第038話 相談
森に入ると、浅いところではいつもと変わらない感じがしたのでさらに奥に進んでいく。
「エリック、どう?」
アンジェラが聞いてくる。
「雰囲気がちょっと違うな」
少し歩いたらちょっとした異変を感じた。
「そう? 私はわからないけど」
アンジェラはそうだろうな。
いや、アンジェラだけじゃない。
他の連中もそうだろう。
「森が泣いているようなイメージだ」
「そ、そう? そっかー……ゴホッ、ゴホッ、風邪かしら?」
笑ってんじゃねーよ。
「本当にそういう感じなんだよ。静かだけど騒がしい」
「エリックって詩人なのね……ゴホッ」
笑ってんじゃねーよ。
「そんな良いもんじゃない」
これは戦場で培った感性だ。
「で? どうすんのさ?」
「もうちょっと奥に行ってみよう」
「絶対に守ってよね。エリックが王子様で私がお姫様」
どう考えても俺は王子様っぽくないけどな。
あとギャルなお姫様もどうだろ?
「プリンセス・アンジェラか?」
「だっさいからやめて」
それを自称するウチの娘よ……
ため息をつきながらも奥に100メートルくらい進んでいくと、立ち止まった。
「どうしたの?」
アンジェラが聞いてくる。
「アンジェラ、今日はウチに泊まれ」
「う、うん…………エリックは?」
ちょっと頬を染めたアンジェラだったが、すぐに何かに気付き、ジト目になる。
「俺はアーヴィンのところに行く。メアリーを頼むわ」
「アーヴィンさん? ちょっとマズい感じなわけ?」
「まだわからん。そのための調査をしたいが、夜だな。森は夜に真の姿を見せるんだ」
多くの獣、魔物は夜に活動が活発になる。
「ふーん、まあいいわ。帰ってくる感じ?」
「何もなかったらな」
「了解。メアリーも明日は休みだし、2人で遊んでおくわ」
「頼む。帰るか」
俺達は来た道を引き返し、森を出た。
「ねえ、今日はいっそ店を休みにしない?」
アンジェラが提案してくる。
「休み? まあ、昨日で当面の仕事を終わらせたし、今日は特にやる予定はないが……」
「夜に出るんでしょ? じゃあ、休んでいた方が良いでしょ」
まあ、それはそうだな。
正直、別に苦ではないし、それくらいでは疲れないが、俺達は明日からの仕事が待っている。
「そうするか」
「じゃあ、クッキーでも焼くね」
家に帰らないのか……
まあ良いかと思いつつ、歩いていくと、前方にメアリー達が見えた。
「迂回するか?」
「もう遅いわよ。完全に視認してる」
うん。
3人共、俺達を見ているな。
そのまま歩いていくと、お互いが立ち止まった。
「エリックさん、アンジェラさん、おはようございます」
「おはようございます」
カトリーナとシャーリーが挨拶をしてくる。
「はい、おはよう」
「おはー」
俺とアンジェラも挨拶を返した。
「迂回は?」
メアリーがジト目で聞いてくる。
「お前らが遅いからだ。仕方がないだろ」
「ふーん……何?」
メアリーがカトリーナとシャーリーを睨んだ。
「いや……」
「睨むなよ……」
本当に俺とアンジェラを見るメアリーを見る気まずそうな顔なカトリーナとシャーリーを見るメアリーだ……
「カトリーナ、シャーリー、今日はほどほどにしておけよ」
「わかってます」
「早めに上がることになってますので」
大丈夫そうだな。
「じゃあ、頑張れよ。メアリー、2人に迷惑をかけるなよ」
「かけなーい」
メアリーはそう言うと、カトリーナとシャーリーと共に森の方に歩いていく。
それを見送ると、俺達も町に戻り、家に向かった。
「あれ? アーヴィンさんと……げっ、神父様だ」
店の前にはアーヴィンと神父さんがおり、それを見たアンジェラが嫌そうな顔をする。
「アーヴィンはわかるが、神父さんもか……」
「エリック、私は昼と夜のご飯の買い物に行ってくるから」
アンジェラはそう言って、ウチをスルーして歩いていった。
仕方がないと思いながら2人のもとに向かう。
「おー、帰ってきたか」
アーヴィンはいつものへらへら顔だ。
「エリック、アンジェラは?」
神父さんが睨んでくる。
「買い物に行きましたね。昼食と夕食分です。冷蔵庫に食材がありませんでしたので」
「『げっ』って聞こえていたよ」
地獄耳だなー。
聖職者にそんな表現を使っていいのかはわからんが。
「あまりお祈りが好きじゃない子でして」
「君もな」
うん……
「それよりもどうされたんです? 今日は店の方を休みにしようと思っていたんですが」
「アーヴィンと同じ用件だね」
そうですか……
「では、中にどうぞ」
店の扉を開けると、看板を【準備中】にしたまま、2人と共に中に入る。
「エリック、森のことは聞いてるな?」
早速、アーヴィンが確認してきた。
「ああ。昨日、メアリーから聞いた。そんでもって、さっきアンジェラと共に軽く森を見てきたぞ」
「どうだった?」
「嫌な予感がした。昔も感じたやつだ」
「そうか……」
アーヴィンが腕を組んで悩みだした。
「軍の方は?」
「会議をしているが、中々な……実を言うと、例の遠征実習で兵が半分いない」
北の森に行ったのか……
「呼び戻せんか?」
「そこまでのことなのかという判断が付かないといった感じだな。遠征実習もかなり前から計画され、安くない予算が出ている」
難しいところだな。
今はまだ魔物が多いってだけだし。
「エリック、君はどう思う?」
神父さんが聞いてくる。
「やはりオークが気になります」
「例の山火事か……」
神父さんも同じ考えのようだ。
「はい。山火事でオークの巣が燃え、逃げてきたオークが移動中といったところではないですかね?」
そのオークより弱い魔物はオークから逃げる。
その弱い魔物が活発に動いているから増えて見えるんだ。
「私もそう思う。アーヴィン、君は?」
神父さんがアーヴィンにも確認する。
「俺もそう思います。というのも、同じことがノクス戦争でも起きたんです」
「起きたな……」
懐かしい。
「どんな感じだったのかね?」
「俺達の主戦場はノクス地方の森でした。森の中で魔法や火を使ったのでオークなんかの魔物が混乱し、逃げ出したのですが、その道中で補給部隊が襲撃されたんですよ。それでかなりの被害が出ました」
その結果、食料や武器が滞った。
森の中なので食料は何とかなったが、武器がなければ戦えず、どうしようもなかったのだ。
「なるほど……戦時における魔物の被害はけっして少なくないからな」
それはそう。
こっちは相手の兵士を倒す想定でいるため、魔物相手には対処が難しくなるケースが多いのだ。
「アーヴィン、俺は今夜にでも森の様子を見てこようと思っている」
「まあ、森は夜だわな。俺も行こう」
「その足で大丈夫か?」
ちらっと足を見ながら確認する。
「1日くらいなら問題ない。それに森は慣れてる」
確かにな。
「エリック、アーヴィン、私も行こう」
「「え?」」
神父さんの意外な申し出に俺とアーヴィンが声を揃えた。
「何かね?」
「いや、大丈夫です?」
「ご老体には厳しいのでは?」
ホント、ホント。
「誰がご老体だ。私はまだ38歳だぞ」
そういやそうだったな。
偉そうだからかなり上と勘違いしてしまう。
「それにしても大丈夫ですか? 夜の森ですよ?」
「森での戦闘経験もあるし、夜も問題ない。詳しくは言えないがね。私は君らと違って、円満退職をしている身だから軍事機密は守らなければならない」
俺はともかく、アーヴィンも円満だろ。
いや、そもそもまだ軍職か。
「ここにいるのは皆、戦争経験者ですから大丈夫でしょう」
「どうだか……君らは家族にべらべらとしゃべっているようだが……」
ウチは仕方がない。
当時5歳だったメアリーは明確にあの時の記憶があるのだから。
アンジェラはまあ……
「神父様、説教はその辺に……」
そうだ、そうだ。
「そうかね? まあいいだろう」
「ふう……エリック、何時に動く?」
アーヴィンが聞いてくる。
「21時くらいにここに来てくれ」
「わかった。神父様、そういうことですので」
「うむ。では、その時間に」
今夜の予定を決めると、アーヴィンと神父さんが帰っていく。
そして、しばらくすると、アンジェラが帰ってきたので仕事をせずに一緒に過ごした。
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