく一人前らしい。
前にアンジェラに聞いた。
「フライドチキンで良いよ」
「わかった。手を洗ってこい。そろそろ昼にする」
「はーい。あ、そうそう、帰りにアーヴィンに会ったよー」
アーヴィン?
「何か言ってたか?」
「ちょっと話があるんだってー。昼から来るって言ってたけど、こっちから行くって答えたー」
アーヴィンの足のことを考えたのだろう。
優しい子だ。
「それでいい。お前も来い。というか、ラシェルを牧場に連れていってやれ」
「そうするー。よーし、昼ご飯は私が作るから2人は仕事をしておいて。あ、それとカトリーナとシャーリーが水筒のお礼を言ってたよ。買おうと思っていたから嬉しいってさ。それと神父様が来いって言ってるって。あとあと、ヴィオラがさー……」
メアリーはしゃべりながら歩き、話の途中なのにそのまま住居スペースに入っていった。
「足を止めてしゃべれないのか、あいつは……」
「そういう子でしょ。というか、足を止めたらずっとしゃべっているわ」
おしゃべり快活少女だな。
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