第040話 緊急依頼 ★
「アンジェラちゃん、今日、本当に泊まるの?」
カードゲームをしていると、メアリーが聞いてくる。
「そうね。邪魔?」
「いや、そういうわけじゃないけど、エリックがいないじゃん」
「忙しいんでしょ」
「エリックがいる時に泊まればいいのに」
いないからこそ、あんたの面倒を見ろってことなんだけどね。
「エリックに言われたのよ」
「エリックが誘ったのにいないのかよ……悪い男だ」
「どうかしら?」
エリックは昔からずっと紳士で優しい。
「アンジェラちゃん、好きだねー……もっと良い男が……ん?」
メアリーが裏口の扉の方を見る。
ノックの音が聞こえたのだ。
「来たわね……」
「え? 何が? サプライズ?」
メアリーが首を傾げた。
「いいから出なさい」
「はーい」
メアリーは立ち上がると、裏口に向かい、扉を開ける。
すると、そこにはヴィオラがいた。
「あれ? ヴィオラちゃんじゃん」
「夜分、遅くにすみません。エリックさんは?」
「エリックはアーヴィンさんと神父様と出たわよ」
立ち上がり、ヴィオラに教える。
「あ、アンジェラさん……ここにいたんですね」
何、その何か言いたげな目とにやけた口は?
「ええ。それよりも緊急依頼か何か?」
「あ、はい、そうでした。森の浅いところに大量の魔物がいることが確認されました。町を襲うかどうかはわかりませんが、事が起きる前に軍と冒険者で討伐することになりましたので動ける冒険者は東門の方に向かってください」
エリックの予想通りね。
「メアリー、準備してきなさい」
「え? 私も?」
「伝説を作りなさい」
「よっしゃー!」
メアリーが部屋に走っていった。
「あ、あの、エリックさん達は?」
ヴィオラが聞いてくる。
「さあ? 良い女は男がやることを詮索しないの」
「そうですか……アンジェラさんは変わりませんね。アンジェラさんも出てもらえますよね?」
「だからここにいるのよ。メアリーのお守り」
「わかりました。では、東門へ。私は引き続き、他の冒険者さんに声掛けしてきますので」
ヴィオラはそう言って、走って去っていった。
そのまま待っていると、冒険者服に着替えたメアリーが出てくる。
「いえーい。町のピンチを救うのは誰だ? そう、私! プリンセス・メアリーちゃん!」
「準備できたわね。行くわよ」
「無視は辛いぜ……」
「いいから黙ってなさい」
メアリーの手を引っ張り、家を出る。
そして、そのまま東門に向かうと、すでに多くの冒険者達が集まっていた。
皆の顔を見ると、状況が状況なだけにやはり表情が暗い。
「おー、多い……あ、カトリーナー、シャーリー、夕方ぶりー!」
メアリーが仲間のもとに向かったのでギルマスのもとに向かう。
「ギルマス」
「お、アンジェラか」
「メアリーと共に来たわよ」
「メアリーもか……」
ギルマスが悩みだす。
「実力はあるし、私が見ておくから」
「わかった。エリックは?」
「出てるわね。それよりも軍は?」
この場には冒険者しかいない。
「軍は南門だ。どうやらあっちの方が魔物が多いらしい。俺達も魔物を討伐するが、無茶はするな。すぐに軍が片付けて、救援に来るらしい」
そういう作戦か。
要は時間稼ぎだ。
「わかった。なるべく前には出ないわ」
まあ、魔法使いだし、私は前に出ない。
「わははー! 私にすべて任せればいいのだ!」
メアリーがこわばった顔をしているカトリーナやシャーリーに対し、上機嫌に笑っているのが見える。
「あいつ、心が鉄でできてるな」
普通はこの状況ではもっと緊張する。
実際、ギルマスを始め、多くの冒険者の顔が固い。
「メアリーが笑わなくなった時が私達の最後よ。わかりやすいでしょ」
「まあな。普段はうるさいだけだが、今はあいつが救いだ」
確かにメアリーを見た皆の表情が少し和らいでいる。
底抜けに明るいあの子は時に場の空気を良くしてくれるのだ。
そのまま待っていると、続々と冒険者達が集まる。
この町にこんなにいたのかと思うぐらいだ。
なお、メアリーはずっとうるさい。
「ギルマス」
ヴィオラが走ってきた。
「ヴィオラ、これで全員か?」
「はい。8割といった感じです」
まあ、そんなものだろう。
「十分だ。お前は待機してろ」
「はい。お気を付けて」
ヴィオラはそう言うと、下がっていく。
「諸君! 時間だ! 行くぞ!」
「よっしゃー! 皆の衆、ついて参れ! 一番槍はこの私のものだ!」
皆の足取りが重い中、メアリーが意気揚々と門の方に歩いていく。
「アンジェラ」
呆れているギルマスの言いたいことがわかったのでどんどんと歩いていくメアリーのもとに行き、首根っこを押さえる。
「あんたは後衛。魔法使いでしょうが」
メアリーはどちらかというと接近戦寄りだが、魔法使いは数が少ないので魔法を使えるということだけで後ろだ。
「一番若い私が突っ込んでこそ士気が上がるんだよ! そして、メアリー伝説が始まるんだ!」
「わかったから」
メアリーを引きずって下がらせる。
「わかってなーい! あー、私の伝説がー、手柄を取られるー……ミルオンの町の危機を救った英雄、プリンセス・メアリーを新聞社に売り込む計画がぁー!」
ホント、何を言ってんだろうか、この子は……
「バカは下がってろっての」
あ、ジェイクだ。
「あ、ジェイク! さては私の手柄を奪って、有名になる気だなー!」
「そんなことを考えるのはお前だけだ。アンジェラ、うるせーから下がらせろ」
「やってるわよ」
見てわかるでしょ。
「ギルマス、バカが突っ込む前に行こうぜ」
ジェイクが笑いながら言う。
「そうだな。行くぞ!」
「「「おー!」」」
まあ、メアリーのおかげで士気が上がったのは確かね。
こんなチビのルーキーがやる気満々なのにでかい身体をした男達が臆病風に吹かれたら恥だし。
私達は門を抜けると、少し歩き、森を見る。
「異様ね」
「結構いるなー。カトリーナ、シャーリー、何匹倒せるか勝負しよ」
メアリーが同じくルーキーということで後ろにいる2人に提案する。
「大人しくしてようよ」
「ヒーラーのカトリーナを前に出すわけにいかないでしょ。私はその護衛」
2人は自分の役割をよくわかっている。
「ちぇー」
なんでこの子って、こんなに好戦的なんだろう?
いや、目立ちたがり屋なだけか。
「よし! まずは半分が突っ込むぞ! 残り半分は後衛の護衛だ! 魔法使いや弓を使える奴は援護しろ!」
ギルマスが指示を出し、半分の冒険者を連れて、森に突っ込んでいった。
「援護って言われても森なんだけど……」
メアリーが呆れた表情で見てくる。
「いや、ホントね」
森だから火魔法は使えないし、他の魔法も木が邪魔でどうしようもない。
「仕方がない。もうちょっと前に出よっか」
メアリーは嬉しそうに前に出ていった。
「ハァ……」
行きますか……
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