第044話 ヒーローの翌日
大量の魔物を倒した翌日。
朝起きると、全身に痛みがあった。
「おー……筋肉痛」
めちゃくちゃ痛い。
やはり久しぶりに森を走り回ると、かなり来るもんだ。
でもまあ、2日後とかに来ないのだから俺もまだ若いのだろう。
なので、この痛みは歳のせいではなく、普段の運動不足だ。
「アーヴィンと神父さんは大丈夫かね?」
アーヴィンは義足だから変なところの筋肉を使ってそうだし、神父さんは俺より年上なうえにもっと身体を動かしてなさそうだ。
「ふう……」
俺達はあくまでも影のヒーローなのでこういうことは隠さないといけない。
そう思い、痛みを何とか表情に出さないように心がけながら起き上がった。
そして、部屋を出ると、裏口から外に出て、ラシェルの世話をする。
「お前も活躍したかったかー?」
ラシェルのたてがみをブラッシングしながら聞く。
すると、ラシェルが地面に落ちているバケツを口で取った。
「はいはい。そんなことよりご飯ね」
ご飯を用意し、バケツに突っ込むと、ラシェルが美味しそうに食べていく。
実に可愛いものである。
「おはよう、エリック」
声がしたので振り向くと、アンジェラがいた。
「おはよう。今日は随分と早いな」
まだ7時前だぞ。
「朝ご飯でも作ろうかと思って。エリックは筋肉痛で大変でしょうし」
この子、ちょー良い女すぎんか?
なんでこんなに気が遣えるんだろうか?
「悪いな。少し動いただけで全身が痛む」
「でしょうね。運動不足すぎよ」
アンジェラが笑う。
「アンジェラは大丈夫か?」
「私はたいして動いてないからね。まあ、それでもちょっと太ももが痛いけど、普通に生活をする分には問題ないわ」
アンジェラは魔法使いだからな。
しかし、そうなると、同じ魔法使いでも常時動いていたというウチの娘は……
「メアリーを起こすか」
「そうしてちょうだい」
俺達は家に入ると、アンジェラがキッチンに向かい、俺がメアリーの部屋に入る。
すると、メアリーがいつものアホ面で寝ていた。
「メアリー、起きろ。朝だぞ」
声をかけると、珍しくメアリーがばちっと目を開けた。
しかし、まったく動かない。
「動けない……自分の身体が自分のものじゃないようだ」
やっぱりか。
「筋肉痛だ」
「筋肉痛ってこんなんだったっけ? 昔、走りまくった時でもこんな痛みはなかった」
メアリーはよく走る子だったからな。
町に来た当初は暗かったが、ラシェルと一緒に牧場に連れていってやったらずっと走っていたし、すぐに表情が明るくなった。
「強化魔法を使えばそうなる。魔力を全身に流し、普通の動きじゃない動きをすれば当然、身体にガタが来るもんだ」
「おーのー……カトリーナを呼んでー」
回復魔法で治るだろうが、教会の連中は昨日の今日だし、忙しいだろうな。
「すぐに治るよ。それに今日は外に出ないんだから頑張れ」
「くっ、この痛みは英雄の痛み……! 町の人を救った伝説の勇者の苦しみなんだっ!」
そうそう。
頑張れ。
メアリーが頑張って起きようとし始めたのでリビングに戻り、テーブルにつく。
「痛っ……でも、これは影のヒーローの痛み」
座る際に痛みが走ったが、これは仕方がないことなんだ。
「何言ってんの? それよりも今日、部品が届くかしら?」
キッチンにいるアンジェラが聞いてくる。
「多分な。まあ、魔石の方を先にやろう」
魔石は昨日の昼に届いている。
そっちの加工をやっていれば部品も届くだろう。
「そうしましょうか……ん? おはよう」
扉がゆっくりと開き、メアリーが顔を歪ませて出てきた。
「アンジェラちゃんじゃん。おはー。ご飯を作ってくれるんだ」
「大変そうだからね。身体は大丈夫?」
「要介護」
メアリーはそう言って、生まれたての小鹿のような足取りで洗面所に向かった。
そして、戻ってきた時には料理ができたので3人で食べる。
「アンジェラ、町の様子はどうだった?」
「まだ朝方だけど、近所のおばちゃん達が井戸端会議で騒がしかったわね。ウチの親も昨日、今日と色々聞いてきたし、軍の発表があるまではまだ落ち着かないって感じかな」
ヴィオラが走り回っていたし、町でも騒ぎになっているんだろうな。
混乱するって感じではないだろうが、平和なこの町では大ニュースだ。
「森は封鎖になるかなー?」
メアリーがアンジェラに聞く。
「調査するだろうからね。でも、2、3日だと思うわよ。冒険者もだけど、山師や猟師が長期間も森に入れなかったら問題だし」
資材や食料が滞るしな。
「そっかー。まあ、ギルドからの連絡待ちだね。店の方を手伝お」
良い子だなー。
「ありがたいが、冒険者の方を優先しろよ? お前らはまだ始めたばかりだから慣れることが大事だ。川の方に行っても良いし、その辺はカトリーナとシャーリーと話し合え」
「なるほどー。動けるようになったら2人と作戦会議かな? 昨日の反省会もやらないといけないし」
明日には治ってるだろうよ。
「そうしろ」
「よっしゃ! 頑張るぞー! でも、今日は店の方だね! ごちそうさま!」
「お粗末様」
「アンジェラちゃん、洗い物は私に任せて! あぅっ!」
メアリーが勢い良く立ち上がったが、涙目で苦悶の表情を浮かべた。
「私がやるから着替えてきなさい」
「要介護」
俺も……
「やってもいいけど、私は痛みがわからないから加減が難しいわよ」
「やっぱりいいや」
うん。
俺もいい。
俺とメアリーは洗い物をアンジェラに任せ、部屋に戻る。
そして、頑張って着替えると、開店準備を始めた。
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